地震防災総合研究特別研究委員会
危険度・耐震安全性評価小委員会(第9回)議事録


A.日 時 2002年10月11日(金) 14時00分〜17時30分
B.場 所 建築学会地下1階会議室
C.出席者 主査:翠川三郎
       幹事:濱田信義、片岡俊一、池田浩敬
       委員: 井上 豊、諸井孝文、山根尚志、石井 透                  (敬称略)
                                               (記録担当:池田浩敬)
D.提出資料
 資料No.09-01 地震防災総合研究特別調査委員会(第V期)(第5回)議事録(案)
 資料No.09-02 シンポジウム等の案内(@都市防災・復興方策検討小委員会第3回公開研究会
          (11/1)(危険度・耐震安全性評価小委員会協力)、A危険度・耐震安全性評価小委員
          会公開シンポジウム(11/25)、B第7回「震災対策技術展」関連講演会(神戸・1/31)、
          C同(横浜・2/7))
 資料No.09-03 確率論的地震同予測地図の耐震メニューへの適用性(諸井委員)
 資料No.09-04 耐震メニュー2001の見直しについて(翠川主査)
 資料No.09-05 耐震メニューを表すパラメータ間の関係(諸井委員)
 資料No.09-06 安全レベルについて(片岡委員)
 資料No.09-07 各評価指標に関する検討(山根委員)
 資料No.09-08 「耐震メニュー」の見直しについて(濱田委員)
 資料No.09-09 地震動入力レベルと建築物のグレード(耐震等級)に応じた目標性能と各設計目標性能
          (設計クライテリア)の考え方について(石井委員)
 資料 第8回危険度・耐震安全性評価小委員会議事録(案)
 
E.審議事項
1. 前回議事録の確認
 片岡幹事より説明し、一部語句及び出席者の修正を除き承認された。

2. 地震防災総合研究特別調査委員会前回議事録(案)について
 資料No.09-01に基づき、翠川主査より説明があった。
・「災害発生から復興に至る学会行動計画の策定」特別調査委員会より、協力要請があり、前回委員会
 終了後に行われた「東京都における震災復興事前準備の現状」に関する東京都との意見交換会に当
 該委員会委員の一部が出席した。震災が起こった際に、東京都の復興対策に学会として、どのような
 協力が出来るかといった事についても話し合われたが、特に結論には至らなかった。
3. 地震防災総合研究特別調査委員会報告会(2003年3月19日)について
・ 当日は、主査より全体的な報告をした後に、委員より耐震メニューの検討に関する説明などをするとい
 った形式になる。詳細は後日検討することとなった。

4. 「耐震メニュー2001」の見直しについて
 山根委員から、資料9-7に基づき説明があった。
・ 本資料では、前回の議論を受け、「安全レベル」という概念を無くすのではなく、その概念を若干変更し
 て残すという方針で再検討したものである。
・ 耐震メニュー2001の安全レベルの定義表(表1)のうち、摘要欄のみを定義として残し、その状態を「地
 震動レベル」(地震荷重)と「建物耐力」との差の開き具合(=余裕度)を指標として表すことを考えた。
 開きが大きければ安全レベルが高いことになる。
・ 安全レベルの各段階を、@再現期間500年の地震動レベルに対する建物の目標性能、A再現期間
 500年の地震動レベルに対する建物被害レベル、により設定した。
・ この安全レベルは、前回資料の中にも用いた建物被害レベルと地震動レベルの2次元の図の中に、表
 現することが出来る。
・ 耐震メニュー2001では、表4で「地震動レベル」と「建物被害レベル」の関係から耐震等級を定義してい
 るが、「建物耐力」という概念が表面的には明示されていない。そのため、「安全レベル」という評価尺
 度の意味が不明瞭になっている。
 (資料9-7についての討議)
・ 安全レベルの定義は、表1の摘要にあるような表現が望ましい。例えば、「再現期間500年の地震動レ
 ベルに対して中損以下の被害となるレベル」といっても一般の人には分かりにくい。
・ 本資料にある建物被害レベルと地震動レベルの2次元の中に、安全レベルや耐震等級を表した図は、
 VISION2000の図によく似ている。
・ 本来は、地震動レベルのところに、建物の供用期間(遭遇確率)といった指標が関係してくるが、今回
 の資料では、話を分かりやすくするために省略している。
・ 実際、施主がリクエストする際に、建物の供用期間を明確に意識して注文を出すことはあまり無いので
 はないか。従って、供用期間という指標はあまり重要でないのではないか。
・ 安全レベルを定義するものとして、@表1の摘要欄の記述内容と、A地震動レベルと建物耐力との関
 係の2つが示されているが、両者は1対1に対応しないのではないか。
・ 表1の摘要のような定義をまず定め、それに対応するような指標を各レベルごとに設定していけばよい
 のではないか。

翠川主査から、資料9-4に基づき説明があった。
・ このメニューを施主への説明に使うならば、「分かりやすい」ということが重要な要素である。
・ 分かりやすさという点からは、VISION2000の表現が参考になる。
・ 安全レベルという概念は必要である。その上で、現行の建築基準法との関係を明確化しておくことが必
 要である。@通常の建物、A高層建物、B高い耐震安全性を要求される免震建物といった現行の3つの
 レベルと比較できれば分かり易い。
・ 地震動レベルの表現については、「再来周期500年の地震動」では分かりにくい、「稀に起こる」「ごく稀
 に起こる」といった表現の方が一般には分かり易い。
・ 安全レベルに関する、こうした「分かりやすい表現」を「工学的表現」に翻訳する必要がある。
 (資料9-4についての討議)
・ 建物被害レベルの定義については、「構造的な被害レベル」はよいが、「機能が喪失した」という状態を
 明確に定義できるのか疑問である。例えば、病院で構造的には大破であったが、その直後に補修して
 外来を受け入れていたという事例もある。
・ 地震動と建物被害の関係を複数の点でおさえるのか、1点でおさえるのかという問題もある。
→施主のいかなるリクエストにも対応しうるようメニューとしては選択肢をたくさん持っていたほうが良い。

諸井委員から、資料9-5に基づき説明があった。
・ 安全レベル、耐震等級、地震ハザードの3つの概念は、被害ランク、地震動レベル、発生確率の3つの
 軸上の平面として表すことができる。
・ 安全レベルは,被害ランクとその発生確率で定義されている。耐震メニュー2001では、被害ランクは、
 重損のみを使い定義している。
・ しかし、安全レベルの定義は、中損や軽微な被害、被害無しまでを含めた全ての点で定義することが
 できると考えられる。
・ ハザードカーブを用いて、安全レベルを実現するために必要となる耐震等級を設定することができる。
 (資料9-5についての討議)
・ この3次元の図をさらに工夫すれば、耐震メニューを構成している主な指標の概念整理を分かりやすく
 行うことができそうである。

片岡幹事から、資料9-6に基づき説明があった。
・ 安全レベルとは、「ある建物が想定した期間中に地震により重損となる可能性の大小を表したもの」で
 ある。重損となる確率は、遭遇確率と建物の耐震性能で決まる。建物の耐震性能を耐震等級と呼ぶ。
 重損とは、建物がその機能を発揮できない状況とする。以上のように定義すればよいと思う。

濱田幹事から、資料9-8に基づき説明があった。
・ 耐震メニュー2001では、「安全レベル」を結果として、「重損以上の被害を受ける確率の大小」で表した
 ため、複数の要素が絡み分かり難くなった。
・ 供用期間については、建築主の定量的要求条件には殆どなっていないという実態を踏まえ、50〜60年
 程度を標準ケースとして設定し、特に長寿命が求められるような建築物について、更に長い期間を推奨
 するといった程度の考え方で良いのではないか。
・ 遭遇確率については、専門家でない建築主にも分かり易い解説を付ける必要がある。
・ 地震動の強さの指標は、一般の人にとっての分かり易さを考慮すれば、「気象庁の震度階」を利用す
 べきである。
・ 断層活動の評価による地震動の予測については、ポアソン過程を前提とする耐震メニュー2001の考え
 とは異なるため、そのままメニューに取り入れることは難しいが、断層地震に対しどう対応しているかと
 いう状態も併記する形式としてはどうか。

石井委員から、資料9-9に基づき説明があった。
・ 地震動入力レベルは、建築物の供用期間、地震の種類・規模・繰り返し期間・発生確率等地震動の特
 性等を大略評価して複数設定される場合が多い。
・ 建築物目標性能は、それを実現するための設計クライテリアに翻訳され、設計方法に応じ、具体的な
 数値基準群として複数設定される。
・ 耐震等級は、地震動レベルと目標性能との結び付け方の違いに基き分類される。これは施主と設計者
 の話し合いにより設定される。

(資料全体を通しての討議)
・ 住宅の品質確保に関する法律では、通常の設計が耐震等級1で、1.25倍で設計したものが2級、1.5倍
 が3級といったように級が上がるにつれ、耐震性が増していくような番号設定になっている。本耐震メニ
 ューとは逆である。
・ 本日の議論をまとめると、耐震メニューを構成する概念の整理には、資料9-5の3次元の図が分かり易
 く、それらの詳細な関係を表現するには、資料9-7にある建物被害レベルと地震動レベルの2軸の図が
 分かり易い。
・ 資料9-5の3次元の図の「耐震等級」の背後には設計者がおり、「安全レベル」の背後には施主がい
 て、それらを結びつける「地震ハザード」の背後には自然がある、といったイメージが描ける。
・ 資料9-7の建物被害レベルと地震動レベルの2軸の図の中に、現行の建築基準法のレベルを位置付
 けられるとよい。ベンチマークが必要である。
・ 議論がかなり収斂してきたので、これまでに出た各委員の意見も考慮した上で、資料9-7をさらに肉付
 けして行く方向で山根委員に、また、資料9-5の概念整理にさらに手を加えて行く方向で諸井委員に、
 それぞれ作業をして頂くと同時にその他の各委員も、耐震メニューの見直し案に関する、@構成概念の
 整理、Aそれらの詳細な関係の定義、等について資料を作成することとなった。

5. 確率論的地震動予測地図の耐震メニューへの適用性について
諸井委員から、資料9-3に基づき説明があった。
@地震動予測地図は離散的な値の出力とならざるを得ないが、耐震メニューで必要となる評価結果を事
 前にリクエストする必要があるかもしれない。
A地震動予測地図は、順次更新される予定なので、耐震メニュー上の地震動の入力レベルも変化する
 可能性がある。
B現時点では、東海地震とそれ以外の地震に対する評価方法に整合性が無い。
 (資料9-3についての討議)
・ 推本の地震動予測地図でも、例えば「50年間に10%の確率で震度6弱以上の地震動が発生する地域
 の分布」といった図が出てくる。また、基準法でも、概ね再来周期500年程度の地震を対象としてい
 る。500年周期の地震までは、感覚的にイメージできるが、それ以上は難しい。従って、安全レベルの定
 義でも500年周期の地震に固定して表現した方が分かり易いと考えた。
・ 推本が今出している値にとらわれる必要はないのではないか、資料にもあるようにむしろ耐震メニュー
 に必要となる評価結果をリクエストすればよい。
・ 地震動予測地図は順次更新されるが、ある特定の地震の評価結果が変わるだけであり、それが直接
 的に設計のクライテリアに敏感に影響するようなことはないと考えられるので、それ程大きな問題とはな
 らないのではないか。
・ 上記Bの問題点については、2004年度末に出される全国版の予測地図の時点では、クリアされるで
 あろう。したがって、耐震メニューが地震動予測地図を用いるならば、その時点のものを取り込むのがよ
 い。

6. 次回日程と次回までの作業について
(ア) 次回を2002年12月6日(金)14:00〜17:00で開催することとした。
(イ) 各自以下の内容を次回小委員会までに検討し持ち寄ることとなった
   「耐震メニュー2001」の改善案に関する、
@ 安全レベルを含む構成概念の整理(資料9-5参照)
A それらの詳細な関係の定義(安全レベル、耐震等級等を地震動レベル、建物被害レベル、発生確率
 等の指標を用い具体的にどのように定義するか)(資料9‐7参照)と現行基準法のレベルの提示
                                                          以上