日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!33号
支所だより 〜石川〜

「自然と建築 −地盤災害−」

冨山 昭宏
(金沢工業大学環境・建築学部建築系)


写真−1


写真−2


写真−3


写真−4


写真−5

 自然を求めて郊外に家を建てました。家を立てた当時は周りに家は少なく、自然も豊かでしたが、今は家に囲まれて街の中とあまり変わりません。ということで、写真−1、写真―2のようになりました。しかし、傾斜地なので景色は最高です。というロケーションですが、自然災害に対してはどうでしょうか。

  写真−1の住宅団地の近くに森本断層があります。写真−2の近くには富樫断層があると言われています。金沢市防災会議編「金沢市地域防災計画 震災対策編」(平成10年5月に確定し、平成18年5月に見直しされた)によると、森本・富樫断層帯が活動すると、マグニチュードM7.2の地震が発生し、断層を挟んで金沢市の南北の広い範囲に震度6強の揺れが起こると推定されている。

 写真−1、写真−2のような傾斜地が震度6強の揺れを経験するとどうなるかは、平成16年10月23日に起こった新潟県中越地震の被害が参考になる。写真−3は新潟県中越地震によって自然豊かな斜面に建つ住宅の前面道路が谷側にすべり、住宅も谷側に傾斜してしまったものである。新潟県中越地域の地盤は、比較的新しい時代の地層が堆積しており、特に丘陵地帯は地すべり地帯として有名である。そこに地震直前に台風23号による降雨という悪条件が重なった。その結果、丘陵部の谷埋め盛土が斜面崩壊して、写真−3のような被害が多発したのである。このような地盤災害は特殊なケースかというと、そうではない。谷埋め盛土の被害は、昭和53年の宮城県沖地震で階段状の谷埋め盛土が住宅ごと谷側にすべり落ちる被害があってからしばしば指摘されている被害パターンである。

 それでは、谷埋め盛土は避けて、急斜面の造成地も避けたので安心。と思ったら、緩斜面でもすべるという人がいる。京都大学防災研究所斜面災害研究センター佐々恭二教授は、緩斜面中のある土層が地震の揺れで液状化現象を起こして、液状化層から上の層が秒速数メートル以上の速度ですべりおちる高速地すべり現象を指摘している。(ニュートンムック想定される日本の大地震:p52〜p53、2006.1.31)

  ではどうするか。写真−4の急斜面は、山の一部を削り、その前面を平らに整地したものである。さすがにこの斜面の下には建物は立っていない。この山の裏は、写真−5のように墓地として利用されている。墓地ならば災害にあっても、建て直せばよい。そこで景色のいい斜面の上・下はご先祖様に譲って、災害時には身代わりになってもらって、我々は斜面からは離れて、「災害は忘れて」(この言葉は、鳥海勲著「災害の科学」:森北出版、よりいただきました)暮らそうという平凡な結論になりました。