日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!33号
支所だより 〜新潟〜

「地域の庭」をめざして
− ケアセンター花の里かつぼ −


新海 俊一
(長岡造形大学造形学部建築・環境デザイン学科 准教授)











私が代表を務める長岡造形大学コクーンプロジェクトチームが株式会社ワシヅ設計とのJVで設計した「ケアセンター花の里かつぼ」が竣工しました。私たちは本施設の設計と並行して、施主である特別養護老人ホームかつぼ園の中庭を拠点に「地域の庭」づくりを推進する市民活動団体を立ち上げ、活動をサポートしてきました。本施設は、ソフトとしてはこの市民活動を、ハードとしては新施設の庭園、菜園を活用して、園芸文化が根強い長岡市水穴地区に地域住民共有の庭の実現をめざしています。

この施設は新潟県長岡市郊外の傾斜地に建つ、ユニットケア方式の認知症高齢者対応グループホームと小規模特別養護老人ホームで構成される高齢者介護施設で、眺望デッキ、地域交流室、園芸室を併設します。遠方に弥彦山を望む立地条件と、地域の園芸文化を活用し、緑豊かな自然環境の中で園芸福祉療法を展開します。入所者と地域住民の園芸を通じた交流が意図され、 入所者は地域住民、家族とともに園芸作業に参加したり、四季折々に展開する風景や緑の生育を楽しむことができます。敷地外周に隔壁は無く、文字通り「地域に開かれた庭」となるでしょう。

建物が冬期の雪化粧した山並みの風景に包み込まれていくことを意図し、外観色は白を基調としています。外装色を維持するため、外壁には光触媒のコーティングが施され、付着した汚れは容易に除去できます。

屋内の各ユニットには、敷地周辺に生息する植物をモチーフとするテーマカラーが与えられ、カーテンや屋内のサインボードはこのテーマカラーに準拠しています。入所者が所属するユニットをテーマカラーで識別できるよう工夫されています。

エントランスからロビーラウンジを抜けると正面に眺望デッキがあります。中庭に片持ちで突き出す眺望デッキは、眼下の中庭のみならず、弥彦山をはじめとする遠景への眺望を楽しむための非日常的視点場を提供します。ロビーラウンジや共同生活室の吹き抜け上部にはハイサイドライトを設け、夏はまぶしい陽射しが制限されて涼しく、冬は日光を取り込むことができて明るさと暖かさが得られます。 プロジェクト名のコクーンとは、活力が衰えつつある生物を包んで保護し、滋養供給するためのカプセルのようなもの(すなわち繭(まゆ))で、この施設の果たす機能を象徴しています。

この施設で多くの入所者や地域住民が、様々なかたちで生き甲斐を発見できることが期待されます。