日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!34号
支所だより 〜新潟〜
さお
棹ばかりをつくる(これ大学での授業)
穂積 秀雄
(新潟工科大学工学部建築学科 教授)
図1 古典的な棹ばかり
図2 回転運動を用いた棹ばかり
図3 力の平行四辺形を原理とする秤
図4 連成振動をするやじろべえ
図5 やじろべえは振り子
新潟県の支所長を平成20年度から仰せつかっている。遅ればせながら、よろしくとご挨拶申し上げる。新潟県では、新潟大学の教育人間科学部教授の五十嵐由利子先生を中心に、「親と子の都市と建築講座」を毎年実施している。今年は、11月の22日の第2回を小生が担当し、「強い形・弱い形」と「ゆれの秘密」の2テーマで子供たちと楽しんだ。実は、これらのテーマを含めて、幾つかの同じようなテーマで、大学の授業を実施している。もちろん力学的な説明を交えて、ということである。ここでは、これらのうちの二つについてお話をしたい。
いま大学は、少子化の影響で多様な学生が入学をしてくる。構造力学の授業などを担当していると、小中学校の理科で学んだことと関連付ける能力あるいは小中学校の知識そのものが乏しい学生が散見される。この弊害を除くために、「親と子の・・・」などでの手法が大学の授業で展開できないものか、と考えたのが始まりである。
棹ばかりをつくる
力のモーメントは、構造力学にとって最も基本的な概念であるが、理解に苦しむ学生が少なからず存在する。図1は棹ばかりである。棹ばかりは最も原初的な秤で、その原理は力のモーメントの応用である。大学の授業では、「工学創造設計(2年前期)」で一人ひとりの学生が作成している。秤としての精度のよしあしも問うが、造形的な面白さをも求めている。
図2は、量るものの重さに応じて回転運動を起こし、支点から重心までの水平距離が変化をすることを原理とする秤である。ここでは模式的な絵が描いてあるが、学生の作品にはいろいろなモチーフを形にした力作が多い。材料は紙と割り箸などである。工学の基本は、「これでできる筈」では済まされない点にある。作品の中には剛性が不足したりして、力学的な理解だけでは作れないという教育効果もある。
図3は「力のモーメントを原理とする」というルールを無視した作品である。糸の張力は、左右の重りの重さと等しく一定であるが、測定する物体が重いほど物体は下に下がり、糸の張力の鉛直成分が大きくなることで釣り合う仕組みのものである。ルールには反しているが、期せずして力の平行四辺形の説明ができ、教員生活の面白さを味わった。
「やじろべえ」をつくる
建物の固有周期を教えるために、質量と板ばねからなる倒立振り子を用意してテーブル実験を行っている。図4は、「やじろべえ」に単振り子を吊るしたもので、両者の固有周期を調整すると、一瞬停止するような連成振動が観測できる。授業では、極端に重心の偏ったものや、立体的なものなど、一人ひとりに思うままの「やじろべえ」を作らせて、力学的な観察事項に関するブレーンストーミングを実施している。
数年前の話ではあるが、田麦山小学校の児童の皆様が大学に遊びに来たことがある。早速に「やじろべえ」を楽しんでいただいた。ある児童が、図5(a)をすぼめた同図(b)を作り上げ、
「先生、これでも『やじろべえ』ですか」
「君は、もう少し広がっていたら『やじろべえ』と思うかい? どこまでが『やじろべえ』で、どこからが『やじろべえ』ではないのかなー。やっぱりこれも『やじろべえ』ではないかなー」
そのうち彼は、両手が重なった同図(c)を作り上げ、
「分かった。『やじろべえ』は振り子の親戚だ」
連続の概念に対する理解力、本質を見極める能力に脱帽した。