日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!33号
学生シリーズ(富山)

樹の家プロジェクトに参加して

加藤 智子
(富山大学芸術文化学部造形建築科学コース2年生)









 この夏、私は何にも代えがたい貴重な経験をしました。

富山大学人間発達科学部付属幼稚園は今年度創立120周年を迎えます。これを記念して、園庭に遊具を設置したいとの依頼を受け、丸谷教授率いる学生6人で樹木の間のスペースに「樹の家」を建てることになったのです。

 8月初旬、実際に幼稚園へ行き園庭の実測をすることから始まりました。園児とのふれあいや、人間発達科学部の学生とのディスカッション、PTAの方、幼稚園の先生方からも意見を頂き設計を進めていきました。ここでポイントとなったのが、遊具としての安全性と遊び方を制限しないことです。安全性という面では、子供がジャンプしても危険でない高さ、下に落ちないために必要な壁の高さ、指を挟まない隙間の大きさなどの数値決めに悩みました。そして、最終案「迷キューブ」の誕生です。どこが入り口でどこが出口か分からない・ぐるぐる回ってしまうという意味の「迷宮」と、デザインの要となっている「キューブ」を掛けて名づけました。コンセプトは「シンプル&フリー」。この家は内外合わせて8つのBOXからできており、大きいものから1650、900、750、600、450、300と、すべて150のグリッドで構成することでまとまりのよいデザインにしました。また、様々な大きさのキューブを配置することで「のぼる」「のる」「おりる」「とぶ」「かくれる」「みわたす」「まわる」などの要素を生み出しつつも、遊び方は定義していないので、子供たちが自由に遊び方を見つけられます。「迷キューブ」は、森にある隠れ家をイメージしたアスレチックハウスです。

 9月、自分たちでつくった図面・材料表・工程表をもとに、床・壁・構造の3班に分かれて作業開始しました。床は能登産のあて材を、その他は富山県産のスギ材を使用し、皮が付いた状態からの木取り、木の狂いや割れにも苦しめられました。基礎工事では人力でコンクリートを混ぜ、鋤簾(じょれん)という道具の使いやすさに感心しつつも、ワーカビリティーをよくしたいと思ってしまう職人さんたちの気持ちを痛感しました。現場には事件がつきものです。そんなとき、いかに迅速に適切な対応ができるかが重要だということも学びました。

 今回のプロジェクトでは、実際にクライアントがいて、お金が動き、納期がある、自分たちの手で作ったもので子供たちが遊ぶという責任感と不安がいつもの設計とは大きく異なりました。夏休みの大部分の時間と体力を費やした「樹の家」ですが、その分完成したときの達成感も大きかったです。そして、あの子供たちの笑顔と歓声、忘れません。

 今回このような機会を与えてくださった幼稚園の方々、熱心にご指導してくださった丸谷先生には心より感謝しています。経験は力だと信じています。これで満足せず、これからも積極的に活動していきたいです。