日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!32号
支所だより 〜長野〜


蔵の町須坂をキャンパスに
産・学・官・民の連携・協働による
新たな知の創出と発信
「蔵の町並みキャンパス」


加藤 光弘
(長野県須坂市まちづくり推進部まちづくり課長)









1.歴史と文化が集積した蔵造り等の建物の活用経緯
 長野市の北東部に位置する須坂市は、現在では機械電子部品工業が発達しているが、明治から昭和初期にかけては製糸業により栄えた町であり、いち早く洋式の器械製糸技術を導入し、明治7年には最初の製糸工場が設立された。次第に工場・工女の数も増加し、大正初期には工女数が6,500人にも達した賑わいのある町であった。この繁栄時代に建てられた豪壮な建物が土蔵造りの町家であり、現在、市の中心市街地を中心に多く見られる。
 昭和63年の日本ナショナルトラスト、また、平成元年の「伝統的建造物保存対策調査」において、歴史的建造物が347軒、その内、土蔵造りの建築物は200軒以上あるとの調査報告がされた。また、蔵造りで全国的に有名な、倉敷(岡山県)、川越(埼玉県)、栃木、喜多方(福島県)に劣らず、土蔵造りの建物の色彩、意匠、屋根の形などが変化に富み、非常に魅力的であること、土蔵造りの町家以外にも、明治・大正時代の洋風建築や江戸時代の寺社建築の優れた建物が町家の町並みに接した場所に残っていることなどが特徴として挙げられた。
 そこで、平成5年から独自で、また、平成7年からは街並み環境整備事業補助金を導入し、これらの歴史・産業遺産の保存や町並み整備を行っている。しかしながら、経済・産業環境の変化による中心市街地の空洞化は避けられず、かつての栄華を極めた中心市街地は歩く人もまばらであり、非常に価値の高い中心市街地の歴史・産業遺産を活用した賑わいの創出をどのように行うか、新たな課題が浮上した。

2.蔵の町並みキャンパス実施に向けた取組み
 平成17年8月、産・学・官・民の協働により若者が集い交流が生まれ、21世紀を担う知の創出と発信の地とする。また、地域住民をはじめ、近隣市町村の住民を対象とした公開授業「オープンキャンパス」の実施、市民の自主学習の場とするなど、様々な事業展開を行う中で新たな都市づくりと賑わい創出を目的とする「蔵の町並みキャンパス」構想を策定し、長野市内の大学・短大・高等専門学校、企業、 まちづくり団体、商工会議所、行政にて研究会、推進協議会を設立し、具体的な事業実施に向けて研究、協議を行った。

3.蔵の町並みキャンパスの実施状況及び成果
 推進協議会での協議結果に基づく事業計画を策定し、平成18年度から本格スタートした蔵の町並みキャンパスは、信州大学ほか3校が歴史的建造物や町並みの残る街区の再生設計、歴史的建造物を活用した美術展、博物館・美術館の収蔵品から生活を学ぶ課題など、延850人の参加により6事業を展開し一応の成果を挙げることができた。また、歴史的建造物や町並みの残る街区の再生設計では、その成果を市民対象に発表会を開催した。特に拠点キャンパスとなる旧上高井郡役所の耐震整備、事業推進に向け企業から寄附をいただいたことは特筆すべき事項である。
 また、2年目の平成19年度は、事業数が9事業に増加し、学生等の参加者も延1,100人となっており、中心市街地の賑わいの創出にも一役かっている。特に拠点キャンパスである旧上高井郡役所の外構工事に際し、学生から設計案の提案をいただき、提案内容を採用した実施設計により工事を行ったことは、初めて目に見える事業成果となった。
 さらに3年目を迎える今年度は、参加大学や事業の拡大を図るため、現在、大学等との事業調整を行っているが、近代化産業遺産に指定された建造物の調査研究などの新たな取組みも提案されており、産・学・官・民の地域連携による新たなまちづくり施策として期待は大きい。