■ 表  彰  (社)日本建築学会北海道支部
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2008年度「卒業設計優秀作品(日本建築学会北海道支部賞)」作品・講評


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2008年度

大学の部
金賞

石黒 卓君

北海道大学工学部環境社会工学科建築都市コース Re:edit… Characteristic Puzzle

 地方都市の傾斜地の住宅地で日常の生活の中で気になる場所や好きな場所の断片を10メートル角に54か所の場所を切り取り、その一か所一つか所の特徴を再構築してつなげ合わせていく。綿密な調査により抽出した各敷地や建物の関係は抽象的に読み直されて、重力を失った擁壁や消火栓などは記号化されその細部に至るまで徹底的に計画の中に織り込まれている。これらの細部があることにより風景の記憶はさらにリアルなものになる。今まで不連続であった場所と場所が連続してまちをつくり新しい風景として異化された場所ができる新鮮さが作者の力量を感じさせる作品である。
(文責:小西 彦仁君)

金賞

永谷早都実君

北海道大学工学部環境社会工学科建築都市コース 風砂

 石狩川河口砂嘴の、開発造成の爪あとが残る埋め戻し平坦地を、地形づくりと植生で回復させようとする計画である。ハマナスなどの海浜植物に、砂は欠かせない。石狩湾から吹く風で移動する砂を受け留め堆積できるように、砂防林のような長壁を建てる。砂丘の稜線のようなジグザグ配置の壁は、遠い将来、砂で埋まり自然地形に生まれ変わる。壁の内部の回廊は、訪れる人に環境啓発と憩いの場を与える。長い時間の経過とともに植物は茂り、木組みの壁は土に帰る。
このように自然環境と建築を時間の大きなスケールで組み立てる着想に説得力がある。回廊内に侵入する砂の演出や、風で回るオブジェのデザインが計画の完成度を高めている。外観の絵画的表現も力量を評価したい。

(文責:齊藤 徹)

銀賞

出村由貴子君

北海学園大学工学部建築学科 「刻印された建築空間ー神々が威る岬が今伝えることー」

 瞬時にしてこの作品の魅力に己を引き込まれる。「地中美術館」を連想させるのが少々残念ではあるが力作であることは間違いない。プリミティブな自然体と建築の駆け引きのような、コラボレーションのような、とっても心地よいその空間は神々の領域のようにも見える。美しいプレゼンテーションは一層その結界を危うくさせ、単体の建築はついつい牙城な存在になりがちであるが、こんな相克しあう建築も我々建築家にとって一つの方向性を示してくれた作品である。感謝したい。
(文責:中山 眞琴)

銅賞

浮須 隆君:

室蘭工業大学建設システム工学科 +hatake−畑による生活の変容−

 都市部に建つ高層集合住宅の提案である。集合住宅といっても直方体の塊ではない。住戸の周囲に畑が配置されており、都市と建築、外部空間と居住空間のインターフェイスとして畑が位置づけられている。都市建築への問題意識、日光取得を基軸とした形態、配置計画の論理性などが明快であり評価されたが、建築への導入部の丘の設定に全体コンセプトとの整合において説明が不足しており、作品の完成度としては課題が残された。
(文責:菅原 秀見)

短大・高専・専門学校の部
金賞

佐藤 杏那君

札幌市立高等専門学校インダストリアルデザイン学科 SAPPORO CAMP を考える

 目的・解析・提案・意匠・表現が見事に一体化したSAPPOROシェルター(寒冷地対応型応急仮設住居)です。5つの提案の中で特に透光性と断熱性の確保を素材の選択も含めて上手に提案、仮設住居のもつ閉塞感を減少し、美しい造形に仕上げています。 フライシートである程度は確保出来ると思いますが、屋根又は壁面骨組の中にデザインされた斜材を入れ、より剛性を高めましょう。断熱性能の検証実験もこの作品の実証性を高めています。ぜひ現寸の作品で組立ての楽しさ、内部空間の確かさ、外観の美しさを体験してみたい作品です。
(文責:上遠野 克)
銀賞

堀内 銀君

釧路工業高等専門学校建築学科 deforme〜別海市街地における酪農を用いての「まちおこし」スタイルの提案

 別海町が抱える地域の産業・酪農の課題を解決するため、観光をキーワードとする新しい施設づくりに対し、デフォルマシオン技法による建築造形が生み出すムーブマンを地域活性化の起爆剤にしようとする意欲的な提案である。建築の造形や新たな空間の提起が新しい地域活動や希望の出発点になるという提案は支持されるだろうし、建築の可能性を広げる大切な試みであろう。ただ、群建築としての配置は、数種のモチーフによる建築造形の陳列になった感は惜しまれる。場としての空間力の提案があっても良かった。
(文責:渡邉 広明)

銅賞

国京 佳史君

札幌建築デザイン専門学校建築工学科 活気と日常の狭間−グラデーションの集合体−

 日常見かける何気ない風景から問題点を取り出し、現地調査によりその事実を確認していくという都市と建築への誠実な取り組みに好感をもった。また、数学的操作により巧みに立体ぐリッドの中に集合体を作り出す手法、グラデーションを表現するように密度を変えたファサードデザインなど建築の空間を形成する論理と表現に秀逸なものが感じられた。一方で住戸プランが単調に感じられる点、具体的な生活や活動のイメージ表現がやや不足していることが課題として挙げられた。高いプレゼンテーションの質などを総合的に判断して銅賞にふさわしい作品であると判断された。
(文責:小倉 寛征)

工業高校の部
金賞

片野登士晃君

北海道札幌工業高等学校建築科 吹き抜ける空間〜光・風・森・人・時間〜

 キーワードが3つある。「明るいプラットホーム」、「形状は木々や山々をイメージ」、「建物自身が自然の一部」。これらを頭に入れて作品を見ると1Fの展示室が道路で分断されていたり、パースでは広場に木がなかったり、多少の問題はあるにしろ作品としては大変考えられていて力作である。公共的な建物は特に交通施設はどこの建物を見ても味気ない。スピードが要求されメタリックになりがちな感覚はわからないでもないが、だからこそこのような駅が必要なのではないだろうか。その信念を評価し金とした。
(文責:中山 眞琴)

銀賞

田口 昌実君

北海道札幌工業高等学校建築科 SORA〜笑顔広がる場所〜

 軸線をずらした普通教室棟と特別教室棟が「語らいの場」を挟み込むように配置された学校である。ここで設計者は普通教室と特別教室の間の移動を否定的な要素として捉えず、階段やガラスを利用した「語らいの場」を積極的に設けることで交流が生まれる空間に置き換えている点が評価された。これはプレゼンテーション中に示されているように既存の学校の配置計画や教室計画の分析を行なうことで発見された解決策だと感じられた。また、図面表現もしっかりとした技術を感じさせるものであることから銀賞がふさわしいと判断された。
(文責:小倉 寛征)

銀賞

山口 敏弥君

北海道旭川工業高等高校建築科 北彩都〜五感ミュージアム〜

 想像力を刺激する美術館の提案である。忙しい街への危機感からリラックスができ楽しむことができる空間の提案として「宇宙」「香り」「無限」「光の影」「鏡」の5つの空間が計画されている。音のない空間、小さな窓から光が差し込む空間、光にあふれる空間など独創的な空間が五感に働きかける。空間と人、自然と人の一体感の追及は明快であり、ビルディングタイプにとらわれない空間性からの自由な発想が評価された。
(文責:菅原 秀見)

銅賞

橘 亜莉沙君

北海道函館工業高等高校建築科 和みの郷

 作品は、少子高齢化の時代状況を読みとり、そのような時代を象徴する高齢者施設設計を課題として提起された。この施設には、クリニックも機能訓練の場も、図書館もミニシアターも、と盛りだくさんだ。暖かさを感じる自然木や清潔感をイメージする白を基調とする建築としている。ひとつのまとまった建築に仕上げたことは評価される。ただ、ここで暮らすお年寄りが幸せを感じるかどうかについては、もっと考えることも必要だろう。もっと人を見つめることも必要だろう。そうすると、建築はもっと魅力的になるでしょう。
(文責:渡邉 広明)

銅賞

新沼 紀宏君

北海道苫小牧工業高等高校建築科 「いも虫保育園」

 いも虫をモチーフにしながら、中庭を取囲む様に保育室・廊下が配置された作品です。円型の保育室も楽しそうです。平面図、立面図もしっかり書かれていますが、一番素晴らしいのは模型です。図面では表わせないユニークな形態がとても良く表現されています。2階の大きなプレイルームの屋根がもう少し工夫され、上部からの光が溢れる様になると、さらに楽しい作品になったでしょう。
(文責:上遠野 克)

2009.6.16 作成
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