日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!35号

JIA-KIT建築アーカイヴス開設記念会

山崎 幹泰
(金沢工業大学 環境・建築学部建築系 准教授)


 
1 「Nコレクション」展示会場


図2 内藤廣氏の講演


図3 中村敏男氏のインタビュービデオ


図4 パネルディスカッションの様子


図5 交流会で内藤氏を囲む学生達

  「JIA-KIT建築アーカイヴス」は、急速に失われつつある戦後日本の近現代建築の設計図書を収集、保管、研究、公開するため、社団法人日本建築家協会(JIA)と学校法人金沢工業大学(KIT)の共同により2007年3月に設立された。

  その設立の意義と活動内容を広く周知するため、2009年4月25日(土)、金沢工業大学において、「JIA-KIT建築アーカイヴス開設記念会」を開催した。建築家・東京大学大学院教授・内藤廣氏の基調講演「建築設計ノート」、および「現代建築文化のアーカイヴス」と題するパネル・ディスカッションを行った。併せて、4月24日(金)〜30日(木)の一週間、同大学ライブラリーセンター展示室において、収蔵品である「Nコレクション」の展示会を行った。

  内藤氏の講演は、約400名の聴衆を前に、フェルナンド建築事務所、菊竹事務所時代の建築家のスケッチの思い出話から始まった。自らの設計ノートであるA4版サイズの能率手帳を手に取りながら、スケッチも全てこれに張り込むため年末には倍ほどの厚さになること、こうしたやり方を20年以上続けていること、などを紹介しながら、学生たちも自らのスケッチのスタイルを確立することの重要性を語った。

  次に、パネラーの大宇根弘司氏(JIA建築アーカイヴス委員長)、竺覚暁氏(KIT建築アーカイヴス所長)、内藤廣氏、およびモデレータの水野一郎氏(金沢工業大学教授)の計4人により、建築アーカイヴスに関するパネル・ディスカッションが行われた。

  まず水野氏より、JIA-KIT建築アーカイヴスの設立に至る2003年頃からの経緯が説明された。

  続いて「Nコレクション」の寄贈者である中村敏男氏のインタビュービデオが放映された。「Nコレクション」とは、雑誌『a+u』を創刊した中村敏男氏が収集した、世界的に著名な建築家の図面やドローイングなどのコレクションである。『a+u』の取材活動を通して知り合った、建築家とやりとりした膨大な量の手紙がその始まりだった。親しくなるにつれ、取材中に描いてもらったドローイングなどをいただく機会が増え、大きなコレクションとなった、しかし25年務めた雑誌の編集長の仕事をやめる際に、その手紙は全部捨ててしまい、今では残念に思っている、といった経緯が明らかにされた。

  ビデオ終了後、まず大宇根氏より、日本の建築文化や景観を育成する、その基盤整備としての建築アーカイヴスの意義を語った。また竺氏からは、欧米の建築アーカイヴスの現状について、スライド上映を交えて報告が行われた。内藤氏からはキュレーターの育成に関する問題、建築著作権に関する問題、公共工事において行政に収められた原図の保管状況に関する疑問など、今後取り組むべき課題が提示された。

  記念会終了後には、パネラーを囲んで交流会が行われた。参加した学生たちとの間で、積極的な質疑応答が行われ、盛況のうちに会は終了した。

  建築アーカイヴスに関し、今後取り組むべき課題が明らかになり、また関係者の間で問題意識の共有を図ることもでき、大変有意義な会であった。