日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!34号
支所だより 〜富山〜

とやまの木の地産地消への課題

小林 英俊
((財)富山県建築住宅センター)


スギ材

 富山は字の通り山が豊富で、そこには木がたくさんある。戦後の拡大造林により、富山でも多くの杉が植えられ山には成長した杉があふれている。にもかかわらず、富山における木材の需要量に対して供給量は数%以下である。WTOによる輸入障壁の撤廃により、工業製品の輸出と引き替えに世界経済の市場競争に農産物や木材も巻き込まれ、価格競争では国内産材に勝ち目がなくなったことが大きな原因だろう。
 しかし、近年は輸送コストの上昇、流通段階での石油消費削減による地球温暖化防止、産地国での原木輸出の抑制などの流れの中で国内産の木材への関心が高まってきている。昨年はシベリア唐松の原木輸出関税が80%値上げされるというので、県内の製材業は窮地に立った。値上げが1年延期とはなったが、原木が入手しにくくなるのが目に見えている。それを受け、国内産材の需要が高まる傾向が出てきて、生産地では原木価格の上昇への期待が高まってきた。

  また、戦後の杉単一の植林により、低山帯の樹層は暗い針葉樹の森ばかりとなり、里山の自然が大きく変化した。人の手の入らない里山ではせっかく植林された杉が間伐や枝打ちもされず放置されたものが多く、また、熊の出没による人と動物の軋轢も高まった。そのため、少しでも需要を喚起するため、富山市や魚津市では地場の木を使う住宅には補助金を出す制度も作った。ところが、実際のところ、施主が地場の杉を使いたいと思っても、すぐには手に入らないというのが実態である。補助金に頼る間伐材や支障木が細々と伐られているだけで、主伐は行われていない。その訳は林業の方では需要が無ければ伐り出しする先行投資がしにくく、乾燥に時間とコストがかかるため製材業界も需要がはっきりしなければ買い入れできないからである。この関係を解消しないと地場の木は市場に出てこない。
  他方、外材が原木で入らなくなると困るベニヤメーカーや大手ハウスメーカーが山全体を買い占めるという動きもあるようであり、山の杉の行方は見えて来ない。

  なお、8年前から活動していているNPO法人「とやまの木で家を作る会」は建築主が山に行って木と見合いし、それから伐採・天然乾燥・製材と工程をふんで家を作っている。このやり方は木材の由来を目で確かめられるため施主の満足度は高いが、設計が決まってから木材加工まで1年以上かかってしまい、よほど時間に余裕のある施主でなければ事業化しにくい。

  また、杉は乾燥しにくく、人工乾燥が必要で、原木を安く手に入れても一品生産では乾燥コストはどうしても高くなってしまう。
  このような状況を打開するには幾つかの条件が必要だろう。

  まず一定量の木を継続的に切り出すことの出来る山の組織と先行投資する資金が要る。
  そして乾燥にコストを極力かけない技術や信州木製品認証制度のような強度と含水率を一定の基準に合うものとして供給できる製材体制が必要で、そのためにも天然乾燥可能な安価なストックヤードが不可欠だろう。そして数十棟単位の地場木材需要を纏め、継続させること。これは設計事務所と工務店の役割。また、富山の木は殆どが杉であり、その杉を構造材から造作材まできちんと使いこなすような設計・加工技術が求められるが、建築学会としてもこのような条件作りに役立つ研究や調査の必要があるのではないかと思っている。