日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!33号
奨励研究について

研究の初心

菅原 邦生
(上越職業訓練協会・技師/博士)






19年度奨励研究に「日本における雁木通りの残存状態について」をご採用頂き、関係各位の皆様に対しまして、心よりお礼申しあげます。この研究は日本の民家・町並みの代表的な特徴である雁木通りについて、その全国的な残存状態を明らかにしようとするものです。雁木通りの全国的な分布調査は、1966〜85年に氏家武博士が実施した広範な現地調査(『雁木通りの地理学的研究』古今書院、1998参照)により、北は青森から南は鳥取まで雁木通りの分布や関係市街地における雁木通りの延長などが明らかにされています。しかし氏家博士の調査からすでに四半世紀近くが経過し、その残存状態も大きく変化しているものと考えられます。

  そこで本研究は、防雪通路である雁木通りの全国的な分布や関係市街地における延長距離など現状把握を第1の目的とし、アーケード化した部分や消滅した部分をも調査して、雪国の雁木通りにおける町並変容の全体像を捉えることを意図しています。

  この研究を始めた最大の動機は、私が雁木通りの町として知られる上越市高田の出身だからです。本格的な研究は日本工業大学建築学科(埼玉県宮代町)の卒論以来ですが、不思議なことに興味がつきず、大学院修士・博士後期課程と建築史の視点から研究を進め、このテーマで博士(工学)の学位を得られたのは幸運でした。その後地元上越市に戻り、職業訓練校に勤めるかたわら研究を続け、その成果は(財)住宅総合研究財団の助成により、拙書『雁木通りの研究』(2007)として刊行しております。

  今回、奨励研究にご採用頂いたテーマは、郷里に戻りましたら、ぜひ本格的に取り組んでみたい研究テーマでした。現在は、まだ調査途中ですので、はっきりとしたことは申し上げられませんが、日本の雁木通りの多くがこの四半世紀に急速な勢いで衰退・消滅していたことが次第に判りつつあります。

  雁木通りは雪国を代表する都市景観ですが、所有者の方をはじめ多くの方々のご協力がなければ、保全することが難しいのが現状です。そうした状況の中でこの研究が、雁木や雁木通りの町並みを愛する方々の、新たな研究や景観保全の契機となれば望外の喜びです。報告は来年度を予定しております。ぜひ会場まで足をお運び頂ければ幸いでございます。