第39回-2014年度
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今年度の北海道建築賞委員会は、2014年5月1日、札幌市内で2014年度の第1回委員会を開催した。今年度の審査方法を審議し、北海道建築賞の主旨に沿った建築を評価する視点と応募作品に対する審査方法を委員全員で確認した。その後、応募状況を検討し、委員の中で注目に値する作品を「2013北海道建築作品発表会」や他の発表作品などの情報をもとに議論し、その中から委員からの応募推薦対象作品として6作品を選び、各設計者に正式な応募手続きを依頼した。
第1回の審査委員会は、5月29日に開催され、応募作品が6点に前述の6作品の中から実際に応募のあった4作品を加えた計10作品を今年度の審査対象作品とした。
応募作品及び応募設計者(応募順):
@ホワイトアトリウムハウス(小山将史君/一級建築士事務所小山将史建築設計事務所)
A(仮称)十勝地域リハビリセンター新築工事(松村正人君、恒川真一君、綾部圭介君、保久原功君、松浦有子君/大成建設活鼡煙囃z士事務所)
B中ノ中ノ庭(岩澤浩一君/id一級建築士事務所)
C代々木ゼミナール札幌校(平井浩之君、中藤泰昭君/大成建設活鼡煙囃z士事務所)
Dイヌエンジュの家(大杉崇君/ATELIER 02)
E伊達市総合体育館 あかつき(海藤裕司君、菅俊治君/且R下設計北海道支店、叶寳ン計企画)
F北海紙管株式会社本社ビル(鈴木理君/蒲髢リ理アトリエ一級建築士事務所)
Gちだ歯科クリニック(遠藤謙一良君/渇涛。建築アトリエ)
Hうどんの五衛門(伊達昌広君/笈ノ達計画所)
Iふきのとう子ども図書館(安藤敏郎君/活タ藤敏郎建築設計事務所)
審査における評価の視点は、これまでの北海道建築賞としての選考の視点を崩さずに、計画理論や設計・デザインに対しての新しい挑戦や問題意識、新しい生活・環境の構築を目指した意欲と新たなビジョンの構築に対する「先進性」、自然、環境、人間社会総体を含めた時間的、空間的「規範性」、それらを実現・統合して建築としての高い質を確保することを目指す「洗練度」の3項目を共通価値とすることを最初に委員全員で確認した。その後、現地審査対象作品を選定する書類審査に移った。応募資料の内容を精査した後、議論を重ね現地審査該当作品(順不同)として以下の6作品、C代々木ゼミナール札幌校、Dイヌエンジュの家、E伊達市総合体育館 あかつき、F北海紙管株式会社本社ビル、Gちだ歯科クリニック、Iふきのとう子ども図書館が選定された。
現地審査は、委員7名の全員の参加を原則に3回に分けて実施された。7月2日にE伊達市総合体育館 あかつき、8月4日にC代々木ゼミナール札幌校、Dイヌエンジュの家、F北海紙管株式会社本社ビル、8月5日にGちだ歯科クリニック、Iふきのとう子ども図書館の審査を周辺環境から建築空間の内外まで詳細な観察と、設計者やクライアントからの説明や質疑などを行った。
最終審査会は、8月26日、札幌市内で開催され、現地審査作品を対象に最終選考が行われた。選考審査は、各委員が各作品に対する見解を述べたのち、候補作品の設計プロジェクトに関係した委員がその後の選考から外れ、候補作品全体について議論、さらには、個々の作品の評価と意義が整理され、長い討議になった。その選考過程で、6作品よりまず、C代々木ゼミナール札幌校、F北海紙管株式会社本社ビルが選考対象から外れ、4作品に絞られた。その上で、各作品に対して評価と意義を再度吟味した。Gちだ歯科クリニックとIふきのとう子ども図書館は、それぞれ特徴的な建築作品であることは、評価されつつも、細部の完成度、洗練度などと言った北海道建築賞の審査基準には届かない部分が散見されるという指摘が大勢を占め、賞の選考より外すことで合意された。さらに、残り2作品に対して詳細な検討に入った。数名の委員から今年度は、作品自体のレベルが例年に比べるとやや低調であるという趣旨の意見も出されたが、本賞には届かないが、建築奨励賞としての基準は十分満たしているとの全員一致の評価より、Dイヌエンジュの家、E伊達市総合体育館 あかつきを本年度の北海道建築奨励賞とした。
「イヌエンジュの家」は、敷地にあったイヌエンジュを取り囲むように住宅部分が配置された一見コートハウスの形式をとっているかのように見える。しかし、中庭に開いた部分だけでなく、多様な開口の取り方による光の取り入れ方や微妙な視線の抜けなどによって、コートハウスというよりそれは、区画や面積はごく一般的な住宅地に建つ住宅に、多様な空間を紡ぎだすということに重きをおいていると理解できる。今までの北海道の住宅建築が、環境性能重視のボックス型のフォルムが体勢を占める中、このような多孔質で外壁面積が大きな空間を創り出す設計手法は、あえて遺棄されてきたと言える。しかし、環境性能を十分確保できる外壁や開口部、換気システムなどの技術をしっかり活用しながら、本来求められるべきであると作者が考える住宅におけるライフスタイルを享受することへの指向を素直に表現した作品として、評価できる。
「伊達市総合体育館 あかつき」は、上部に巡らされたポリカーボネートを使ったハイサイドライトより降り注ぐ光で、日中はほとんど照明無しにも十分に競技が出来るほどの光環境を達成しており、スポーツ施設としての快適性が十分に確保されている。同時にそれは、外観に軽やかさを生む仕掛けにもなっている。また、暖房システムは、既に地域で生産されているペレットを使ったボイラーによるものであり、太陽光利用とともに、再生可能エネルギーを適切かつ最大限に利用した環境建築として今後の北海道の建築の一つの方向性を誠実にトレースし、かつ実現している建築である。また、これらの選択は単に環境配慮ということだけではなく、有珠山という活火山を抱える地域において、災害時には地域の避難施設として機能しうる建築の持続可能性を真正面から捉え回答した建築でもある。このように建築に求められる機能を洗練された技術を用いて、地域のニーズに合わせて実現していく公共施設の設計に求められる規範的設計態度は大いに評価できるものである。
今回の建築賞の審査課程で大きな議論になったのは、昨今の建築を取り巻く状況の厳しさと作品に対する設計者の希求の問題である。財政的にも生産コストが圧迫されながらも、建築に希求すべきものは何かというこ
とが失われては、作品と呼べる建築は永遠に生まれない。さらに、設計者一人一人の建築への情熱的な取り組みは、単に建築を設計し、デザインする部分のみに拘泥し、耽美的に美的追求のみをしていては、到底実現できないだろう。建築の大小、住宅か公共建築かに関わらず、統合的に建築生成のプロセスをデザインすることとは何なのかを一度真剣に考え直すところから、地域に根付く、新しい建築が生まれるのではないだろうか。
現地審査6作品のうち、4作品は残念な結果となったが、評価の要点を以下に述べ、今後の活躍に期待したい。
代々木ゼミナール札幌校:予備校と言えども、一般の教育施設と同様に学生が勉学し、生活をする場所であることは変わりない。「学びの縁側」と名付けられた部分は、本当に学生のための空間なのか。外壁をガラスカーテンウォールで覆うことで懸念される室内環境を確保するためバッファーという外装デザイン優先の判断がそこにはあり、決して学生のための空間とは見えない。予備校産業の転換期の中で建築というプロパティをどう活用するかという企業としてのニーズと、学生の居場所のあり方をどのように結びつけるかという設計者としてのしたたかさが見られなかったところが残念である。
北海紙管株式会社本社ビル:企業のアイデンティティである紙管をファサードに使って、コーポレート・アイデンティティを表現したファサードが特徴的な建築である。しかし、内部のオフィス空間は、何の提案も見られない通常の執務室であり、選択した構造形式もオフィス空間としての答えの出し方として適切だったのかは疑問が残る。オフィス空間とファサード、エントランスからの縦動線などから期待する新しさとのギャップが著しく、残念である。
ちだ歯科クリニック:民間の歯科医療を担う施設として、診療室の機能的な配置やそこでの快適性を保つ照明、換気などの室内環境は、大型化する歯科医療環境に対する作者としての熟練した思考と技術の結果として評価できる。また、什器のレイアウト、デザインも技巧的かつ的確である。しかし、機能的であるがために省略され、押し込められたバックヤードのあり方は、働く環境として正しい回答なのかに疑問を残した。
ふきのとう子ども図書館:すでに計画が進んだ中盤から建築家として建設に関わり、しかも財政的な脆弱性などにも立ち向かいながら、施主が求める建築を成立させていったプロセスには、委員全員の賛同を得た。惜しむらくは、障がいを持った子どもが本に触れるという施主が創り出したソフトをどのように建築として翻訳するのかという部分に建築家としての提案が見たかったところである。しかし、このような取り組みが新たな建築として実現したことは、社会にとっては重要な意義を持つことは言うまでもない。
日本建築学会北海道支部 北海道建築賞委員会
主査 小篠 隆生
委員 加藤 誠、久保田 克己、齋藤 利明、鈴木 敏司、平尾 稔幸、山田 深
(文責:小篠 隆生)
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第38回-2013年度
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今年度の北海道建築賞委員会は、2013年5月9日、札幌市内で2013年度の第1回委員会を開催した。今年度の審査方法を審議し、北海道建築賞の主旨に沿った建築へのまなざしと応募作品に対する審査方法を委員全員で確認した。その後、応募状況を検討し、委員の中で注目に値する作品を「2012北海道建築作品発表会」や他の発表作品などの情報をもとに議論し、その中から委員からの応募推薦対象作品として7作品を選び、各設計者に正式な応募手続きを依頼した。
第1回の審査委員会は、5月31日に開催され、応募作品が7点に前述の7作品を加えた計14作品を今年度の審査対象作品とした。
応募作品及び応募設計者(応募順):
@ 空 水 住まい(ヨシダオサム君、早川未紗君/Atelier Monogoto一級建築士事務所)
A 赤川保育園(山田俊幸君/山田総合設計梶j
B 一正蒲鉾叶V北海道工場(下村真一君、古市理君、宮本晃代君/大成建設活鼡煙囃z士事務所)
C 砂川市立病院(福島祐二君、北原和俊君、藤原益三君、近藤彰宏君、小川孝君/椛蛹嚼ン計医療事業部、椛蛹嚼ン計札幌事務所、鞄建設計、竃k海道日建設計)
D 札幌麻生脳神経外科病院(飯田満君/潟Tン設計事務所)
E 新十津川中学校武道場(山本正則君、小野寺和久君/竃k海道建築総合研究所)
F 稚内駅前地区市街地再開発 〜キタカラ・JR稚内駅・北緑地トイレ〜(小谷陽次郎君、加納美佐恵君/鞄建設計、竃k海道日建設計)
G 苫小牧信用金庫まちなか交流館(山脇克彦君、小谷卓司君、大門浩之君/鞄建設計、竃k海道日建設計構造設計室、竃k海道日建設計設計室)
H ATMN(大坂美保子君、大坂崇徳君/アーキラボ・ティアンドエム)
I SPROUT(石塚和彦君/石塚和彦アトリエ一級建築士事務所)
J 津別町多目的活動センター「さんさん館」(井端明男君/潟Aトリエアク)
K 北海道工業大学体育館 "HIT ARENA"(佐藤孝君、芳川朝彦君、種田俊二君/北海道工業大学、a-plus芳川朝彦建築設計室、清水建設活鼡煙囃z士事務所)
L 円山の家(佐野天彦君/アトリエサノ)
M repository(五十嵐淳君/五十嵐淳建築設計事務所)
審査における評価の視点として、これまでの選考の視点を崩さずに、計画理論や設計・デザインに対しての新しい挑戦や問題意識、新しい生活・環境の構築を目指した意欲と新たなビジョンの構築に対する「先進性」、自然、環境、人間社会総体を含めた時間的、空間的「規範性」、それらを実現・統合して建築としての高い質を確保することを目指す「洗練度」の3項目を共通価値とすることを最初に確認した。その後、現地審査対象作品を選定する書類審査に移った。応募資料の内容を丁寧にトレースし、議論を重ねた末に、現地審査該当作品(順不同)として以下の8作品、F稚内駅前地区市街地再開発 〜キタカラ・JR稚内駅・北緑地トイレ〜、G苫小牧信用金庫まちなか交流館、HATMN、ISPROUT、J津別町多目的活動
センター「さんさん館」、K北海道工業大学体育館 "HIT ARENA"、L円山の家、Mrepositoryが選定された。しかし、この後、現地審査が不可能であることが判明したL円山の家は、応募設計者の了解のもと、審査対象から外し、7作品を現地審査該当作品とした。
現地審査は、委員7名の全員の参加を原則に3回に分けて実施された。6月30日にHATMN、ISPROUT、7月16日にK北海道工業大学体育館 "HIT ARENA"、 G苫小牧信用金庫まちなか交流館、8月17〜18日にF稚内駅前地区市街地再開発 〜キタカラ・JR稚内駅・北緑地トイレ〜、J津別町多目的活動センター「さんさん館」、Mrepositoryの審査を周辺環境から建築空間の内外まで詳細な観察と、設計者やクライアントからの説明や質疑などを行った。
最終審査会は、8月21日、札幌市内で開催され、現地審査作品を対象に最終選考が行われた。選考審査は、各委員が各作品に対する見解を述べたのち、候補作品の設計者と同一の組織に所属する委員がその後の選考から外れ、候補作品全体について議論、さらには、個々の作品の評価と意義が整理され、長い討議になった。その選考過程で、7作品よりまず、G苫小牧信用金庫まちなか交流館、HATMNが選考対象から外れ、5作品に絞られた。その上で、各作品に対して評価と意義がもう一度整理された。大多数の委員から今年度は、全体的にレベルの高い作品が揃っているとの評価があり、北海道建築賞、同奨励賞の双方の選考を同時に進める中で、本賞には届かないが、建築奨励賞としての基準を十分満たしているとの評価より、ISPROUTを本年度の北海道建築奨励賞とした。その後、残りの4作品に対しての北海道建築賞の選考に入り、各委員より再度評価を行った。その結果、F稚内駅前地区市街地再開発 ?キタカラ・JR稚内駅・北緑地トイレ?、J津別町多目的活動センター「さんさん館」が選考対象から外れた。そして、再度それぞれの作品の評価と意義の整理がなされ、最終的に委員全員の合意によってK北海道工業大学体育館 "HIT ARENA"とMrepositoryを本年度の北海道建築賞とした。
「北海道工業大学体育館 "HIT ARENA"」は、大学の福利厚生施設という性格を体育館という建築空間に十分に持ち込み、学生たちが様々な目的で集まり、溜まる広場空間を建築で構成している。このことが、ついつい機能優先でステレオタイプ化してしまう大学の運動施設を大学キャンパスの中でのアクティビティを受け入れる受容器として、建築に魅力的な空間を与えたという計画的先進性と、温熱環境的に不利にあるアリーナをペリメーター側に小部屋や外皮を重ねることでエネルギーロスを減じつつ、大きなエネルギーコストをかけずに、良好な室内環境を達成していることは、北海道の建築としての規範性、洗練度を併せ持ち、北海道建築賞として高く評価できる。
「repository」は、北海道の気候に対する住宅のあり方という普遍的なテーマを空間の構成と温熱環境、さらにそれらに呼応した住まい方の提案に翻訳し、高い次元でのデザインにまとめ上げた作者の力量が大いに評価された。吹きさらしの田園地帯に屹立する田園住宅に対して、その気候を防御するために、外皮と小部屋で外周を取り囲み、その中はほぼワンルームという構成で、リーズナブルな温熱環境を構築すると同時に、トップライトから
降り注ぐ光は、その量から外部を感じさせるほどの明るさを持つ。作者が、ずっと追いかけて来たワンルーム形式の居住形態は、内部に絵画的な風景をもたらす、極限にまで削ぎ落とされた薄い額縁のような大きな開口を持つ壁によって、ゆるやかに仕切られている。住環境としての性能を十分確保するという規範的命題を達成した上で、奥行きやスケールを自在に操作し、実際の大きさ以上の感覚をもたらすデザイン力は、住宅としての枠を大きく超えた先進的なデザインとして高く評価でき、北海道建築賞に値する作品である。
「SPROUT」は、施主との十分な協議によって彼らが目指すライフスタイルを狭小な敷地条件やコストなどの制約といった現実的な問題を乗り越えながら、住宅空間として特徴的な重層的空間をデザインしていくという作者の建築に対する真摯で、丁寧な対応とその構成力に好感が持てる。人が暮らしていくために必要な、人とものの場所が見事に構成された佳作である。
今回の建築賞の審査課程で大きな議論になったのは、地域における公共建築のあり方である。財政的基盤が脆弱になる中で、地域が真に求める建築を多様な主体と議論を重ねながら見いだしていくという計画的な努力は大いに評価できるものがあるが、それを引き継いで建築化する過程に関わる建築家も含めた関係者の創意工夫が今一つ完成された作品に見えてこないところにある種のふがいなさを感じた。公共建築を通じて北海道の建築の質を高めていく道は、険しい道のりであるが、現実の法規制や財政、ステレオタイプ的な既成概念に立ち向かいながら、あきらめずに地域のための質の高い建築を目指す関係者の努力が生まれることを期待したい。
現地審査7作品のうち、4作品は残念な結果となったが、評価の要点を以下に述べ、今後の活躍に期待したい。
稚内駅前地区市街地再開発 〜キタカラ・JR稚内駅・北緑地トイレ〜:
多様な主体が交錯する複雑な再開発のプログラムを整理し、建築として結びつけた計画力は高く評価できる。最北端の終端駅や離島を訪れる観光客だけでなく、地元市民に対するバプリックスペースの提供は、地域に根ざした建築のあり方を良く表している。しかし、このようなプログラムを空間として翻訳し、デザインとして昇華できたのかどうか。地域に必要なものが装備されたというところまでで終わっている部分があるところが残念である。
苫小牧信用金庫まちなか交流館:
地域の金融機関が、中心市街地の一等地に持つ地所を活かして、地域貢献したいという思いから生まれた観光情報提供と足湯というプログラムは、大いに評価できる。木造の可能性を表現した交流館部分だけでは、どうしてそのような構造形式をとったのかという必然性が今ひとつ見えてこなかった。本体のオフィス棟と交流館との関係性や敷地全体として建築と周辺地域とのあり方にまで及んだ思考が取れなかったことが悔やまれる。
ATMN:
アトリエ兼住居をシンプルな9mの箱に収めつつ、微妙に角度がついたもう1つのコアによって領域化を図るというプログラムには、空間設定の自由度など、可能性を感じる。オフィスとしてはあり得ると思われるが、それがアトリエ兼住居とした場合、実際には居住が行われているのか、生な生活に対する対応があるのかという点で、住宅としての意味と規範性に少し不満が残った。
津別町多目的活動センター「さんさん館」:
総合計画立案時から市民が参加してつくられた構想が実現化されていったプロセスは、地域にとっての建築として大いに意味を持つものである。木の産地であるから木をふんだんに使うという判断はまったく誤りではないが、中庭の使われ方やそれを取り巻く諸室との関係性もオーソドックスでこそあれ、何か新たな規範的提案がなされているわけではない。地域全体に建築が出来ることは何かということと、建築の質を高めるというコミュニティ・アーキテクチャーの命題を建築家としてもう1度考える必要があるのではないだろうか?
日本建築学会北海道支部 北海道建築賞委員会
主査 小篠 隆生
委員 加藤 誠、久保田 克己、齋藤 利明、鈴木 敏司、平尾 稔幸、山田 深
(文責:小篠 隆生)
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第37回-2012年度
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今年度の北海道建築賞委員会は、昨年度よりの新体制の2年目で、2012年5月9日、札幌市内で平成24年度の第1回委員会を開催した。今年度の審査方法を審議し、日本建築学会北海道支部として伝統ある本賞の主旨に沿った作品を審査することを委員全員で確認した。その後、応募状況を検討し、委員の中で注目に値する作品を「2011北海道建築作品発表会」や他の発表作品などの情報をもとに議論し、その中から委員からの応募推薦対象作品として2作品を選び、各設計者に正式な応募手続きを依頼した。
第1回の審査委員会は、5月18日に開催され、応募作品が8点に前述の2作品を加えた計10作品を今年度の審査対象作品とした。
応募作品及び応募設計者(応募順):
@ さくらインターネット石狩データセンター(安田孝君/大成建設(株))
A 幌延町生涯学習センター(川上雅彦君、小泉裕美君/北電総合設計(株))
B -1知床五湖フィールドハウス・知床五湖パークサービスセンター(知床五湖パークサービスセンター)(川上雅彦君、宮越達也君/北電総合設計(株))
B -2知床五湖フィールドハウス・知床五湖パークサービスセンター(知床五湖フィールドハウス)(川上雅彦君、宮越達也君/北電総合設計(株))
C 陸別小学校(小谷陽次郎君、廣重拓司君、岩村友恵君/(株)日建設計、(株)北海道日建設計)
D TU3(植田暁君、植田晴日君、菊池規雄君/NPO法人景観ネットワーク、(有)風の記憶工場、ワンダーアーキ建築設計事務所)
E 宮の森の家(前川尚治君/(株)コウド一級建築士事務所)
F 函館市縄文文化交流センター(石黒浩一郎君、菅沼秀樹君、金箱温春君/(株)アトリエブンク、金箱構造設計事務所)
G 真駒内 土間のある家(遠藤謙一良君/(株)遠藤建築アトリエ)
H 神楽岡の家(加瀬谷章紀君、綱川大介君/国際ローヤル建築設計一級建築士事務所)
I 札幌市円山動物園 は虫類・両生類館(斉藤雅也君、塚本篤士君、柳谷宰君、岩本康治君/公立大学法人札幌市立大学、(株)アトリエアク)
審査における評価の視点として、これまでの選考の視点を崩さずに、計画理論や設計・デザインに対しての新しい挑戦や問題意識、新しい生活・環境の構築を目指した意欲とビジョンに対する「先進性」、自然、環境、人間社会総体を含めた時間的、空間的「規範性」、それらを統合して建築としての高い質を確保することを目指す「洗練度」の3項目を共通価値とすることを最初に確認した。その後、現地審査対象作品を選定する書類審査に移った。応募資料の内容を丁寧にトレースし、議論を重ねた末に、現地審査該当作品(順不同)として以下の6作品、@さくらインターネット石狩データセンター、C陸別小学校、DTU3、F函館市縄文文化交流センター、G真駒内 土間のある家、I札幌市円山動物園 は虫類・両生類館が選定された。
現地審査は、委員7名の過半数の参加を原則に3回に分けて実施された。
6月9日に、@さくらインターネット石狩データセンター、G真駒内 土間のある家、I札幌市円山動物園 は虫類・両生類館、7月13日にC陸別小学校、8月2日にDTU3、F函館市縄文文化交流センターの審査を周辺環境から建築空間の内外まで詳細な観察と、設計者やクライアントからの説明や質疑などを行った。
最終審査会は、8月29日、札幌市内で開催され、現地審査作品を対象に最終選考が行われた。
選考審査は、各委員が各作品に対する見解を述べたのち、候補作品の設計者と同一の組織に所属する委員がその後の選考から外れ、候補作品全体について議論、さらには、個々の作品の評価と意義が整理され、長い討議になった。その選考過程で、6作品よりまず、@さくらインターネット石狩データセンターが選考対象から外れ、5作品に絞られた。その上で、各作品に対して評価と意義がもう一度整理された。評価の指標は前述の3つの視点からであったが、その3つをすべて満たすような作品については該当する作品を見いだすことはできず、本年度の北海道建築賞は該当無しという結論になった。その後、建築奨励賞の選考に入り、5作品に対して各委員より再度評価を行った。その結果、F函館市縄文文化交流センター、G真駒内 土間のある家、I札幌市円山動物園 は虫類・両生類館が選考対象から外れ、最終的に委員全員の合意によって「陸別小学校」と「TU3」を本年度の北海道建築奨励賞とした。
「陸別小学校」は、北海道の中でも特に寒暖の差の激しい気候条件に立地する小学校として、子どもたちが長く暮らす内部空間をオープンで枠にはまらない教育空間として成立させている。その核となる空間が三次曲面の屋根を持つ多目的ホールである。周囲に特別教室を接続させたその空間では、子どもたちの様々な活動が許容され、教育の「場」がアドホックに生じる。地方都市の小規模校ならではの、人間同士のふれあいを大切にした公共施設の持つべき質を獲得した好感の持てる作品として評価できる。
「TU3」は、作者の自邸として、その家族像を色濃く反映した空間構成に特徴を持つ。一見すると図式的な平面構成であるが、最小限の曲面壁によって必要かつ十分な生活の「場」が巧みに獲得されている。しかも、それらを構成する建築構成単位には、作者の緻密な技術へのこだわりが見て取れ、洗練されたデザインと快適な生活を両立させることができる北海道の住宅建築の新たな方向性を伺うことができる作品である。
今回建築奨励賞になったこの2作品から見えてくることは、単なる空間ではなく、建築を使う人間が活動する場所をどのように構築するかについての作者のこだわりである。2つの作品は、小学校と住宅といったジャンルの異なったものであるが、この場所の獲得のために様々な建築技術を洗練させながら用いている。しかし、それらの技術は、数値で表せる快適性を求めるためだけに用いられているのではない。建築性能を数値化してあたかもそれだけが快適性を表す指標であるということが、住宅にも公共建築にも蔓延する中で、本来、建築を使う人間にとっての、人間のための場所とはどのように獲得され、あるいは獲得するのかをこの2つの作品は、問いかけているのではないだろうか。これは、古典的な命題とも言えるが、北海道建築賞の評価軸としての規範性の解釈として改めて今回の選考で光を当てることができたのではないかと考えている。
現地審査6作品のうち、4作品は残念な結果となったが、評価の要点を以下に述べ、今後の活躍に期待したい。
さくらインターネット石狩データセンター:
高度情報化社会の基盤となるが故に、その安全性と持続性が最高度に求められているデータセンターである。北海道の寒冷な気候を活かして、外気を直接サーバーから出される熱の冷却に使うというシステムを採用した。しかし、まだ全体計画の1/4程度しか稼働されていないのに加え、夏期のデータがなく、冬期、夏期合わせた年間における運用実績からはじめてこの建築が採用したシステムを評価できるであろう。
函館市縄文文化交流センター:
縄文期の遺構や遺跡などが豊富に出土する地域において、国宝に指定された中空土偶が発見されたことによって、その展示も含めた中核施設をつくることを目的に行われたプロポーザルにおける実施作品である。長く湾曲する壁を前面道路と古代の遺跡群を隔てる結界として屹立させ、それに沿って展示空間を配置するという構成は、施設の目的とも合致し、好感が持てる。また、教育委員会の担当者との歴史展示だけではなく体験的学習を織り込んだ総合的な博物館のあり方に対する追求も、これらの公共施設を設計・建設しようとする時に必要不可欠の姿勢であり、評価できる。しかし、残念なのは、国宝の安定的保存を最大の目的とする文化庁とのやりとりの中で、将来遊歩道などの整備も検討されている遺跡側への開放が果たせなくなってしまい、展示と実際の遺跡体験というダイナミックな構成が取れなかったことである。今回の審査を通じて感じたこととして、今後の公共施設の質を高めていくために、設計者と施主である行政、さらにその監督官庁の間を調整できるコーディネータ役をおいて、設計段階の調整を進めることが必要であるということである。せっかくプロポーザルまで行っていながら、その意図が実作として結実されないのは、このような調整役がプロポーザル後にもプロジェクトに関わっていくことの必要性を如実に表している。
真駒内 土間のある家:
設計者と施主との寄り添った関係と、施主の要望を巧みに実現することのできる力量を兼ねそなえた設計者だからこそ達成できる施主のライフスタイルがそのまま内外の空間に表現された住宅作品である。上質なものを上質につくり上げる方向性には、敬意を払いつつ、その過程には、すでに既視感的な結果が想定され、建築というものを通じて発揮するべき、先進性への希求が見えなかったのが残念である。
札幌市円山動物園 は虫類・両生類館:
建築環境の視点から動物の飼育環境と展示という2つの機能を持つ施設を見直すという新たな姿勢に大きな可能性を感じつつ審査を行った。結果の展示だけでなく、飼育の過程などを見せるプロセス展示など現代のミュージアム計画で求められているテーマを取り込んだり、は虫類・両生類という飼育に特異な温熱環境を必要とする生物の管理を建物総体の室内環境技術と連動させるなどの挑戦には好感が持てる。しかし、かなりタイトな面積設定だったとは言え、見る側の人間にとっての「場所」をつくり出す配慮が足らなかったところが残念である。新しい時代に対応する園舎を本当に望むのなら、設計者側の提案に応じた面積に対する融通性が発注者側にもあってしかるべきである。公共建築の質をどのようにつくるかを改めて考えさせられた作品である。
(文責:小篠 隆生)
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第36回-2011年度
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今年度の北海道建築賞委員会は、委員の2名が交代し、新主査が選任され新しい体制で、2011年5月6日、札幌市内で2011年度の第1回委員会を開催した。委員会体制、審査プロセスの透明性、スケジュールなどを確認したうえで応募状況を検討し、委員の中で注目に値する作品を「北海道建築作品発表会」他をもとに議論し、その中から委員からの応募推薦対象作品として5作品を選び、各設計者に正式な応募手続きを依頼した。
第1回の審査委員会は、5月19日に開催され、応募作品が7点に前述の5作品を加えた計12作品を今年度の審査対象作品とした。
応募作品及び応募設計者(応募順):
1フツウ・ノイエ(赤坂真一郎君/潟Aカサカシンイチロウアトリエ)
2北海道整形外科記念病院(弓良芳雄君他/竃k海道日建設計)
3第一三共札幌支店ビル(今井宏君/清水建設叶ン計本部)
4旭川の家(加瀬谷章紀君他/国際ローヤル建築設計一級建築士事務所)
5小樽市指定歴史的建造物(旧)岡川薬局
(福島慶介君/N合同会社・兜沒工務店)
6千歳市防災学習交流センター(そなえーる)
(藤原末夫君他/葛v米設計札幌支社)
7十勝トテッポ工房(鈴木理君/蒲髢リ理アトリエ)
8札幌市立大学大学院デザイン研究科棟
(那須聖君/札幌市立大学、辻弘明君他/創建社)
9下川町環境共生モデル住宅 美桑(櫻井百子君他/アトリエmomo)
I岩見沢の家(長坂大君/京都工芸繊維大学)
JLeaf house(小倉寛征君/エスエーデザインオフィス)
K美幌の家(堀尾浩君/堀尾浩建築設計事務所)
審査には、議論を通じて全委員の同意を得ること、評価の視点としては、これまでの選考の視点を崩さずに、計画理論や設計・デザインに対しての新しい挑戦や問題意識、新しい生活・環境の構築を目指した意欲とビジョンに対する「先進性」、時間空間軸における自然を含めた人間社会に対する「規範性」、それらを統合して建築としての高い質を確保することを目指す「洗練度」の3項目を共通価値とすることを最初に確認し、現地審査対象作品を選定する書類審査に移った。応募資料の内容を丁寧にトレースし、議論を重ねた末に、現地審査該当作品(応募順)として以下の6作品、@フツウ・ノイエ(赤坂真一郎君/潟Aカサカシンイチロウアトリエ)、B第一三共札幌支店ビル(今井宏君/清水建設叶ン計本部)、G札幌市立大学大学院デザイン研究科棟(那須聖君/札幌市立大学、辻弘明君他/創建社)、H下川町環境共生モデル住宅 美桑(櫻井百子君他/アトリエmomo)、I岩見沢の家(長坂大君/京都工芸繊維大学)、JLeaf house(小倉寛征君/エスエーデザインオフィス)が選定された。
現地審査は、委員7名の過半の参加を原則に3回に分けて実施された。6月28日にB第一三共札幌支店ビル、G札幌市立大学大学院デザイン研究科棟、7月4日に@フツウ・ノイエ、JLeaf house、I岩見沢の家、7月30日にH下川町環境共生モデル住宅 美桑の審査を周辺環境から建築空間の内外まで詳細な観察と、設計者やクライアントからの説明や質疑などを行った。
最終審査会は、9月1日、札幌市内で開催され、現地審査作品を対象に最終選考が行われた。選考審査は、各委員が各作品に対する見解を述べたのち、候補作品全体について議論、さらには、個々の作品の評価と意義が整理され、長い討議になった。評価の指標は前述の3つの視点からであったが、その3つをすべて満たすような作品については該当する作品を見いだすことはできず、本年度の北海道建築賞は該当無しという結論になった。その後、建築奨励賞の選考に入り、6作品よりまず、G札幌市立大学大学院デザイン研究科棟とJLeaf houseが選考対象から外れ、4作品に絞られた。その上で、各作品に対して評価と意義が整理され、最終的に委員全員の投票によって、「フツウ・ノイエ」と「岩見沢の家」を本年度の北海道建築奨励賞とした。
「フツウ・ノイエ」は、敷地が持つ自然環境を繊細な感性で捉え、その特徴を素直に建築に取り込むという非常にオーソドックスではあるが、現代建築が繰り広げる様々な空間操作とはまったく別種の言わば正則的な作法が、かえってこの敷地における設計者が抱いた瑞々しい住宅空間を成立させた作品として評価できる。
「岩見沢の家」は、施主と建築家の住宅に対する意思を素直に表現した作品で、住宅の内部を明快な躯体と地形のような床の構成で内部というよりむしろ外部的感性で構成するという設計者の意図を単純な手法でしかも明確に力強く表した作品である。
今回建築奨励賞になったこの2作品から見えてくることは、住宅という建築作品に欠かせないのは、東日本震災後のエネルギー需給の問題からもクローズアップされているような、住宅におけるエネルギーなどの環境性能の数値的な追求や、ややもするとか細い美しさだけが表出するにすぎない空間操作だけではなく、地域の環境とどのように向き合い、その土地でどのような生活をするのか、そのためにどのような住宅をつくるのかという、建築を生み出す根源的とも言える行為の中にある強い意志とその充実度である。このような営みが住宅を小規模ではあるが、社会的に意味を持つ建築作品に昇華させる可能性を持つ所以であろう。その局面に改めて今回の選考で光を当てることができたのではないかと考えている。
現地審査6作品のうち、4作品は残念な結果となったが、評価の要点を以下に述べ、今後の活躍に期待したい。
●第一三共札幌支店ビル:札幌の大通り公園沿いの北向きに立地する製薬会社のオフィスである。北側というエネルギー条件としては不利ではあるが、都市景観としてはこの上ない魅力を持つ外部の風景に対して、熱的に充分考慮されたガラスカーテンウォールを使って、気持ちよい執務空間を成立させている。その他の技術もバランスのよいエンジニアリングと言えるが、使える技術のアセンブルを行っただけになっている部分も散見され、自社ビルという条件設定にしては、より先進的な挑戦ができたところがあったのではないかということが悔やまれる。
●札幌市立大学大学院デザイン研究科棟:基本計画の段階で考えられた配置計画は、清家清氏のマスタープランの中にどのように新しい建物を配置するかということに対する腐心の後が感じられ、群として構成も設計者の意図がよく表現されている。しかし、その後の実施設計、施工の段階で、基本計画で決定した建築構成のルールを構造、設備とどのように調整し、調和させていくのかという部分に無理が生じているところがあり、結果的に建築としての整理ができていない部分が残念である。
●下川町環境共モデル住宅 美桑:地元の技術や材料を使い、環境共生住宅のモデルを創ろうとする取組は、事業としてまた、設計者の姿勢としては、意欲的で大変評価のできるものである。しかし、建築として見た場合、全体的な組み立てにおいては、たとえモデル住宅であっても技術を取捨選択し、この計画にふさわしい空間を獲得するという設計者の姿勢が必要だったのではないだろうか。特に1Fの平面計画において、住宅としての空間の意味や必然性に疑問が残る。
●Leaf house:中央にコアを置き、周囲に回廊上の動線とその動線上に閉じる空間と開く空間を配置するという特徴的な平面計画を取った意欲的な住宅である。4方向に意図的に制限された開口部から見える風景によって、外部との関係性がつくられている。しかし、かえって出来上がった空間は、この設計の意図によって閉鎖的になってしまい、外との関係が希薄になってしまっているように感じられる。内部空間の環境的な質の確保は、充分達成されていると言えるが、図式のみからでは、美しいものをつくるという建築としての意味に到達できないのではないだろうかという疑問を抱かせた。
(文責:小篠隆生)
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第35回-2010年度
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北海道建築賞委員会は、2010年5月10日?、札幌市内で平成22年度の第1回委員会を開催した。審査プロセスとスケジュールについて昨年に準じることを確認したうえで応募状況を検討し、支部主催の「建築作品発表会」他から委員からの応募推薦4作品を選び、各設計者に正式な応募手続きを依頼した。
第一回審査会は5月28日?に札幌市内で開催され、6委員によって以下の応募14作品が審査対象とされた。
応募作品及び応募設計者(順不同):
1白のコラージュ(山内圭吉君/去R内圭吉建築研究所)
A棲華崖(渡辺一幸君他/北電総合設計椛シ)
BHOUSE K(高木貴間君/叶ン計舎)
C黒松内ねっぷ牧舎(蔵島二三君他/潟Vェマ・アーキテクツ)
D不即不離(君興治君/潟Aトリエキミ)
E三井アウトレットパーク札幌北広島
(奥村浩和君他/三井住友建設叶ン計本部他)
F日本生命札幌ビル(鳥谷部隆司君他/葛v米設計札幌支社他)
GGR230(前川尚治君他/潟Rウド一級建築士事務所)
H四季の家(宮崎正之君/潟Gー・ジー総合設計)
Iミニマリストの家(畑中秀幸君/スタジオ・シンフォニカ求j
J熊谷邸(久野浩志君/久野浩志建築設計事務所)
K空方(そらざま)の家(堀尾浩君/堀尾浩建築設計事務所)
L江差旅庭 群来(中山眞琴君/潟iカヤマアーキテクツ)
M国立大学法人北海道大学工学部建築・都市スタジオ
(小林英嗣君他/北海道大学他)
最初に、審査の作法は多数決ではなく議論を通じて全委員の同意を得ること、評価の視点は従前同様、コンセプトと設計プログラムおよび実体的表現の「先進性」・時間空間軸における自然を含めた人間社会に対する「規範性」・それらを統合して美の創造を目指す「洗練度」の3項目とすることを確認し、現地審査対象作品を選定する書類審査に移った。応募資料を読み解きながら、各委員による個別評価と活発な議論の末に、現地審査該当作品(順不同)として以下の8作品が選定された。
1白のコラージュ(山内圭吉君/去R内圭吉建築研究所)
C黒松内ねっぷ牧舎(蔵島二三君他/潟Vェマ・アーキテクツ)
GGR230(前川尚治君他/潟Rウド一級建築士事務所)
Iミニマリストの家(畑中秀幸君/スタジオ・シンフォニカ求j
J熊谷邸(久野浩志君/久野浩志建築設計事務所)
K空方(そらざま)の家(堀尾浩君/堀尾浩建築設計事務所)
L江差旅庭 群来(中山眞琴君/潟iカヤマアーキテクツ)
M国立大学法人北海道大学工学部建築・都市スタジオ
(小林英嗣君他/北海道大学他)
現地審査は委員七名の過半の参加を原則に3回に分けて実施された。第1回は、6月27日?に札幌市内で、@白のコラージュ・Iミニマリストの家・J熊谷邸・K空方の家の住宅。第2回は、7月6日?に札幌で、M国立大学法人北海道大学工学部建築・都市スタジオ。第3回は7月31日?と8月1日?、一泊二日の行程で、L江差旅庭 群来・C黒松内ねっぷ牧舎・GGR230。第1回第2回は好天に恵まれたが、第3回は前日の豪雨で順路が一部不通となり、大幅な迂回を余儀なくされた。しかし、いずれも周辺環境を含めて建築空間の内外を詳細に観察し、設計者やクライアントとの意見交換も交えて有意義な現地審査となった。
最終審査会は8月26日?、5委員出席、2委員から委任(内1委員からは意見表明)のもと札幌市内で開催され、現地審査作品を対象に最終選考が行われた。審査に先立ち次のことを確認した。計画および設計に関与した委員は、当該作品に対する見解表明を避け個別討議の際には席を外す。
選考審査は、各委員が作品に関する見解を述べたのち、作品ごとの自由討議に移り多角的視点から活発で真剣な討議が長時間続いた。やがて、個々の作品の評価と意義が整理され、本委員会の総意として北海道建築賞および同奨励賞について以下の決定をした。
北海道建築賞 該当作品なし
北海道建築奨励賞
●「白のコラージュ」 山内圭吉君/去R内圭吉建築研究所
●「熊谷邸」 久野浩志君/久野浩志建築設計事務所
今回、北海道建築賞に該当する完成度の高い作品に恵まれず残念な結果となったが、住宅作品には新しい息吹を感じさせる作品が多く、上記の二作品が北海道建築奨励賞の栄誉を得た。
一連の審査を通じて、一昨年のリーマンショックを契機とした世界同時金融不況によって、それ以前のミニバブルに踊っていた感のある建築界が大きなダメージを受けていることを実感させられた。大型プロジェクトでは、設計者が建築家としてじっくりと時間をかけ、コンテンツやアイディアを練り上げる余裕がないことを窺わせたのに対し、小住宅の分野では時間のできた建築家とクライアントが、互いに納得するまで語り合い、予算と格闘しながらも新しい住まい方に、果敢に挑戦する姿を垣間見ることができた。
現地審査8作品のうち6作品は残念な結果となったがいずれも労作佳作であり、評価の要点を以下に述べ、今後の活躍に期待したい。
●黒松内ねっぷ牧舎:研修棟・コテージ群・浴室棟・倉庫棟から構成された木造建築群だが、個々のデザインに質の差が大きく、内外とも全体としてアンバランスな空間となっている。前記した経済状況の中で、クライアントの企業代表者が交代したため、利用計画が白紙撤回という残念な状況にある。研修棟と倉庫棟は新しい表現に成功しているので、新たな利用計画が待たれる。
●GR230:この案件に関しては、書類審査の段階で公共建築の「道の駅」と考えて評価していたことが、実は間違いであったと、現地での設計者による説明で明らかになった。したがって、最終審査では論評自体を控えるという結論となった。
●ミニマリストの家:1個の大きな直方体空間 に2個の小さな矩形空間を1個ずつ内外に配し、階段空間と内外を貫通するブリッジでシンプルに構成されている住空間は多様な視点を提供し、トポロジカルな空間操作は高く評価された。一方、外皮を構成する小幅板による立面構成は、恣意的で装飾的と指摘された。
●空方の家:時間とともに渋さを増す合金版に包まれた外壁に対し、内部は天窓に続く吹抜け空間の周りに多様な小空間を螺旋状に配し、ボーラスで柔らかな住空間を生み出している。その空間構成と環境設計は高く評価された。しかし、複数の内部仕上げと三次元に角度のついた形態による内部構成の複雑さは混乱した印象で秩序感を見出しにくいとの指摘がされた。
●江差旅庭 群来:美しい打ち放しコンクリートの高塀で囲まれ、僅かに玉石を乗せた黒い傾斜屋根を見せるだけの外観は、シンプルで研ぎ澄まされた景観を生んでいる反面、江差の町並みとは断絶した都市空間となり、規範性の視点から問題を指摘された。コンクリート壁で視界をさえぎられた細い斜路の先には、エントランスからロビーラウンジ空間、さらに細い廊下の先に配された食事室と個室群。塀の内側に展開される玉石だけの庭。あらゆる場に展開される洗練された美意識と手仕事への拘りに、先進性と洗練度の高い評価がされた。
●国立大学法人北海道大学工学部建築・都市スタジオ:既存建築群との関係性、建築を学ぶ場としての意味性と重層的機能性など、建築に係わるダイヤグラムが究めて精緻に構築されたことが伝わってくる。しかしただ一点、空中に浮かぶスタジオの建築的表現に関しては、異論が多く出された。コルビジェがピロティによって人に大地を解放し、屋上庭園によって太陽の恩恵を維持しようとしたことを想起したい。ガラスで囲まれたスタジオが視覚的に構造的自立性を持たず、コートをはさんで建つ強固なRC構造物に依存しなければならない在り方には、形態と構造の関係性から問題があることが指摘された。
(文責:大萓昭芳) |
第34回-2009年度
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北海道建築賞委員会は3名の委員が交代した新体制で、2009年5月7日、札幌市内で平成21年度の第1回委員会を開催した。審査プロセスとスケジュールについて昨年に順ずることを確認したうえで応募状況を検討し、委員からの応募推薦対象作品を支部主催の「建築作品発表会」他から7作品選び、各設計者に正式な応募手続きを依頼した。
第一回審査会は6月19日に札幌市内で開催され、以下に示す16応募作品に関する審査の冒頭で「C北海道洞爺湖サミット国際メディアセンター」は計画通り解体され実体が存在しない作品であるため、初めての事案として審査対象としての可否が議論された。その結果、現地審査の不可能な作品は、審査の公平性の確保および審査結果への第三者検証の観点から、審査の対象としないことを確認した。したがって、審査の対象作品としては、C作品を除く15作品が残った。
応募作品及び応募設計者(順不同):
@知床斜里複合駅舎(川人洋志君他/川人建築設計事務所他)
AGARDEN ECO FACTORY(藤島 喬君/亀AU設計工房)
B鳳龍山長勝寺無量寿堂(中舘誠治君他/泣Gヌディースタジオ他)
C北海道洞爺湖サミット国際メディアセンター(大山政彦君他/鞄本設計他)
D芒居(中山眞琴君/潟iカヤマアーキテクツ)
E東京理科大学長万部キャンパス女子寮(垣田 淳君他/樺|中工務店設計部)
F愛国農場の家(小西彦仁君/泣qココニシ設計事務所)
G新富良野プリンスホテル・温浴施設(林 正彦君/潟~クプランニング)
Hホテル&スパリゾート ラビスタ函館ベイ(高橋秀秋君他/大成建設叶ン計本部)
I佐藤忠良記念子どもアトリエ(井端明男君/潟Aトリエアク)
Jイコロの森(鈴木敏司君/潟Aトリエアク)
K札幌市民ホール(菅原秀見君他/竃k海道日建設計)
LROJI(灘本幸子君/灘本幸子建築設計事務所)
M光の矩形(五十嵐淳君/五十嵐淳建築設計)
N岩見沢複合駅舎(西村 浩君/潟潤[クヴィジョンズ)
O西野の家(佐野天彦君/アトリエサノ)
審査の作法は多数決ではなく議論を通じて全委員の同意を得ること、評価の視点は従前同様、コンセプトと設計プログラムおよび実体的表現の「先進性」・時間空間軸における自然を含めた人間社会に対する「規範性」・それらを統合して美の創造を目指す「洗練度」の3項目とすることを最初に確認し、現地審査対象作品を選定する書類審査に移った。応募資料を読み解きながら、各委員による個別評価と活発な議論の末に、現地審査該当作品(順不同)として以下の8作品、D芒居(中山眞琴君/潟iカヤマアーキテクツ)F愛国農場の家(小西彦仁君/泣qココニシ設計事務所)Jイコロの森(鈴木敏司君/潟Aトリエアク)K札幌市民ホール(菅原秀見君他/竃k海道日建設計)LROJI(灘本幸子君/灘本幸子建築設計事務所)M光の矩形(五十嵐淳君/五十嵐淳建築設計)N岩見沢複合駅舎(西村 浩君/潟潤[クヴィジョンズ)O西野の家(佐野天彦君/アトリエサノ)が選定された。
現地審査は委員7名の過半の参加を原則に4回に分けて実施された。7月23日に岩見沢から苫小牧で第1回、N岩見沢複合駅舎とJイコロの森。7月28日に十勝で第2回F愛国農場の家。8月22日に札幌市内で第3回、K札幌市民ホールと、O西野の家M光の矩形D芒居の住宅3件。9月4日に余市で第4回LROJI。いずれも天候に恵まれ、周辺環境から建築空間の内外まで詳細に観察し、設計者やクライアントとの意見交換を含めて有意義な現地審査となった。
最終審査会は9月9日、6委員出席1委員委任のもと札幌市内で開催され、現地審査作品を対象に最終選考が行われた。審査に先立ち次のことを確認した。計画および設計に関与した委員は、当該作品に対する見解表明を避け個別討議の際には座を外す。
選考審査は、各委員が作品に関する見解を述べたのち、作品ごとの自由討議に移り多角的視点から活発で真剣な討議が長時間続いた。やがて、個々の作品の評価と意義が整理され、本委員会の総意として北海道建築賞および同奨励賞について以下の決定をした。
●北海道建築賞に「岩見沢複合駅舎」西村 浩君/潟潤[クヴィジョンズ
●北海道建築奨励賞は該当作品なし
「岩見沢複合駅舎」は複雑な設計条件にもかかわらず、地域文化と歴史の読み解きからアイコンとして抽出された〈煉瓦〉と〈軌道レール〉を重要な建築言語として採用し、市民の日常性への細やかな対応を、高度な技術の裏付けで丁寧に具現化し展開した作品である。
細部まで上質に仕上られた本作品を支える建築家のクラフトマンシップに、現代の物質文明社会で希薄になった建築文化の原点を見る。先進性・規範性・洗練度のいずれでも高い評価を受けての授賞である。
現地審査8作品のうち7作品は残念な結果となったがいずれも佳作であり、評価の要点を以下に述べ、今後の活躍に期待したい。
●芒居:山麓の自然林に接して、鋼板で覆われたキュービックでシンプルな造形は、アプローチに敷かれた鋼板と共に自然な赤錆色の質感が美しい。内部もボーラスな室空間が螺旋的に続く吹抜けで、陶板敷きの床と鉛薄板貼りの壁が工芸的な光の質感を見せる。木構造の可能性に挑戦した各所に見られるRC的な形態操作とパノラマヴュー開口。現代建築の論理性を超えようとする先進性と洗練された素材美の表現手法は高く評価されたが、表層的との指摘も受けた。
●愛国農場の家:モジュールに従いリズミカルに並列配置された黒いボックス空間の外観は、人工的な造形美を対置して、広がりのある十勝の大地に新しい農村風景を生み出した。二世代の施主のライフスタイルを読み解き、生産緑地から自立した住環境を都市的手法の伸びやかな構成で実体化した先進性は高く評価された。一方、機能性と規範性の観点から外部仕上げに疑問が指摘されたことが残念だった。
●イコロの森:北海道の気候に適したガーデニング素材とそのデザイン手法の提案、発見、学習のためのランドスケープデザインは、バックヤードと共に運営・維持も含めてサスティナブルな場所を創造しようとする大きな構想が具現化され、その先進性は高く評価された。同時に広大な敷地に配置された建築計画は、木造の軽やかな表現を評価しながらも、場所とのきめ細かい応答に具体性を欠いたメッセージ性の弱さが問題とされた。長い時間をかけて有機的空間に進化していくことが予感される。
●札幌市民ホール:7年間の仮設という条件から派生したコスト制約の大きい計画だが、従来の華美に流れた公共建築のあり方とは反対に、無駄をそぎ落とし工夫を重ねて質素ながらも良質のデザインに昇華させた努力と規範性、さらに、鉄骨造ながらホールの遮音性や振動伝播を制御した技術力の先進性は高く評価された。しかし、ホワイエ空間、研修諸室など市民に広く開かれてほしい空間が閉鎖的、外観的にも大通公園に面して閉鎖的で札幌中心部の都市景観への積極的貢献が果たせなかったことが惜しまれる。
●ROJI:六面体に三か所の切り欠きを施したシンプルな外観の道路側1・2階に小さな喫茶店を配した店舗付き2階建て住宅建築である。この作品の特徴は、玄関から微妙に屈曲しながら貫通する2枚の白い壁で構成された住宅部の吹き抜け動線空間である。イタリア南部の路地空間をイメージした白く乱反射する光の濃淡は、この小住宅に有機的な息吹を与えていた。施主の夢と希望に必死に応えようと格闘していたら自然に導かれて生まれたデザイン、との作者の弁には熟練した大工の技を引き出した魅力があった。デザインが意識化され論理化されて深められる今後の作品に期待したい。
●光の矩形:前衛作家としての位置を確立している作者による新作は、若い家族のための木造小住宅である。大壁への反射光を並立する壁の大きな開口によって切り取った光の矩形が、内部空間を視覚的に統御している。意図的に外部への視線をさえぎり、外部との関係性を光の矩形の変化に限定した手法は、静寂な内部空間を創出しているが、住まい手に自己完結的な時空間を強いている。しかし、クライアントは作者を信頼し、むしろそこに生ずる自由度の高い現実を楽しんでいた。敷地との関係性において、究極的に閉ざされた建築のあり方に疑義が出されたが、隅々まで細かい配慮がなされた内部は、その洗練度の高さが評価された。
●西野の家:若い家族のために超ローコストで計画された木造小住宅である。構造材と仕上げ合板の定尺寸法から割り出したモジュールで得られた縦長の6面体空間を、3枚の部分床で再構成した機能空間は、仕切りのない単一空間である。そこは水平に続くテラス空間とも繋がって視点の垂直移動に伴い多様なシーンを展開する。一見難解に見える空間を自由闊達に使いこなし、若い建築家との共同作業で創り出したライフスタイルに満足なクライアントの姿から、若い建築家とクライアントによる新しい住宅建築の可能性を感じた。今後の作品に期待する。
(文責:大萓昭芳) |
第33回-2008年度
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本委員会は、応募期間中の2008年5月8日札幌市内で委員会を開催し応募状況を確認したうえで、支部主催の「建築作品発表会」他から委員推薦候補作品を選び、各設計者に正式な応募手続きを依頼した。
本年度の第一回審査会は、全委員参加のもと5月28日に札幌市内で開催され、全委員同意の下に以下の審査対象16作品を確定した。応募作品及び応募設計者(順不同):
@中富良野保育園(西島正樹君/プライム一級建築士事務所)
Aサッポロアパートメント(納谷 学君他/納谷建築設計事務所)
B積丹町立余別小学校― 小集落のリ・デザイン第U期― (井端明男君/潟Aトリエアク)
Cリストランテ/トレノ(福島慶介君他/兜沒工務店)
D読売新聞大曲工場(米田浩二君他/鹿島建設褐囃z設計本部)
E潟a[ニング新社屋(川口英俊君/潟Aーキテクト・キューブ)
F糸賀整形外科クリニック新築工事 (川口英俊君/潟Aーキテクト・キューブ)
G龍香洞(谷口大造君他/スタジオトポス)
H五稜郭タワー(佐波俊二君他/清水建設梶j
I札幌市山口斎場(平井裕彦君他/且R下設計)
J黒松内中学校エコ改修(加藤 誠君/潟Aトリエブンク)
K六書堂新社屋「ときの杜〜 forest in time」 (畠中秀幸君/スタジオ・シンフォニカ求j
LJAびえいアグリパーク「美瑛選果」 (鈴木 理君他/蒲髢リ理アトリエ)
Mサッポロビール博物館・サッポロビール園 (久保勝彦君他/大成建設梶j
N小さな老人ホーム「かざぐるま」 (小倉寛征君/エスエーデザインオフィス)
O砂川市地域交流センター ゆう 及び 砂川駅自由通路 (弓良芳雄君他/竃k海道日建設計)
引き続き第一次書類審査に移り、現地審査対象作品が選考された。最初に、作品選考審査の方法として、多数決ではなく議論を通じて全委員の同意を得ること、その評価の視点は、コンセプトと設計プログラムおよび実体的表現の「先進性」、時間・空間軸における自然を含めた人間社会に対する「規範性」、それらを統合して美の創造を目指す「洗練度」、とすることを再確認した。
各委員の個別評価と活発な議論の末に、現地審査該当作品として、B積丹町立余別小学校― 小集落のリ・デザイン第U期― 、J黒松内中学校エコ改修、LJAびえいアグリパーク「美瑛選果」、Mサッポロビール博物館・サッポロビール園、N小さな老人ホーム「かざぐるま」、O砂川市地域交流センター
ゆう 及び 砂川駅自由通路の6作品(順不同)が選定された。
現地審査は委員7名全員の参加を原則として3回に分けて実施された。7月10日に第1回、B積丹町立余別小学校とJ黒松内中学校エコ改修。7月15日に第2回、Mサッポロビール博物館・サッポロビール園。8月28日に第3回、LJAびえいアグリパーク「美瑛選果」およびN小さな老人ホーム「かざぐるま」、O砂川市地域交流センターゆう
及び砂川駅自由通路。いずれも天候に恵まれ、周辺環境から建築空間の内外まで詳細に観察し、設計者やクライアントとの意見交換を含めて有意義な現地審査となった。
第二回審査会は9月9日、全委員出席のもと札幌市内で開催され、現地審査作品を対象に最終選考が行われた。審査に先立ち次のことを確認した。計画および設計に関与した委員は、当該作品に対する見解表明を避け個別討議の際には座を外す。選考審査は、各委員が作品に関する見解を述べたのち、作品ごとの自由討議に移り多角的視点から活発で真剣な議論がおこなわれた。
これまで述べた一連の選考審査を経て、個々の作品の評価と意義が整理され、本委員会の総意として北海道建築賞および同奨励賞について以下の決定をした。
●北海道建築賞に「黒松内中学校エコ改修」加藤 誠君/潟Aトリエブンク
●北海道建築奨励賞は該当作品なし
現地審査6作品のうち5作品は残念な結果となったがいずれも佳作労作であり、評価の要点を以下に述べ、今後の活躍に期待したい。
●積丹町立余別小学校― 小集落のリ・デザイン第U期―:
漁業で栄えた歴史ある小集落の核として小学校と町民センターを統合し、旧校地を多目的なコミュニティ空間に再構築したプログラムと設計手法はその先進性と規範性の観点から高い評価を得た。特に小学校内部は町民の利便性も考慮した綿密な空間構成が、小規模の利点を生かした上質な大きな家的空間を創出した。一方、建築として一体である旧体育館を再利用した町民センターが、町の別設計によるためかプログラム意図を十分表現できず残念な結果となった。
●JAびえいアグリパーク「美瑛選果」:
国道沿いにフランスレストランと農産物直販コーナーを併設する企画を、外部空間によって分節化した単純な平面計画、均質化された大きなガラス開口と壁面の構成によってモダンで端正な佇まいの建築に結実させたデザイン性は高く評価された。一方、二つの主用途に挟まれた中央ゾーンの空虚感、レストランアプローチの不自然さ、共通パーキングエリアに緩衝空間なしに併置された前面外部テラスのあり方などに問題が指摘された。
●サッポロビール博物館・サッポロビール園:
明治23年築の重厚な煉瓦造建築を活用した博物館正面に新築された低層のガーデングリルは、周囲の緑地に映える現代建築として博物館と好対照をなし、互いに響きあって札幌らしい園内景観を創出している。しかし、博物館裏の増築部分は、歴史的景観保持を目的に採用された一部黒塗り外装タイルや非対称勾配破風などの擬似景観復元手法が、文化財としての博物館建築の品格を欠く結果となっていることが指摘された。
●小さな老人ホーム「かざぐるま」:
特殊養護施設の小規模サテライトとして既存住宅地の一角に新設された。利用者に対するバリアフリーを確立するために近隣に対して細やかに配慮された配置計画と外観デザインには高い規範性が認められ、住宅設計の手法で丁寧に構成された内部計画には先進性が感じられた。一方、全体的に建築表現としての新規性と洗練さが未成熟とされた。
●砂川市地域交流センターゆう 及び砂川駅自由通路:
砂川駅東部開発の中核施設として計画された交流センターは、70m超の吹抜け大空間「交流スペース」と本格的劇場機能を持った「多目的ホール」を核とした大規模な公共建築である。前面広場に対し、交流スペースは1階部分が全面ガラス開放だが上部は長大な連続壁体となって重苦しく、施設全体としても外に閉じた硬い感じの外観となっている。多様な設計条件への解として計画された交流スペースだが、ヒューマンスケールを超えた構造空間はイベント時には有効に機能しても、日常性の中ではスケールアウトの危険性をはらんでいる。自由通路との視覚的空間的連続性を含めて公共建築としての豊かな日常性への疑問が指摘された。
(文責:大萓昭芳) |
第32回-2007年度 |
第32回北海道建築賞は、新しい北海道建築賞表彰規定(2006年4月27日改正)に基づき、2007年4月中旬の応募開始から始まり、授賞式・記念講演会に至るまで、従来とは異なる日程で始まった。
応募作品と委員推薦作品の公平を期するために、応募期間中の4月20日、札幌市内での委員会において委員推薦候補作品を選び、事務局から各設計者に正式な応募手続きを依頼した。
本年度の第一回審査会は、全委員参加のもと2007年5月29日に札幌市内で開催され、全委員同意の下に以下の審査対象13作品を確定した。そのうちの6作品G〜Lが委員推薦による応募で、G〜Jは支部主催の「建築作品発表会」参加作品でもある。下記の表記中、作品名に続く( )内には、主たる設計者である応募者氏名と同所属名を記した。
応募作品(順不同):
@ BYO-BU(君 興治君/褐N工務所)
A 函館市臨海研究所(山内一男君/褐囃z企画山内事務所)
B 大成札幌ビル(高橋章夫君/大成建設梶j
C 月寒の長屋(名古屋英紀君/エープラス名古屋英紀建築設計室)
D GLASS&WHITE(豊嶋 守君/渇謐H房)
E テスク本社ビル(豊嶋 守君/渇謐H房)
F 海の崖っぷちのSOHO(戸島健二郎君/戸島健二郎建築設計)
G 北海道薬科大学臨床講義棟C(佐藤 孝君/北海道工業大学)
H 帯広市図書館及び一連の図書館建築(下村憲一君/滑ツ境設計)
I 当別田園コート(小室雅伸君/許k海道建築工房)
J ゲストハウス「ポエティカ」(畠中秀幸君/スタジオ・シンフォニカ求j
K 情緒障害児短期治療施設バウムハウス(藤本壮介君/藤本壮介建築設計事務所)
L 函館市中央図書館(佐田祐一君/牛イ田祐一建築設計研究所)
引き続き第一次書類審査に移り、現地審査対象作品が選考された。
最初に、作品選考審査の方法として、多数決ではなく議論を通じて全委員の同意を得ること、その評価の視点は、コンセプトと設計プログラムおよび実体的表現の「先進性」、時間・空間軸における自然を含めた人間社会に対する「規範性」、それらを統合して美の創造を目指す「洗練度」、とすることを再確認した。
各委員の個別評価と活発な議論の末に、現地審査に値する作品として、B大成札幌ビル・G北海道薬科大学臨床講義棟C・I当別田園コート・Jゲストハウス「ポエティカ」・K情緒障害児短期治療施設バウムハウス・L函館市中央図書館の6作品(順不同)が選定された。
今年度から実施された新日程の利点を生かして、現地審査は委員7名全員の参加を原則として3回に分けて実施された。第1回は6月27日に札幌市内のB大成札幌ビル、第2回は7月28日に札幌近郊のG北海道薬科大学臨床講義棟C・I当別田園コート・Jゲストハウス「ポエティカ」、第3回は8月10日に伊達市のK情緒障害児短期治療施設バウムハウスと函館市のL函館市中央図書館で行われた。いずれも天候に恵まれ、事務局を含め8名で周辺環境から建築空間の内外まで詳細に観察し、設計者やクライアントとの意見交換を含めてたいへん有意義な現地審査となった。
9月12日、第二回審査会が札幌市内で開催され、全委員出席して現地審査作品を対象に最終選考が行われた。全委員が個々の作品すべてを実体験するという共通の基盤が整った今回は、対象作品ごとに各委員が現地審査に基づく意見を述べた。その後、受賞作品選考のための自由討議に移り、多角的な視点からの活発で真剣な議論のなかで個々の作品の評価と意義が整理され、全委員の総意として受賞作品を決定した。以下の三賞である。
北海道建築賞に「函館市中央図書館」佐田祐一君/牛イ田祐一建築設計研究所
北海道建築奨励賞に「大成札幌ビル」高橋章夫君/大成建設
北海道建築賞審査員特別賞に「当別田園コート」小室雅伸君/許k海道建築工房
この三作品は、先進性・規範性・洗練度の全てにおいて高次元の優れた建築作品と各委員が一致して評価した。その他の三作品については、それぞれ秀作ながらもいくつかの問題点が指摘された。以下にその要点を述べ今後の活躍に期待したい。
北海道薬科大学臨床講義棟C:ボックス構造の操作による吹抜け空間と大きなガラスのカーテンウォールの構成には先進性と洗練度を認められるが、ラーメン構造との併用が曖昧で完成度が低くなっている。キャンバス全体の中での位置づけが明確ではなく、アプローチの構成と表現に問題が多く規範性の弱さが指摘された。
ゲストハウス「ポエティカ」:自然の木立の中に演奏ホールとゲストルームを持つ極めてシンプルな構成には、内外ともに潔さが表現されている。音響には細心の注意が注がれている反面、建築自体の空虚感が指摘された。音楽の豊かさを建築表現に転化できたとき、その洗練度も一層高まっていく。
情緒障害児短期治療施設バウムハウス:第30回北海道建築奨励賞を受賞した作者は、先進性・規範性・洗練度においてさらに進化した作品を実現した。内部空間の先進性と洗練度は特筆されるが、その空間構築手法に内在する外部との関係性の希薄さが規範性の弱さとして指摘された。
昨今は、地球温暖化に伴う環境問題や社会全体の規範性の欠如から未来への不安感が広がっている。このような社会状況のなかで、コミュニティ構築の中核装置としてコミュニケーションの場を創出し続ける建築本来のあり方が、極めて重要な時代となってきた。今回の審査では、そのことに真正面から取り組んでいる建築の持つ力強さと美しさ、設計者の強い信念と深い努力を実感することができた。
(文責 大萱 昭芳君) |
第31回-2005年度
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本年度第一回審査会は、全委員参加のもとに2005年12月14日、札幌市内で開催され、昨年までと同様の審査手順を確認したうえで審査対象作品の確定と第1次書類選考が行われた。審査対象作品は、建築賞応募作品全8点((1)〜(8))に、支部主催「建築作品発表会」参加作品から委員による推薦作品5点((9)〜(13))を加えた以下に示す13作品である。
応募作品(順不同):
(1) KZ−HOUSE(葛谷理俊君/アトリエRSN、国澤利光君/ZEROM国澤計画設計室)
(2)
函館宮前町カトリック教会(三輪数比古君/マジックバスビルディングワークショップ1級建築士事務所)
(3)
円山西町の家(松岡拓公雄君/滋賀県立大学、鈴木理君/鈴木理アトリエ)
(4) 省エネ住宅「エコキューブ」(平野伸泰君/(有)エネシス)
(5)
札幌東宝ビル「札幌シャンテ」(徳本幸男君・本井和彦君/樺|中工務店北海道支店)
(6)
関口雄揮記念美術館(徳本幸男君・本井和彦君/樺|中工務店北海道支店)
(7) sapporo.55(徳本幸男君・河合有人君・横尾淳一君/樺|中工務店北海道支店)
(8) アーバンネット札幌ビル(楠本正幸君/NTT都市開発梶j
委員推薦作品(順不同):
(9) KB(画工房)
(10) 釧路こども遊学館(アトリエブンク)
(11)
陸別保健センター・診療所(アトリエブンク)
(12) 垂直の森(ヒココニシ設計事務所)
(13)
中央警察署札幌駅前交番(北海道工業大学+日本設計札幌支社)
これ以降の選考審査は、多数決でなく議論を通じて全委員の了解を得た作品とし、建築作品単体の評価規準は、コンセプトと設計プログラムおよび実体的表現の「先進性」、時間・空間軸における自然を含めた人間社会に対する「規範性」、それらを統合して美の創造に向かう建築体としての「洗練度」とした。
現地審査対象作品を選ぶ第1次書類選考は、各委員の個別評価と活発な議論の末に、現地審査対象作品として7作品
(6)「関口雄揮記念美術館」・(7)「sapporo.55」・「(9)KB」・(10)「釧路こども遊学館」・(11)「陸別保健センター・診療所」・(12)「垂直の森」・(13)「中央警察署札幌駅前交番」を選定した。
この過程の中で「建築作品発表会」作品の明確な位置付けとして、委員推薦と応募手続きの関係が討議され、審査の公平性を期すために次年度からは従来どおりの委員推薦を必要条件、応募規定に定められた資料提出をもって応募作品としての十分条件を満たすとの合意を委員会の結論とした。
2006年2月21日に札幌市内の5作品(6)・(7)・(9)・(12)・(13)を委員7名(一部6名)、3月7日8日に道東地区の2作品(10)・(11)を委員4名で現地審査が行われた。
3月16日、札幌市内で第二回審査会が出席委員6名で開催された。各作品の現地審査結果として、1名の欠席委員からの提出書面を含めて全委員から意見が表明され、続いて各作品についての自由討議が行われたので以下にその要点を述べる。
「関口雄揮記念美術館」:大小2つのRC造閉鎖空間と中間に配された木造スケール鉄骨造の開放空間というシンプルな設計プログラムに特段の先進性は認められず、鉄骨部分の構造表現には論理的不調和が指摘される。鉄無垢角柱の選択によるスケールダウン、エコロジカルな空調システム、通行不可だった既設吊橋の再生による既存美術館とのネットワーク構築などに先進性を認めることができるが、いずれも部分的評価に留まる。
「sapporo.55」:札幌駅南口広場に面した公共用地に民間ビルを建設する事業コンペの実施作品で、屋内公共空間の確保と採算性の維持という複雑な要件を都市デザインとして実体化した企画プログラムの先進性と規範性は評価できる。しかし、トップライト採光の上部3層吹抜け空間で、内部の外部空間化と1・2層階部分で視界の立体化による賑わいの創出に挑戦した設計プログラムは、駅前広場との空間的連続性を持たず演出としての評価に留まる。外壁デザインにおける質感の希薄さを含め、全体的に建築としての洗練度に課題が残る。
「KB」:間口の狭い敷地に設計者自身のアトリエ用として建てられた5階建ての小さなビルで、一体化した門型のPC部材を水平垂直方向に連続展開して壁面と床面を構築した設計プログラムは、力強い素材感と構造の純粋性を形態化した隅角部の曲面が生み出す柔らかいリズム感とによって、新鮮な建築表現を創出すると同時に内部空間の最大化を達成している。この点での先進性は高い評価を得たが、対照的にファサード面を階段・設備空間で閉鎖したプログラムの弱点が浮かび上がる結果となり、隣接する住居建築との関係構築に対する疑義と合わせて規範性と洗練度において賛同を得られていない。
「釧路こども遊学館」:先進性・規範性・洗練度のすべてに対して全委員から賛辞が述べられ、北海道における公共建築のあり方と高い可能性を示した建築作品として北海道建築賞の候補作品となった。評価の詳細は別掲の審査講評に述べられているが、ガラスと構造斜材で構成された外皮部分に見られる建築表現としての曖昧さに対しては、欠点としてではなく、「こどもと市民に対する親和性」を獲得するための重要なデザイン表現として、むしろ評価すべき長所と解釈されたことを付記する。
「陸別保健センター・診療所」:複合化された公共建築として、2施設共通の開放空間に個別機能空間を並置するシンプルな基本プログラムの建築的表現として、均一な幾何形体の反復による図式的平面構成を採用している。プレストレスPCユニットで構成された屋根面による開放空間は、公共性とバリアフリーを意図したとも考えられるが、実態としては閉鎖系・開放系空間と機能性とのずれによる音・光環境など不適切な部分が見られる。コンセプトの純化を追求するあまり規範性の低下が表面化し、建築としての洗練度を失うという結果となっている。
「垂直の森」:鉄骨補強木造2階建・キューブ形の小住宅で、内部は構造柱のない上下一体化された空間と家具化された機能エレメントで、外壁面は等間隔の構造柱に均一壁面パネルと開口パネルとで構成されている。将来の解体移築も含めた多様な生活状況への対応として提示された「部品化された建築」という先進的プログラムは、一方で不安定な住空間という側面を実体化させ、プログラムとしての普遍性を達成できていない。
「中央警察署札幌駅前交番」:難解なコンテクストの場にガラスと耐候性鋼板のシンプルな面構成によって現代都市美を表現した作品で、景観的配慮から知的抑制された設計プログラムの先進性と繊細で洗練された建築単体としての造形が高い評価を受けた。反面、多くの市民と来訪者には交番自体の認知が困難な結果となり、場の重要性に対する規範性の弱さが欠点となっている。
審査討議の後、本年度の受賞作は、北海道建築賞に「釧路こども遊学館」(保科文紀/元アトリエブンク、金箱温春/金箱構造設計事務所、石黒浩一郎/アトリエブンク)、北海道建築奨励賞には該当なしを全委員一致で決定した。
なお、受賞作は完成まで7年間を要したため多くの設計者の連携によって実現した。4月5日、4月16日の両日、札幌市内で委員会を開催し北海道建築賞表彰規定の「主たる設計者」の明確化を図った。濃密な議論を通して「受賞対象者は、設計プロセス全体の実質的な設計統括責任者であり、原則1名である」との合意を得たうえで、今回の受賞作はその実態から前記3名を設計統括責任者と認定した。
全体的印象としては、文明としての先進的技術に偏る傾向が強い反面、日常へのまなざしが紡ぎあげる文化としての建築という原点が失われつつあると感じた。形態と技術の操作にではなく、原点の現代的認識の中にこそ新しい鍵が隠されていることを再確認したい。
(文責 大萱 昭芳君) |
第30回-2004年度
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2005年1月25日、札幌市内で開催された第1回審査会で、本年度の審査対象作品を、建築賞応募全作品7点、および支部主催「第24回北海道建築作品発表会」の作品から委員により推薦された11点を加えた計18点とすることを確認し、第1次書類選考を行った。
この段階で、少なくとも1名の委員から選定候補として推された作品は以下の12点であった。
(1)CELLS HOUSE(大河内学君、郷田桃代君/インタースペース・アーキテクツ)、(2)風の輪(五十嵐淳君/五十嵐淳建築設計)、(3)トラス下の矩形(五十嵐淳君/同)、(4)空のヴォイド(五十嵐淳君/同)、(5)伊達の援護寮(藤本壮介君/藤本壮介建築設計事務所)、(6)札幌市立資生館小学校・保育園・子育て支援センター(アトリエブンク)、(7)剣淵町
絵本の館(井端明男君/アトリエアク)、(8)ニセコ本通A団地(井端明男君/同)、(9)北海道日本ハムファイターズ札幌屋内練習場・合宿所(川野久雄君/大成建設設計本部)、(10)士幌町食品加工研修センター(アトリエブンク)、(11)小集落のリ・デザイン:第U期(小篠隆生君/北海道大学小林研究室+アトリエアク)、(12)ホテル
エルム
サッポロ(後藤博宗君/北海道日建設計)<以上、順不同>
今回の審査では、書類選考の段階で作品数を4〜5点に絞り込み(昨年は10点)、現地審査に
は原則として全委員が臨む(昨年までは3名以上の委員)という方針のもとに選考作業を進め、その結果、現地審査を含む第2次審査対象作品として、少なくとも3名以上の委員から推薦を受けた以下の4点が選出された。(なお、従前通り選考の全過程において、審査委員と何らかの関わりがある作品を審査する場合に当該審査委員は選考に加わらないというルールを遵守した)。
(2)風の輪(五十嵐淳君/五十嵐淳建築設計)、(3)トラス下の矩形(五十嵐淳君/五十嵐淳建築設計)、(5)伊達の援護寮(藤本壮介君/藤本壮介建築設計事務所)、(7)剣淵町
絵本の館(井端明男君/潟Aトリエアク)<以上、順不同>
その後、2005年3月31日の最終審査会までに上記作品の現地審査が行われた。委員会が設定した審査日程に都合がつかない委員も、可能な限り別途、現地で作品を見ておくこととした。
さて、最終審査会で最も多くの支持を集めた作品は「伊達の援護寮」であった。
これは、回復期にある精神障害者の社会復帰をサポートするための施設で、最大20名が起居する個室と共有空間を、管理部門がさりげなく支えている。敷地は遥かに太平洋を望む丘の上にあり、作者は北海道の中では比較的穏やかな気候に恵まれた地域の特性を活かすべく様々な工夫を凝らしている。基本となる5.4m角の空間単位を、隅部で微妙な角度を持たせて繋ぎながら全体を構成する平面計画が、「家のような落ち着いたスケールと都市的な多様性」の両立を図るうえで見事に生かされている。変化のある屋根の連なりが伝統的な小集落を思わせる外観と、天井を低く抑えた内部空間との間に齟齬あるいは対立を見る意見もあったが、ここでは一方の視点で全てを律するよりは、むしろ複眼的な見方を直截に表現する作者の柔軟な考え方を支持すべきだろう。一定の規範に則った空間構成や、黒と白を主調とする色彩計画に、作者のストイックな形式性が感じられ、その点を「冷たい」と評する委員や、小屋裏換気が十分でないことなどを危惧する意見もあったが、寒冷地の常套句的形態言語に拘らない軽快なスタンスのもとで建築の可能性にチャレンジした作者の清新な感性と明快な論理を高く評価する意見が多数を占めた。この施設で営まれる日常の生活が、居住者の精神を癒し、社会に復帰する意欲を取り戻す上で有効だとすれば、その中で「空間の力」が寄与する部分も小さくないと思われる。ただ、技術的な部分など、俄には評価しにくい部分もあり、まだ若い作者の今後の展開を期待して、今回は北海道建築奨励賞を贈ることとした。
「剣淵町
絵本の館」は道北の町の市街地に建つ小図書館である。楕円形の中庭を囲んで多様な形態や構造の空間が並び、回廊を巡るシークエンスは変化に富んでいて楽しい。この建築が醸し出す一種ワクワクする感覚は、利用者の多くが子供であることを考えると一層相応しいものに思える。15年以上にわたり町が進めてきた「絵本の里づくり」の拠点施設として、町民のみならず来訪する多くの人々に親しまれている事実から、この施設が目論見通りの機能を発揮していることも分かる。総じて水準の高い優れた建築であることは大方の認めるところで、受賞作に推す委員もあったが、設計者は1995年度に北海道建築賞を受賞した経緯もあることから、あえて表彰を重ねることに慎重な意見が大勢を占め、今回の表彰は見送られることとなった。
「風の輪」はサロマ湖に近い常呂町の田園地帯に建つ、里子と里親が共に住むための施設である。4.55mスパンの木製集成梁を長さ約43mにわたって並べた細長いワンルームの中で、床レベルの変化や柱、筋違等の配置により空間の分節を図り、生活するための場所を獲得している。同一部材の反復使用を徹底したことが、結果的にニュートラルな空間創出を可能としただけでなく、基礎底を地盤面から1200o以上掘り下げなければならない凍結深度の条件を積極的に活かして半地下の生活空間を生み出すなど、地域に根を下ろして活動する作者ならではの工夫が随所に見られる。
同じ作者による「トラス下の矩形」も、佐呂間町の市街地に建つワンルームタイプの木造平屋建て住宅である。一辺約9mの正方形平面に、この地域では農業用施設に使われる大スパンの既成木造トラスを架けることによりベースとなる大きな無柱空間を創り、床のレベル差や適宜配置された造作家具によって、若い夫婦と二人の子供が生活する場所を創出している。
この2作品に共通するのは、ユニヴァーサルな大空間の中に主として壁以外の要素を用いて「固有の場所」を形成して行く設計手法である。いずれも、既存の住居型式に拘らない自由な発想がフレキシブルな内部空間を生み、そこで営まれる生活に生気を吹き込んでいる。
地域を拠点に、地域に相応しい生活空間を模索する作者の姿勢には多くの委員が共感を寄せたが、この作者も1996年度に「白い箱(BOX)の集合体」で北海道建築奨励賞を受賞していることから、慎重な審議の結果、今回の表彰は見送ることとなった。
(文責:大矢 二郎君) |
第29回-2003年度
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2003年10月23日、札幌市内で開催された第1回委員会で、新・旧委員の引継をした後、新任委員の互選により主査を選出、応募要項、審査手順等の確認を行った。12月16日の第1回審査会で、本年度の審査対象作品を、応募全作品11点に、支部主催「建築作品発表会」発表作品から委員により推薦された6点を加えた計17点とし、第1次書類選考が行われた。
その結果、現地審査を含む2次審査対象作品として、以下の10点が選出された。(1)札幌コンベンションセンター(吉田宏、菅原秀美/竃k海道日建設計、小林英嗣/北海道大学)、(2)豊富町立豊富中学校(齋藤文彦、小倉寛征/潟hーコン)、(3)F邸(福田真司/葛v米設計、本井和彦/樺|中工務店)、(4)真駒内六花亭ホール(古市徹雄/褐テ市徹雄都市建築研究所)、(5)IS(渡辺真理、木下庸子/設計組織ADH)、(6)GLASS
PYRAMID(川村純一、堀越英嗣、松岡拓公雄/アーキテクトファイブ)、(7)エコ・ミュージアムおさしまセンター(保科文紀、舩場俊星/潟Aトリエブンク元所員、和田敦/潟Aトリエブンク)、(8)こぐまの森プレイホール ガリバー(小西彦仁/泣qココニシ設計事務所)、(9)ザ・ウィンザーホテル洞爺チャペルG-CLEF(川村純一、堀越英嗣、松岡拓公雄/アーキテクトファイブ)、(10)月寒の家(川人洋志/北海道工業大学、菊池規雄/WANDER
ARCHI)<以上、順不同>
その後、2004年3月31日の最終審査会までに、上記10作品を少なくとも3名以上の委員が現地で審査、その結果を最終審査会にもちよった。予め主査から各委員には推薦する作品2〜3点を選考しておくことが要請され、最終審査会の協議にあたって開示されたが、少なくとも一人の委員から推薦を受けた作品は、上記10点のうち、(2)豊富町立豊富中学校、(4)真駒内六花亭ホール、(5)IS、EGLASS
PYRAMID、(7)エコ・ミュージアムおさしまセンター、(8)こぐまの森プレイホール ガリバー<以上、順不同>の6点であった。以後それらを審査の主な対象とした。
続いて各作品についての推薦理由、疑問点などを確認しつつ選考作業を進めた結果、3名以上の委員から推薦のあった作品(2)、(4)、(6)、(7)に選考対象が絞られた。しかし、ここから最終的な結論を得るまでには長い議論を要した。本建築賞選考にあたっての評価規準は、作品がもつ「先進性」「規範性」および「洗練度」とされている。しかし、そうした共通軸で見た上でもなお、作品に対する委員の評価は分かれた。議論は白熱、予定した時間では結論に至らず、会場を移して審議が続けられた。
特に、本賞、特別賞候補として議論の的となった「真駒内六花亭ホール」と「GLASS
PYRAMID」については、共に一定の水準を超えた作品であるという点で異論はなかったものの、授賞対象とすべきか、あるいはどのような賞が相応しいかと言う点で意見が分かれた。前者については、菓子店舗と音楽ホールという対立する機能を随時転換可能にした計画のアイディア、地域の文化活動拠点として根付いている事実や洗練されたデザインを高く評価する委員と、配置計画(特に駐車場の扱い方)等、周辺環境との関係性に疑問を呈する委員との間で長い議論があった。また、後者については、彫刻家の故イサム・ノグチが札幌市のモエレ沼公園内の中核施設として、そのマスタープランに模型やスケッチで提案していたものであり、「彫刻の建築化」いうやや特殊な状況をどう評価すべきかが論点になった。
最後は出席委員の表決を問うことになったが、彫刻家とのコラボレーションの中から「ランドスケープとしての建築」という新たな方向性を探りつつ、アースワークを基盤に、従来の建築の枠組みを越えようとした姿勢に多くの共感が集まった「GLASS
PYRAMID」を審査員特別賞とした(因みに筆者は、こうした議論の内容が直接何らかの形で公開あるいは公表できたなら、学会のみならず、広く建築界の活性化や一般市民の建築や環境に対する関心を高める上で大いに意義あるに違いないと考えるものである)。
一方、奨励賞を受けた2作品については大方の委員に意見の一致を見た。「町立豊富中学校」は、地域コミュニティの核としても機能する中学校を、ユーザーからの多様な要求を調整しながら、中庭を囲むコンパクトな教科教室型校舎にまとめた作者の力量が高く評価された。また、「エコ・ミュージアムおさしまセンター」も、小規模ながら、地元彫刻家のアトリエであった元小学校校舎を改修し、「時間(とき)の記憶」を定着させた施設計画が今後の公共施設整備手法の好事例になると思われた。
今回は受賞を逸したが、現地審査の対象となった他の作品もそれぞれ質の高い建築であった。3点の住宅作品にもチャレンジングな試みが見られた。中でも「IS」は、南面する吹き抜けの大開口部にガラスと障子のダブルスキンを設け、室内環境の調整を図った手法に可能性が感じられた。しかしこれが寒地住宅の一つのタイプになり得るかどうかを判断するにはもうしばらく<時間>の検証が必要であろう。「こぐまの森プレイホール」は、幼稚園児の身体と精神活動に刺激を与える空間装置として、変化のあるスケール感と素材選択の的確さに作者の資質が感じられたが、やや、生硬な印象もあった。厳しい条件下、クライアントの夢に確かな空間で答えた「月寒の家」、テクノロジーに依存しすぎた嫌いがある「F邸」も力作ではあったが、他の候補作に比し、規範性という点では相対的な訴求力に欠けた。「札幌コンベンションセンター」は、多目的機能を果たす大型施設であり、随所に挿入された中庭が空間の分節によく効いているが、多用途である故か、スケール上の曖昧さが否めない。「G-CLEF」も、軽やかな空間を生み出しているが、建築の社会的な意味あるいは規範性と言う点ではやや説得力を欠いた。
最後になったが、本表彰制度の創設と運営に多大の貢献があった北海道大学名誉教授・太田実先生がこの3月逝去された。先生がこの事業に込められた思いを今後の学会活動にも生かして行くことを肝に銘じ、謹んでご冥福をお祈り申し上げる。
(文責:大矢 二郎君) |
第28回-2002年度
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本年度の審査の対象作品は、応募全作品の8点、建築作品発表会発表作品から2点、計10点とした。第1回審査会は全メンバー参加のもとで開催され、昨年の委員会の経緯・審査の視点について意見交換を行い、今年度の審査方針を確認した。その後、書類選考によって審査が開始され、審査委員の推挙作品と推挙の理由に関する討論を経て、現地審査の対象とすべき候補を4点に絞り込んだ。
応募作品からは小樽旅亭「蔵群」(中山眞琴/ナカヤマ・アーキテクツ)、北海道工業大学新講義棟G(佐藤孝/北海道工業大学、鈴木健夫/清水建設竃k海道支社)、作品発表会からは、北海道立北方建築総合研究所(基本計画:北方建築総合研究所・アトリエブンク、実施設計:北海道建設部建築整備室、中原・アトリエブンク・柴滝)、日藤メモリアルガーデン(堀隆文・片瀬利行/樺|中工務店北海道支店一級建築士事務所)の4点であった。
しかし、新しい地平を切り開くような作品や新たな問題を投げかけようとしている建築、そして魅力的な建築観・デザイン観を秘めた建築が少なく、いずれも習作的あるいは主観的な形態操作に終始している作品が目に付き、低調であったというのが審査員全員の実感であった。建築賞の審査・選考の視点は、「計画理論や設計・デザイン」に対しての「新しい挑戦・問題意識」、新しい人間・生活・環境の構築への意欲とビジョンに対する「ラディカルな追求」、加え、それらの「社会性」と「規範性」、を建築学会が優先させるべき価値とし、「新鮮、ラディカル、そして洗練への努力」であり、北海道建築賞の選考と審査の視座を明確にして進めた。また候補作品は全て複数の委員が現地審査を行うという原則も了承し、審査を開始した。3月11日、全ての候補作品の現地審査を完了し、最終選考の委員会を開催した。それぞれの建築について、建築作品の特徴と評価すべき内容、設計や計画のプログラムとコンセプト、デザイン性を支えている論理性の今日的な意味などについての議論が展開された。単なる機能性や空間性や形態などの表層的・恣意的な意匠や造形にとどまらず、それらを生み出した建築家の視座、プログラムや方法論、そしてその完成度や社会性などをめぐる意見が長時間にわたって交換され、委員の情緒や感性や好みに基づいた曖昧な議論ではなかった。
「北海道工業大学新講義棟G」は、同大学の主たるキャンパス軸に隣接した、大学フレッシュマンの教育を行う総合講義棟であり、それゆえキャンパスランドスケープの構成上からの入念な配慮と建築計画上の配慮、そして外部・内部の相補性への配慮がほどこされた空間デザインが不可欠となる建築である。また、キャンパス内の施設は、オン・カリキュラム時に必要な機能的空間構成とオフ・カリキュラム時に発生するキャンパスライフへの配慮とが同時に必要となり、それゆえ内外部の空間が連動した豊かさと魅力が求められる。
この新講義棟は従来の定式化された大学講義室と比べ建築内部と表層へのデザイン上の配慮と工夫が十二分にほどこされており、その試みは評価したい。しかし、キャンパス構成上の軸線/動線/諸室配置はオン・カリキュラム上の合理性よりもむしろ設計者の建築形態上の操作(特に中央吹抜け空間のデザイン)のための主観的な見解として理解せざるを得ない。それゆえに生じるキャンパス内にあるべき(オン・カリキュラムとオフ・カリキュラムの両方のキャンパス生活を包み込むべき)施設としての建築空間の緊張感、包容感の欠如、またキャンパス外部空間との断絶性が随所に見られ、審査員全員の合意で奨励賞とした。
「小樽旅亭・蔵群」は、オーナーのホスピタリティと設計者の建築手法のコラボレーションが創り出した建築であり、また現代数寄屋を志向する設計者のこれまでの集大成として理解し、その緻密な空間構成を高く評価した。しかし、表層的な仕上げ材等にその志向が集約しすぎ、その拘りが建築空間の豊かさをむしろ低減させていることが心残りであった。しかし北海道建築のひとつの方向性を強く求める空間構成手法を高く評価し、その継続的な展開と普遍化への努力を期待し、『素材・尺度・光の変化による群としての空間設計手法』として審査員特別賞として授賞の対象とした。
「北海道立北方建築総合研究所」は、基本計画の段階から、これまでの旧寒地建築研究所が蓄積された室内環境計画理論や新しい環境制御技法が随所に組み込まれ、果敢な建築化も試みられている。しかし本来重視されるべき研究環境(物理的環境ではなく社会的環境)への配慮には疑問も生じ、また本来は具体的なアクティビティを前提とすべき中央部のアトリウムも、環境計画上の合理性の説明はあったが、建築計画的な合理性、空間構成上の合理性とはミスマッチであり、総合的にバランスの取れた建築とは評価することが出来ず、また過大なアトリウムの活用のありかたも含めて大きな疑問が残り、審査員の合意によって対象からはずした。特に公共建築であるが故に求められる建築の総合的な合理性と質の水準設定への大きな疑問が審査員の中に残っている。
「日藤メモリアルガーデン」は大正初期の軟石倉庫の改修・再生計画・設計である。特に美術館併設店舗の計画設計は簡素な構成と原型の持つ構造美を極力生かそうとした手法は評価でき、外部空間の構成もヒューマンな町並み要素として再生されている。しかし、物販店舗・事務所棟では残念ながらこの手法を適用できず、歴史的建造物の再生・改修の水準から見ると評価できなかった。町並み再生を前提としたときには、2棟の改修計画設計と外構再構成のシナジャイズが不可欠であると判断し、審査の対象からはずした。
北海道建築賞の選考基準が、「建築理論や設計・デザイン」に対し、「これからの北海道建築の地平を示唆しうる社会性と規範性」、「新しい挑戦・問題意識」加えて新たな人間・生活・環境の構築への意欲とビジョンに対する「合理と論理、ラディカル、そして洗練への努力」であることを再確認し、今年度は、北海道建築賞(本賞)は該当なしであることを確認して、本年度の建築賞審査委員会を解散した。
(文責:小林 英嗣) |
第27回-2001年度
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本年度の審査の対象作品は、応募作品が7点、建築作品発表会発表作品から10点、計17点でとした。第1回審査会は中井委員を除く全メンバー参加のもとで開催され、昨年の委員会の経緯・審査の視点について意見交換を行い、今年度の審査方針を確認した。その後、書類選考によって審査が開始され、審査委員の推挙作品と推挙の理由に関する討論を経て、現地審査の対象とすべき候補を7点に絞り込んだ。
応募作品からは、遠友学舎(小林研究室+アトリエアク)/、作品発表会からは、奥尻町津波館(アトリエブンク)/標茶町虹別オートキャンプ場(アーブ建築研究所)/矩形の森(五十嵐淳建築設計)/道立ゆめの森公園(ブンク・環境設計・今井設計共同企業体)/¬(かね)(ナカヤマ・アーキテクツ)/札幌ドーム(原広司+アトリエ・ファイ建築研究所、アトリエブンク特定共同企業体)/の7点であり、北海道建築の新たな地平を予兆させる建築作品も含まれていたが、建築としての意味や役割は多様であった。デザイン習作として捉えるべき建築、作品の建築、地域コミュニティの基盤や資産としての建築、地域社会の商品としての建築などである。しかし、今年度の建築賞委員会でも、これまでの選考の視点を崩さずに、「計画理論や設計・デザイン」に対しての「新しい挑戦・問題意識」、新しい人間・生活・環境の構築への意欲とビジョンに対する「ラディカルな追求」、加え、それらの「社会性」と「規範性」、を建築学会が優先させるべき価値とし、「新鮮、ラディカル、そして洗練への努力」を共通価値として、北海道建築賞の選考と審査を進めること、また候補作品は全て複数の委員が現地審査を行うという原則も了承され、審査が開始された。その後、全ての候補作品の現地審査完了を確認し、最終選考の委員会を開催した。それぞれの建築について、建築作品の特徴と評価すべき内容、設計や計画のプログラムとコンセプト、デザイン性を支えている論理性の今日的な意味などについての議論が展開された。単なる機能性や空間性や形態などの表層的な意匠や造形にとどまらず、それらを生み出した建築家の視座、プログラムや方法論、そしてその完成度や社会性などをめぐる意見が長時間にわたって交換され、委員の情緒や感性、そして建築的面白さや好みに基づいた曖昧な議論ではなかったことを報告しておく。
「遠友学舎」は、新渡戸稲造らによる「遠友夜学校」の精神を受け継いだ大学の集会施設であり、その計画とデザインの質とそのプログラム性、空間性と構造性の合理、加えて周辺の歴史的・自然的環境との共生への姿勢と北海道建築の原型を探ろうとする姿勢について高く評価できるという共通の見解となった。「奥尻津波館」は、不幸な災害のメモリアルとしての役割を求められた建築であるが為、建築の自己性を強く意識しており、内部空間構成や展示の饒舌さに比して、広大な自然環境(災害現場である海)との対話や周辺や人間を広く包み込む環境デザイン的な配慮には課題を残しているという共通の評価となった。「標茶町虹別オートキャンプ場」は、自然環境の保全と風景に馴染んだ静かな佇まいの形成を目指した群建築であるが、個別の建築においても求められるべき空間性や構成論については新たな挑戦と洗練への姿勢が欠けているという共通の評価となった。「矩形の森」は、若い建築家のライフスタイルを地域に普及しているローコストな建築資材を巧妙に用いて、包み込んだ住まいであり、環境技術とリンクしたいわゆるこれまでの北海道的住宅にはない心地よい空間性と果敢な挑戦を評価したが、習作の域を出ていない物足りなさの存在が評価の分かれ目であった。「道立ゆめの森公園」は、利用圏域の広い道東コミュニティの拠点であり、その中の施設を審査の対象としたが、形態の特異性のみを強調する姿勢と判断は、地域の風景論から、加えて公共建築であるがゆえのコストとベネフィットからも問題を含んでいるという共通の評価となった。「¬(かね)」は急峻な斜面と風景の特性を読み取り、プライマリー建築を指向しつつ、環境への同化を試みた住宅であり、北海道型住宅の新しい原点探しといえる試みは評価出来るが、プライマリー建築にこそ求められる構造計画と形態化、そして空間性の間の洗練された合理性については多くの疑問が残った作品であった。「札幌ドーム」は、ドームという巨大建築ゆえに希求されるべき風景と建築形態の相克、構造計画と建築デザインの研ぎ澄まされた論理性と合理性、建築の計画性とデザイン性についての設計者の意思とそれを取巻く他者との闘いと協働との中から生まれてきた作品であり、近代建築の最も正統である構造と形態、そして素材の論理を正則に基づいて駆使しているとの評価を共有化した。
審査委員会では、選考の基準が「これからの北海道建築の地平を示唆しうる社会性と規範性」、加えて「合理と論理、ラディカル、そして洗練への努力」であることを再確認し、「遠友学舎」と「札幌ドーム」について、'卓越した建築力と建築理論そしてデザイン技術によって、完成度の高い建築作品としてまとめ上げているという'、評価にあたった委員一致の見解のもとで、北海道建築賞(本賞)にふさわしいという結論を得た。(なお、最終審査選考では、関係者である委員は退席し、審査を行っているのは言うまでもない)
文末ではありますが、今回の最終審査の直前に委員である中井仁実君がご逝去されましたが、これまでの審査における建築の明快な視点やデザインの洗練性についての鋭い眼差しを想いだしつつ、全員でご冥福をお祈りし、審査を継続したことを付け加えておきます。
(文責:北海道建築賞委員会・小林英嗣) |