日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!33号
シリーズ「隠れた建築」

専長寺山門

山崎 幹泰
(金沢工業大学環境・建築学部建築都市デザイン学科 准教授)


専長寺山門正面

松菊山専長寺は金沢市の北西の港町金石に位置する、真宗大谷派の寺院である。開創は寛正6年(1465)と古く、現在は寛政9(1797)年建立の本堂を始め、庫裏、山門、鐘楼、茶室などを構えている。この中から今回、極めて特異な意匠を持つ山門を紹介したい。

山門は境内正面をおよそ東西に通る、細い街路に面して建っている。軸部は一間一戸控柱付きの棟門の形式で、屋根は側面に唐破風を持つ平唐門としている。正面向かって右手に潜戸付きの板塀が接続し、その先と門左手には腰石積みの築地塀が続く。屋根は、門塀ともに赤褐色の桟瓦を葺いている。

その特徴としては、本柱間に対し屋根の規模が比較的大きいことが挙げられる。二手先として男梁を前後に長く伸ばし、また挿肘木を対角線上にさし、男梁を本柱の外側に持ち出すことで、前後左右ともに深い軒を生み出している。しかし、詰組の間に琵琶板を入れず開放していることと、冠木に太い丸材を用いて木口を破風近くまで延ばす特異な意匠が功を奏し、深い軒にもかかわらず軽快な印象を受ける。

一方で彫刻装飾は控えめである。大虹梁の見付部分には絵様を施さず、木鼻もシンプルなものである。ただし、組物の拳鼻と男梁の絵様が同一のものであり、この絵様の繰り返しが軒下に華やかさを添えている。桟唐戸には大きな牡丹の彫刻が張り付けられている。これは当寺を代表する紋で、本堂内陣の蟇股や須弥壇などにも、同じく牡丹の彫刻や飾り金具などを見いだすことができる。また、冠木の木口を覆う入八双金具、本柱足元の根巻金具なども、効果的に用いられている。改造や破損は少なく、保存状態も良好であるが、海からの潮風を受けるため、塩害と思われる木材表面の風化がやや進行している。

建築年代について明確な記録はないが、山門の拳鼻と本堂内組物の拳鼻を比較すると、輪郭、絵様の特徴ともほぼ等しいこと、虹梁木鼻の幅の厚い縁取り状の絵様が本堂向拝の蟇股のそれと良く似ていることなどから、本堂と前後して18世紀末に建てられたものと考えられる。

なお、平唐門は主に内裏、門跡寺院や、禅宗寺院の方丈の前などに設けられる門であり、金沢市内ではあまり多く見られない。一般的な平唐門と比較すると、男梁を本柱に挿さず組物で支えること、天井や妻壁を張ること、冠木を太い丸材とすること、などの点に、独自な構造形式が現れていることが分かる。

金沢に数少ない平唐門形式の山門であり、ほかに例を見ない特異な構造形式を、高い完成度でまとめ上げた意欲作と評価できる。