日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!32号

平成20年度北陸支部総会 特別講演

「空間と構造」−私にとっての構造デザイン

講師: 斎藤 公男 (日本建築学会会長、日本大学教授)

日時:2008年5月17日(土)15:00〜16:30
場所:富山県民会館特別会議室304号室

報告 : 秋月有紀 (富山大学)

写真1: 公演中の斎藤氏


写真2: 総会後の懇親会で 学生と
談笑する斎藤氏


写真3: BDS 柏の杜(2007)

  日本建築学会会長の斎藤公男先生による特別講演が、北陸支部総会後に富山県民会館特別会議室で行われた。参加者は建築学会員や建築士協会員だけでなく、学生や一般の方などを含め、約150人と盛会であった。

  講演に先立ち、斎藤先生の著書「空間 構造 物語」の紹介があり、会場には現物が数冊回覧された。出版にあたり先生が特に配慮された点として、@数式を記載しない、Aビジュアルを重視しオールカラーで写真を多用する、B価格をできるだけ抑え学生にも手が届きやすい本にする を上げられており、構造をこれから勉強する学生が興味を持つような工夫が随所に見られる著書であり、構造を専門としない人にとっても書棚に置かれるのをお勧めする一冊である。

  講演では、建築における芸術と科学技術のベクトル、恩師を含む数々の知との出会い、そして構造のデザインの進化について紹介された。恩師坪井善勝先生から学んだこととして、桜門春秋2006秋季号からの引用されていたものを次に紹介する。坪井先生は「人生は美しくなければならない」との持論を、斎藤先生を初めとする研究室の学生へ徹底的に教育された。

  「研究・教育・設計の環」がいつも結ばれているよう心がけること。

  「建築のための構造」をめざすことが大切であり、研究のための研究に閉じこもらないこと。

  「世界的視野」を失わず、自らを外の世界に投じる勇気と実力を養うこと。

  「美しさ」へのこだわりは、理論、研究の核であり、構造設計もそうあらねばならない。

  「後進」に対して心を配ること。

  坪井先生の元で研究された時に、国立代々木競技場の計画を通して、宇宙船地球号操縦マニュアルでも著名な建築家バックミンスター・フラーとの交流が始まった。フラーの語録の引用を紹介する。頭が平面思考のままでは立体を生み出せない、との考えに基づいて実習を通じて構造を理解させる授業スタイルを積極的に取り組まれているのは、フラーの影響もあるようである。

 We are all astronauts (われわれ全員は(宇宙船地球号の)乗組員だ)

 Don't fight forces use them (力と闘うな、力を利用せよ)

 Doing the most with the least (最小のエネルギーで最大の効果を)

 Think global act local (地球規模で思考し、その地域で実践せよ)

 Architecture out of laboratory (実験室から生まれる建築)

  また、数多くの事例写真を用いながら、テンセグリック構造や張弦梁構造など数多くの構造デザインを紹介された。特に最近のBDS柏の森の例は、東京ドームと同じ大空間に対して新しい構造技術を導入した興味深いものであった。最後に最近の建築学会での新たな取り組み「テクノロジーと建築デザインの融合・進化 Archi-Neering Design展2008」も紹介された。
 斎藤先生は1.5時間もの長時間、熱心に講義してくださった。時間いっぱいになったため質疑応答の時間がとれなかったが、講演会後の懇親会では、先生を囲んで活発な意見交換がなされた。