日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!32号
学生シリーズ

「子宮〜他と繋がるための包まれる空間〜」

清水 靖子
(新潟工科大学工学部建築学科 平成19年度卒業)











 私は大学生活の集大成とも言える卒業設計で、子宮をテーマに2年間構想を練り作品をつくりあげました。

 人が生を受けて最初に体験する空間を、私は覚えていない。そこ(子宮)はきっと狭く暗く少し怖い。しかし温度や音、感触等の見えない形が存在する空間。反面、現在私たちは社会という大きな空間の中で、他と交じり合い、時に自分の居場所を見失い、ストレスを生じ、めまぐるしく過ぎる日常の中で自分が息をして脈をうっていること、生きていることの喜びや尊さを普段あまり感じられなくなっているように思える。自殺者の存在を日々耳にする現代に、自分を確認できる子宮のような空間が必要なのではないだろうか。子供が母親の胸の中に抱かれようとするように、自分という小さな個と大きな世界との不安定な関係に、自分のスケールに見合った自分だけの空間を持たせ、他との関わりや繋がりをスムーズにする。結果成長を促し、自分の形を見つけ命の喜びに祈りを捧げ、また広い世界に踏み出せる。どんな悩みを抱えていても、どんな人でもやさしく包んでくれるお母さんのお腹の中のような、そんなやさしい空間を私はつくりたかったのだ。

 子宮内部は、壁に小さな個の空間がポコポコと開いており、それは壁が外方向に向かうにつれ、成長するように大きくなる。そしてその壁自体は祈りの形、合掌するように2枚が支えあいながら内から外へ繋がっていく。平面で見ると母体(外)と子宮(内)が一繋がりでできていることを表し、又、胎児が成長するにつれ子宮が広がっていくように、さらに壁自体をへその緒のように捉えることもできる。壁と壁の間には共有スペース、つまり他と交わるための空間が挟まれており、他の空間も内から外へ空間自体が成長していく。またそこを行きかう人々も1人で個の空間にこもっていたが、同じ悩みを抱えてここへ来た誰かと交流することで、殻(壁)を少しずつ壊し、外側の個の空間で多人数でこもったりと、外方向へ歩を進めることで出会いを重ね、自分自身の空間を成長させていく。出会いは自分とは違う考え方を与えてくれるきっかけとなったり、何らかの心の成長をもたらしてくれる。そんなふうに空間と人が共に成長をしていく。

 引きこもりを経験した私が、実際に出会いによって救われたように、他との交わりを諦めないでほしい。命の尊さを再認識してほしい願いも込めて、自殺の名所でもある青木が樹海を設定敷地としました。