日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!32号
支所だより 〜福井〜

伝統的な建物を活用した街の活性化への取り組み

五十嵐 啓
(福井工業大学 建設工学科建築学専攻 准教授)


 昨年、福井県建築士会南越支部が「親子でまち暮らしを楽しむ家」設計コンペを実施しました。このコンペは、建築士会南越支部や県内の大学研究室が、越前市(旧武生市)の中心市街地活性化のために行ってきた活動が基礎になり、国の「平成19年度全国都市再生モデル調査」の「先導的な都市再生活動」として認められ、その一環として実施されたものです。このコンペのユニークなところが、最終審査を公開プレゼンテーションで行い、審査員の先生方の票と市民の方の票の合計で順位を決定するものでした。「・・・チャンピオン」というテレビ番組を思わせる審査方法で、多くの市民の方が審査会場に足を運ばれ、発表者の内容を生で聴講し、審査に参加されました。

 町並み保存運動は、全国で盛んに行われているようですし、福井県越前市(旧武生市)にも大変立派な町並みが現在でも残っています。しかし、近年は住民の高齢化が大変深刻な状態になり、その維持に赤信号が灯っています。この状況を至急に、少しでも改善するために、実際にそこに住んでいる住民の方や、すでに郊外に住まわれている若い世代の方に、直接分かりやすく語りかけることができる大変いい機会であると思い、このコンペに参加いたしました。我々は異分野の専門家5人でチームを作り、様々な意見を何とか提案にまとめ応募致しました。結果的には幸いにも市民の方々から多くの票をいただき、最優秀賞を獲得できました。

 このコンペに応募すべくいろいろな考えをまとめていく過程では特に、市民の方々が主役であるということ、決して聴衆ではないこと、更に今後暮らしていく人たちは、今既に郊外で暮らしている若い世代であることを意識しました。彼らの世代は郊外の暮らしに慣れており、町並み保存に高い意識を持っているわけではない。その世代が街中に戻り、古い町家の価値を見直し、そこに住もうという決断をするきっかけをどう訴えていくかに頭を悩ませました。町並み保存と同時に、むしろ最優先課題として、そこでの暮らして楽しいか?が、我々の中心となったテーマで市民の方に多くの票をいただいたのは大変心強く思っています。