地震防災総合研究特別研究委員会
(第5回)危険度・耐震安全性評価小委員会議事録
A.日 時:
2002年1月19日(火) 14時00分〜17時00分
B.場 所: 建築学会306会議室
C.出席者: 主査:翠川三郎
幹事:濱田信義、片岡俊一、池田浩敬
委員:小谷俊介、源栄正人、諸井孝文、富松太基、
山根尚志、吉田克之、
石井 透 井上 豊 (敬称略)
(記録担当:池田浩敬)
D.提出資料
資料No.05-01 「耐震メニュー2001」に関する検討(片岡幹事)
資料No.05-02 本小委員会のホームページ(Top Page)
資料No.05-03
地震情報の公開と正しい理解(翠川主査)
資料No.05-04
兵庫県南部地震特別研究委員会特定研究課題2
連続シンポジウム
第6回「性能明示型耐震設計に向けて」(1997.10)資料
資料 第4回 危険度・耐震安全性評価小委員会議事録(案)
E.審議事項
1. 前回議事録の確認
池田幹事より説明し、承認された。
2. 「耐震メニュー2001」の筋立てに対する再検討について
資料No.05-01に基づき、片岡幹事より検討結果の説明があった。
「耐震メニュー2001」の筋立てについて、以下のような疑問点・課題が指摘され、それに関連して
議論がなされた。
(1) 安全レベルに関する疑問点・課題
(ア)
安全レベルを「供用期間中に重損以上の被害が生じる可能性がある地震動に遭遇する確率」
によって定義しているが、この表現の中には、設計の対象とする「地震動の強さ」とそれに対する
「被害の程度」の両者が含まれていて分かりにくい。当該地震動に「遭遇した」建物は「必ず重損」
となるのか。
→この定義においては、「遭遇すると必ず重損」となる。
→そうなると、安全レベルAでも、供用期間中に重損する確率が5%というのは、かなり高い値ではないか。
→日常の他のリスクと比べても確率が高く設定されていると思う。
→元々は、「選んだ地震動に対して、重損にならないように設計しよう。」という考え方が発想の原点である。
→定義においては、建物被害との関連には触れず、「検討対象地震動に遭遇する確率」とした方が分かり
やすいのではないか。
(イ)
安全レベルの設定と現行の建築基準法との対応はどうなっているのか。
→建築基準法の2次設計のレベルは、ここでいう「中損」から「重損」に入ったところくらいではないか。
このメニューでは、「中損」にとどめるというのが目標なので、建築基準法の2次設計のレベルより
少し厳しくなっていると思う。
→今の耐震設計で保証している強さはその程度かもしれないが、余力の関係もあり実際の建物はもっと
強度が出ており、地震事例においてもそれ程は壊れていない。それに比べると、このメニューでは、
安全レベルAでも遭遇確率が高いのではないか。
→しかし、性能設計においては、互いに数値的なもので比較しないと実際には分からない。
(ウ)
人的被害に関する重損の定義が明確でない(「人命被害がほとんど生じない」の“ほとんど”とは、
どの程度の確率か?)
→表現の中に出てくる言葉と数値との対応が必要ではないか。
→設計のための被害程度の段階分けとしては、この程度の区分で良いのではないか。
→現状の被害想定手法では、人的被害は建物被害に基づき想定されている場合が多いが、
このメニューでは地震動と人的被害を直接結び付けて評価しようとしているのか。→このメニュー
の中では、人的被害の評価まではしていない。また、現状では、人命・身体に関する段階分けと
他の項目の段階分けが直接連動している訳でもない。
(2) 耐震等級に関する疑問点・課題
(エ)
地震動強さと設計地震力をどのようにつなげるか
→地表加速度だけでなく、応答倍率が設定されないと設計が出来ない。
→この耐震メニューは、そこまでを対象としていない。それは、個々の建物を設計する際に設計者が
設定すればよいことになっている。本メニューは,設計の対象とする地震動の強さを選ぶための
ものである。
→耐震設計法を考慮しないと、地震動強さを表す指標が決まってこない。
→本メニューは、発注者と設計者のコミュニケーション用のツールである。従って、一般の人への
分かりやすさという意味から地震動強さの指標としては、震度と加速度を用いた。
→このメニューで用いているのは、説明によるとフィルター波形の水平ベクトル合成最大値である。
この値を設計用地震動強さの指標にどう変換するかが問題である。
→このメニューの耐震等級の設定表に出てくる加速度400galというのは、地震計が拾ってくる400galとは
異なっていると思う。例えば低層の建物では、地表加速度800galくらいでも実際に新耐震の2次設計に
効いてくる実効的な加速度としては400galくらいであり、これを経験的に速度の指標に変換すると
40kine程度となる。
→本耐震メニューの「対象とする建物」をある程度絞って考えた方がよいのではないか。
→例えば、超高層を対象とした場合は、周期がないと設計に反映できない。
(オ)
地震危険度の再現期間の換算計算が全国一律では不適当でないか
→本耐震メニューでは、1993年に出された学会の荷重指針を前提として組み立てられているが、
指針自体が見直されたり新しい知見が出た場合は、それに入れ替えれば良いという考え方である。
→こうした点については、強震動予測地図プロジェクトの進展に合わせ、新しい知見を入れて行けば
解決は可能かと考えられる。
(カ)
被害程度区分の定義のついては、既存の他の被害区分との関係について見ておく必要があるの
ではないか。
→例えば被災後に、自治体が経済的な視点から被害程度を評価するために行う全壊・半壊といった
被害程度の判定基準(内閣府の指針等)とはどういった関係にあるのか。
→設計段階で想定する被害程度の区分と実際の被害程度とは、余力の関係もあり当然違ってくる。
→評価の目的が違うので、定義は異なって当然であるが、既存の基準との関係を把握しておくことは
必要である。
3.
既存の耐震メニューのレビューについて
資料No.05-04に基づき、吉田委員より、大手建設会社・設計事務所等の既存の耐震メニュー
についての説明があった。
(ア) 耐震グレードのランク分けは、S、A、B、C、D等の4段階程度の区分が多い。
(イ)
耐震性能のグレードを対象とする地震動の大きさと被害の程度であらわしている点では皆ほぼ
同様である。
(ウ) 既存の耐震メニューと「耐震メニュー2001」が異なっている点は、既存の耐震メニューでは、建物の
供用期間や地域特性があまり考慮されていない点である。
(エ)
また、逆に既存の耐震メニューの方が、「耐震メニュー2001」に比べ、その後の耐震設計との
繋がりが直接的に明示されている点である。
次に、山根委員より、日建設計の1999年度版の新しい耐震メニューについての説明があった。
(オ)
@被害程度区分に基づく耐震目標、A対象とする地震動強さの目安、の2つに基づき耐震グレード
区分の設定を行っている。
(カ)
対象とする地震動強さについては、中地震・大地震の2段階に設定している。
(キ)
高層建築物等の設計においては、地震動の周期特性が反映されている応答スペクトルのレベルや
卓越周期も考慮して入力地震動の評価を行っている。
(ク)
建築基準法等の規定値が、計画地において評価した地震動レベルを上回る場合には、基準法等の
レベルにより設計を行うことになる。
(討議)
(ケ) 日建設計のメニューでは、レベル1(中地震)、レベル2(大地震)の2つの地震動に対する被害レベル
の対応を設計目標として設定しているが、「耐震メニュー2001」では、1つの地震動に対する中損限界
のみを1点で定めている。
(コ) 「耐震メニュー2001」では、耐震等級の設定表にあるように、複数の地震動の大きさに対する被害
程度の対応は、一意に決まってしまうが、複数の地震動のレベルごとに設定できるようにした方が
良いのではないか。
4. 2及び3のまとめ
(ア) 「耐震メニュー2001」の適用手順の基本的な流れはこれで良いが、1つ1つの箱の中の表現方法に
ついては、改善が必要である。
(イ)
特に、安全レベルの設定に関しての表現方法については、「地震動の大きさ」と「被害の程度」を
一緒に設定していて分かりにくいなど、改善すべき点が多い。
(ウ)
耐震目標の設定の際に、地震動強さのレベルを1点で設定するのか、レベル1、レベル2といった
複数の点で設定した方が良いのかといった事についてもさらに検討が必要。
(エ)
安全レベルの設定や耐震等級の設定において、他のリスクの発生確率(許容確率)や建築基準法
のレベルといった既存の“相場”との比較を行っておく必要がある。
(オ)
耐震メニューの対象とする建物を絞った方が良い。(例えば、「超高層」を対象とするとなると
どうしても周期の情報を入れざるを得ない。「耐震メニュ2001」は中層のオフィスビルをイメージ
しているように思える。)
5. その他
(ア) 資料5-2は、事務局が立ち上げた本小委員会のホームページのTop
Pageである。現在は、活動主旨、
委員名簿、議事録、シンポジウムのお知らせが載っているが、さらに、近々前回(第1回)の公開研究会
の記録も載せる予定である。何か、当該ホームページの活用の仕方等についてのアイデアがあれば
是非出して欲しい。
(イ) 資料5-3は、2月14日の講演会の翠川主査担当分のレジュメである。公開されている地震情報の
紹介及びその正しい理解についての考察を行っている。震災事例のデータから見た震度6弱での
全壊率は、実際にはかなり低い。それに比べると「耐震メニュー2001」の安全レベルB(一般水準)の
10%の値はかなり大きく感じる。こうした実態から耐震メニューの内容を一度チェックしてみる必要
がある。
→しかし、震度と建物被害率の関係は、各地震事例毎に大きなばらつきがあり、比較する事例によって
結果は異なる。
→ばらつきも考慮した上で、比較する必要がある。
6. 次回日程と次回までの作業について
(ア) 次回を2002年4月2日(火)14:00〜17:00で開催することとした。
(イ)
各自以下の内容を次回小委員会までに検討し持ち寄ることとなった
「耐震メニュー2001」の改善案として、
@ 安全レベル設定に関する具体的な修正案
A
耐震メニューの対象とする建物(構造・階数・用途等)についての考え方
(対象を絞るあるいは分ける。その具体的な絞り方、分け方。等)
以上