地震防災総合研究特別研究委員会
危険度・耐震安全性評価小委員会(第6回)議事録


A.日  時  2002年4月2日(火) 14時00分〜17時00分
B.場  所  建築学会307会議室
C.出席者  主査:翠川三郎
        幹事:濱田信義、片岡俊一
        委員:源栄正人、諸井孝文、山根尚志、吉田克之、井上 豊,石井 透    (敬称略)
                                                        (記録担当:片岡俊一)
D.提出資料
 資料No.06-01 「耐震メニュー2001」の改善案(池田幹事)
 資料No.06-02 「耐震メニュー2001」の改善についての私見(片岡)
 資料No.06-03 耐震メニュー2001について(翠川主査)
 資料No.06-04 重層建築物の耐震設計を対象とした地震動の強さを評価する簡便な指標としての地震動最大値
          (小林啓美,長橋純男),(提出者:翠川主査)
 資料No.06-05 耐震メニュー2001における安全レベルの設定に対する私見(諸井委員)
 資料No.06-06 新しい耐震メニューの作成にあたってのメモ(源栄委員)
 資料No.06-07 Vision 2000: A FRAME WORK FOR PERFORMANCE BASED ENGINEERING OF BUILDINGS
           (SEOAC Vision 2000 committee),(提出者:吉田委員)
 資料No.06-08 第6回「震災対策技術展」関連講演会,どう活かす地震の教訓−地震災害の軽減に向けて−開催報告
 資料 第5回危険度・耐震安全性評価小委員会議事録(案)
 
E.審議事項
1. 前回議事録の確認
 片岡幹事が読み上げ,一部語句の修正をした後に承認された.

2. Vision2000について
 資料No.06-07に基づき,吉田委員からVision2000の紹介があった.
(a) Vision 2000 はPerformance based designを目指したもので,構造性能の客観的な表示と構造物の重要度に応じた
  推奨性能を示すものである.
(b) 構造体,非構造部材,収納システムなど広い領域に渡って性能レベルと目標が記載されている.
(c) 施工品質の保証についても記述がある.
(d) 「耐震メニュー2001」を作成する際には,積極的に参照してはいないが,結果的にかなり近いものになっている.
(e) 前回(第5回小委員会,資料No.05-04)紹介した日本の大手建設会社・設計事務所の耐震メニューには大きな影響
  が有ったものと思われる.
 紹介に引き続き討議を行った.
(ア) 地震動のレベルと構造性能がマトリックス状に示されているが,実際の設計の際には,ある特定の地震動レベルの
  みを用いて行うのか?
→詳細は不明だが,構造物の重要度毎に記述があり,それをまとめたものがマトリックスとなっていることから,別個に設
  計を行っている可能性が高い.
(イ) 被災度区分と併せて表示されている点,性能マトリックス内に建物用途が記述されている点は良い表現である.
(ウ) 地域性やサイト増幅特性の導入はどのようになっているのか.
→USGSが作成しているハザードマップ等の情報を用いるものと思われる.

3. 「耐震メニュー2001」の改善案について
 資料No.06-02〜06-06に基づき,各委員の考えが紹介された.
(1) 資料No.06-02について
 池田幹事が欠席したため代読された.「耐震メニュー2001」の表7以降を充実されるという提案に関して次のような意見
 があった.
(ア) 表8〜11を構造・用途毎に作成することは実際に利用する際に便利である.
(イ) 例としては重要度が異なるものを表に入れた方が分かりやすいのではないか.
(ウ) 表11「生活・業務の維持」は,いわば Vision 2000 で提案された ”Operational” のレベルを記述していることになる
  ので,より充実させる必要があるだろう.
(エ) 表7以降は,専門家向けなので量が増えても構わないのではないか.
(2) 資料No.06-03について
 安全レベルの多段階設定を行わないという意見について次のような討議があった.
(ア) 強い地震動が頻繁に起こる地域を考えると,安全レベルは複数あった方が良い.
(イ) 地震時には,建築の挙動が強い非線形性を示すので,地震動レベルに応じたクライテリアがあった方が良い.
(ウ) 建築基準法では,構造性能を2段階で規定していることを前提とすると,「耐震メニュー」において1つのレベルを
  設定すれば,計3つのレベルで性能を規定していると考えることも可能である.
(エ) 重損以外に崩壊を押さえるレベルの設定は出来ないのか?
→現状の技術では崩壊を計算で追うことはできないので,設定は難しい.
(3) 資料No.06-03,04について
 資料06-03については以下の追加説明があった.また,構造物の周期と地震動指標との相関について,資料06-04を
 用いて説明があり,中低層建物に対しては計測震度を指標とするのが良いとの意見が紹介された.
(a) 建築基準法(2001)に対応する計測震度は,最大加速度と最大速度との積から算出したものである.
(b) ここでの「全壊」は,罹災証明用のものであり,経済的に考えて50%程度以上の被害を示している.
(c) 震度階の説明のうち,東京都防災会議の木造建物に関する解説は,「耐震メニュー2001」と対応している.
(d) 全壊率の欄で数値に幅があるのは,震度についても幅があるからである.
(4) 資料No.06-05について
 以下のような追加説明があった.
(a) 「耐震メニュー2001」の評価手順を逆に行い,地震動を推定すると,耐震等級3級では,最大加速度480cm/s/s,再現
 期間438年の超過確率10.8%となり,現状の耐震設計の考え方とほぼ対応する値になった.
(b) 設計地震動レベルと実際の被害との関係を明確にすれば良いと思われるが,容易なことではない.耐震等級を定義す
 る被害クライテリアを実際の被害に対応するものにすると,実用されている耐震設計とはかけ離れたものになる可能性
 が高い.
(5) 資料No.06-06について
 以下のような追加説明があった.
(a) 資料No.06-06は,新しい耐震メニューを作成するに当たっての留意点を記述したものであり,詳細な内容については
 資料を作成する用意がある.
(b) 留意事項のうちの損傷度曲線は,地震動の強さと建築の損傷額との関係を示したものである.
(c) 最終目標は,建築の供用期間中の耐震コストの削減にあると思う.
(d) “Incentive Design” は,日本学術会議メカニクス・構造研究連絡委員会で用いられた言葉である.
(6) 「耐震メニュー2001」の改善に関する総合討議
 以上の資料およびそれまでの議論をもとに,改善に関する総合的な意見交換を行った.主要な意見は,以下のとおり.
(a) 重要度は安全レベルに含まれているのではないか.
(b) 改善メニューは,概念を提案するのか,具体的なものを提案するのかをもう少し議論した方が良いと思われる.私見
 (山根委員)では,委員会としては前者のスタンスが良く細部に渡って技術内容を示すことはないのではないか.「耐震
 メニュー2001」は,概念を示しているように思われる.示した概念に対して,例えば学会の荷重指針を当てはめて具体化
 したという理解で良いのではないか.また,設計レベルは,設計者とクライアントの合意で決まることなので,例題は例
 題として扱うという考えは十分成り立つ.
(c) 設計レベルが,設計者とクライアントとの合意で成立するにしても,そこに至るプロセスを客観的に表したものが,耐震
メニューであろう.
→ 一方では,感覚的なものも必要である.
(d) ガイドラインを呈示するだけでも良いが,典型的なものを例題として示すことが良いと思われる.
→ 例であることを明らかにする必要もあるのでは.
(e) 耐震メニューは理念と考えれば対象建物を絞る必要はないと思われる.
(f) 建築の設計を考えると最大加速度と最大速度の両者あるいはスペクトルが必要と思われる.また,地域特性を生かす
 となると,周期特性を表すことができるスペクトルが望ましい.
(g) シナリオ地震を考えるとサイトに依存する地域もあるので,耐震メニューの枠組みに地域特性を入れることも考える必
 要がある.
(h) 供用期間についての指摘が無かったが,供用期間が短くなると見かけ上安全レベルが高く評価されるので,これにつ
 いても検討が必要であろう.
(i) 供用期間については,長い場合が問題ではないか.また,いつから供用期間を考えるかを明示する必要もある.
(j) 技術的問題と方法論とを切り分けて議論する必要がある.
(k) 設計手順及び外力を大胆にモデル化する必要があるのではないか.学術的な追求ばかりでは,前に進まない.

4. その他
資料06-08は,前回紹介した講演会の報告である.当日は盛況であったとのこと.また,来年度もこのような企画を催す
予定であることが紹介された.

5. 次回日程と内容
(a) 次回を2002年6月20日(火)14:00〜17:00で開催することとした.
(b) 次回は以下の資料を提出願い,審議することした.
・資料06-06の拡充資料(源栄委員)
・「耐震メニュー2001」改善に関する意見(山根委員,井上委員)
(c) 今回出席されていない委員については「耐震メニュー2001」の改善案の提出を求めることとした.
                                                                   以上