日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!33号


2008年度日本建築学会北陸支部大会 シンポジウム
「近年の北信越地方における地震被害と災害復興」

西村 督 
(金沢工業大学環境・建築学部建築学科准教授)


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写真2


写真3


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写真5


  北信越地方でこの4年間に大きな被害をもたらした地震が3件発生した。2004年10月23日に新潟県中越地震、2007年3月25日に能登半島地震、2007年7月16日に新潟県中越沖地震である。本シンポジウムでは、被害を受けた建物の復旧、地域の復興に向けて被災者、自治体、建設業団体がどのように取り組んだか、また復旧・復興活動の問題点を5名の講演者が報告し、その活動に関する質疑が行われた。

 まず新潟県中越地震と能登半島地震の建物被害調査の結果、復旧状況を金沢工業大学建築系の後藤正美教授から説明がなされた(写真1)。

  次に新潟県中越地震で被害が大きかった長岡市山古志地域で自立再建するための支援活動について、アルセッド建築研究所 大倉靖彦氏から報告がなされた(写真2)。被災者が自立再建できるように設計者、施工者、自治体(長岡市)間で実施された住宅供給の協力体制の流れと再生の様子が詳細に報告された。

  新潟県中越沖地震で柏崎市の歴史的建造物の復興がどのように進められたかを、新潟工科大学油淺耕三教授より説明がなされた(写真3)。震災から一年が経過した現在、歩道や建物も被災当時のままの箇所も所々に見られ、本格的な復旧活動は始まった段階である。一方で文化財建物は復旧工事の着手も早く、終了しているものもあるという報告であった。

  能登半島地震では木造住宅以外に土蔵の被害が多かった。輪島市で被災した土蔵を修復する活動を小林吉則建築計画室 小林吉則氏より報告がなされた(写真4)。土蔵は酒造や輪島塗といった産業に不可欠な道具であるが、被害に対する公的支援は解体撤去のみであった。また大工、左官職人の数も十分ではないという労働力の問題も浮かび上がった。ボランティアによる協力の下で復旧された事例、NPOによる土蔵再生構想、左官技術の伝承を推進する体制も報告された。

  同じ輪島市内の門前町黒島地区では、廻船業で栄えた町並みが現存している。能登半島地震で希少な伝統的景観を持つこの地域が大きな被害を受けた。被災状況、復旧への問題点、復興計画を金沢工業大学建築系の中森勉准教授(写真5)から報告がなされた。

  以上の講演を終えた後、被災した建物が文化財として扱われる建物とそうでない建物との支援体制の差、被災経験が無い時期に災害時の対応が可能なマニュアルの必要性など、今後復旧・復興体制を具体化していく上で重要な議論が交わされた。