日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!32号
支部活動報告 北陸建築文化賞 受賞にあたって

受賞(作品) : 妙高市立新井南小学校ひまわり保育園
受賞者 : 高橋 政志(叶ホ本建築事務所)


「雪国の学校の作り方」

文 : 高橋 政志 (叶ホ本建築事務所)


南西より望む外観


地域交流スペースの校歌の歌詞(四季)を表すレリーフとメロディーを表すベンチ


小学校アリーナ


低学年ワークスペースより教室を見る


保育園遊戯室

  豪雪地旧新井市の南部を統合する小学校と保育園で、統合後も小学校は各学年1クラス最大25名、全校で100名程度、保育園定員60名の小規模施設です。南北に水田の広がる気持ちの良い敷地は、南に向かって緩やかに上っており、南にある校庭は北側アプローチ道路より2mほど高くなっています。校庭よりさらに2mほど高い位置に配置した保育園、小学校の教室群、共用のランチルームなど主要なスペースのある2階は、4m積雪時も日照が確保できます。1階には職員駐車場、地域交流スペース、体育館、給食室を配置しました。
 オープンシステムの普通教室群は、2学年毎にまとめ、それぞれ空間の造りを変えています。さらに、手を動かす作業主体のアトリエ、調理専用の調理室、体育館のステージと音楽「演奏」室を兼ねた創作ステージ、「鑑賞」利用を主体にパソコンも置かれるマルチメディア室、多目的利用を想定し囲炉裏も体験できる生活科室等の特別教室群は教科の枠を越えた活動を促す空間となっています。それらを体育館の吹抜を囲う形で配置し、100名足らずの小規模校に賑わいをもたせました。
その他、対を成す体育館と遊戯室の屋根、雁木をイメージしたテラス、地元産杉間伐材による木の内装、深夜電力利用の床暖房、地域ぐるみで製作した地域交流スペースの壁面、親子で製作した学習机等もこの学校を特徴づけています。

積雪処理の大変さと、雪に閉ざされた中での活動に対する人々の想いは雪国での設計経験豊富な私たちの想像をはるかに超えるものでした。本来中庭があって採光通風に寄与すべき中央部分に屋根をかけ、体育館や遊戯室に利用するという手法は、雪国だからこそ受け入れられたものだと思います。
 暖かい室内に囲われて体育館は凍えることはなく、その天井の高さゆえに大雪の際も明るく、快適な活動空間を提供することができました。また、敷地の高低差から生じた地下ピット利用の通風経路を通して、夏には体育館、教室群別々に涼しい風が導かれます。
 このようなこの学校の特性は、広さが十分にあって天井も十分に高く採光可能な体育館が中央に配置された事と、敷地に高低差がありたまたま通風経路が確保できた事、この2つの条件がそろって初めて実現可能となりました。
 中庭に屋根をかけるのは、雪国だからこそ受け入れられた手法とは言うものの、これが体育館や遊戯室でなければ、かつて廃れたアメリカ型のオープンスクールの様になります。また天井に十分な高さがなければ、雪に埋もれて真っ暗になってしまいます。
  雪国だからこそ安易にやってはいけない事でもあるのです。