日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!34号
支所だより 〜石川〜

地理空間情報教育プロジェクト

下川 雄一
(金沢工業大学 環境・建築学部 建築学科 准教授)

図1 SketchUpで宇宙ステーションの作成 1


図2 SketchUpで宇宙ステーションの作成 2


図3 地球観測センター見学風景


図4 地球観測センター見学風景


図5 つくば宇宙センター見学風景

 今年度から金沢工業大学では地理空間情報教育プロジェクトなるものを開始した。もともとは、環境土木の分野で測量やGPSについて研究している鹿田正昭先生、リモートセンシングを専門とする徳永光晴先生の研究室とともに、建築分野で3次元データ活用について研究している筆者の研究室とが卒業研究の合同発表会を3年ほど前から非公式に始めた事がきっかけである。学科は違うが、活用している技術には類似点があるし、学生にも刺激になるかもしれない、ということであった。

  また、それがきっかけで、2年前から「地球にお絵かき&野々市発バーチャル地球一周ツアーご招待」という小学生向けのワークショップを野々市町役場の中にある情報交流館カメリアを使って、同じこの3研究室でやり始めた。年に1回、丸2日間かけて、子供達に、GPSによる広場でのお絵かき、GoogleEarthを使ったバーチャル世界一周ツアー、SketchUpを使った立体的なお絵かき(図1、2)等を楽しんでもらっている。カメリアのスタッフである松田尚子さん(鹿田研究室の卒業生)のファシリテートもあり、なかなかの好評である。子供達は技術的な原理等まではおそらく理解していないだろうが、「何でこんなことができるんだろう?」「どうして?」という知的好奇心をくすぐるには十分な内容になっていると思われる。

  話は変わるが、筆者の研究室では最近、3次元レーザー計測技術に注目している。短時間であっという間に建物や地形などの立体的構造物の形状を点群データとして得ることのできる技術は、用途は差し置いてもそれだけで興味深い技術である。京都の東本願寺の御影堂では改修工事を終え、次は隣接する阿弥陀堂の改修工事に向けての調査が開始されており、筆者の研究室では高精度のアズビルトのデータ作成のために3次元レーザー計測を使って阿弥陀堂の主要構造体の形状データをとっているところである。小屋組を構成する膨大な部材の、これまたそれらを構成する膨大な点群データはなかなか扱いがやっかいであるが、なんとか成功させて、改修工事における3次元データ活用の効果的なワークフローを築きたいと考えている。

  話を戻せば、このような計測技術は現段階では建築分野よりも土木分野の方が利用が多い。そういった経緯もあり、上記の3研究室の共通点は益々増え、今年度から本学企画調整部の協力もあり、地理空間情報教育プロジェクトなるものをスタートさせることになった。大そうな名前がついているが、とりあえずは学生に外の世界を見てもらおうということで、関連する外部組織への見学ツアーを実施している。第1回目は2008年9月に地球観測センター、産総研の地質標本館・サイエンススクエアつくば・グリッド解析センター、つくば宇宙センターなどを見学した(図3〜5)。
  残念ながら筆者は都合で参加できなかったし、その頃はまだこのプロジェクトの活動自体もおぼろげにしか見えてなかったので、ようやくこのプロジェクトの輪郭線が見えてきた最近、あらためてこの第1回目の見学先を見れば、科学に興味のある人にとっては少なからず垂涎の見学先である。
  第2回目の見学ツアーは今年3月に国際航業、キャドセンター、日本測量協会つくば事務所、国土地理院・地図と測量の科学館等を予定している。やはり、普段接している分野とは異なる分野の技術や新しい知見を直接目に触れられることはワクワクするもので、学生達と一緒に見学会を楽しみたいと考えている。

  今後、見学会だけでなく、このテーマに興味のある外部の方々にも広く参加していただき、勉強会などを通して、”空間情報”をキーワードとした交流の場を作っていきましょう、と話しているところである。