日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!32号
支部活動報告 北陸建築文化賞 受賞にあたって

受賞(作品) : 北日本新聞 創造の森『越中座』
受賞者 : 米田 浩二(鹿島建設褐囃z設計本部)

北日本新聞 創造の森『越中座』

文 : 米田 浩二(鹿島建設褐囃z設計本部)










 富山県の地方紙「北日本新聞」の新工場である。新工場は「環境と情報技術の共生をめざす、緑の中のITパーク」のコンセプトのもと、ゲストハウスやメディアプラザ、屋上ガーデン、芝生広場、ビオトープ空間を備え、地域に開かれた情報発信拠点としての役割も担っている。

  敷地には、「生産エリア」、「事務・厚生エリア」、「ゲストエリア」の3つのエリアからなっている制作センターと、別棟で折込広告を扱うサービスセンターをトラックヤードを共有するかたちで配置している。敷地東側の雨水調整池は、季節を感じ取れる木々や水辺を整備したビオトープ空間とし、利用者に憩いの場を提供すると共に隣接する田島川の川沿いの修景として相応しい環境景観を形成している。
  敷地西側には、将来用増築スペースを確保することで印刷業務を続けたままの輪転機更新に対応させて建屋の長寿命化を図っているが、増築時までは手入れの行き届いた芝生広場として「地域社会との交流の場」としての機能を与えている。

  制作センターは、各エリアごとにボリュームの分節化を図り、巨大な「生産エリア」が敷地中央になるよう配置し、周辺のスケール感に溶け込むよう配慮している。外装も、要所に再生木や耐候性鋼鈑、天然石等を用いて緑に溶け込む素材感豊かな表情をもたせ、ITパークのコンセプトを具現化している。
  「事務・厚生エリア」は、ビオトープ空間と田島川に対しリニアに配置し、立山連峰に向って大きく開放することで明るく快適な環境を提供できる骨格を構築している。また、ガラス張りの大開口部には、深い庇と縦型電動ルーバーを設け、日射負荷の低減による温熱環境の向上と立山連峰の眺望確保の両立を図っている。 ほかにも、屋上の庭園化、風力発電・ソーラー発電による外灯等、見える「環境配慮設計」を随所に取り入れることで、次代を担う子供達へ「地球環境への配慮」がメッセージとして伝わることを意図した。
  「ゲストエリア」では、『見せる工場・体感できる工場』として、1階に全面ガラス張りの見学者ホールを設置、また、見学者施設である3階メディアプラザへの直通動線となるエスカレーターからもガラス越しに生産エリアを望めるようにして、ふだん目にすることのない新聞制作プロセスの全体を把握できるようにしている。

  設備では、「電源引き込みの二重化」+「自家発電機」、「機器の瞬停対策」+「サージ保護装置の設置」、生産エリアの「防潮対策」等、基幹工場として災害に対する万全の対応を施している。また、防災面では、全館避難安全検証法(ルートC)を採用し、安全性、経済性、及び開放的な吹き抜け空間の具現化等デザイン性を向上させている。

  現在、新工場には毎日大勢の見学者が来館し、オープン後1年9ヶ月で9万人を突破した。また各種地域イベント開催の核施設としても有効に機能しており、富山県での社会的貢献度も多大である。