日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!35号
支部活動報告 2008年度 北陸建築文化賞 受賞にあたって

受賞(業績) : 子どもたちのための古民家再生
受賞者 : 子どもたちのための古民家再生委員会
      (代表 佐藤茂・会長 小幡和雄・技術顧問 平山育男)

子どもたちのための古民家再生

文 : 佐藤茂 (子どもたちのための古民家再生委員会 代表)


図1 再生された古民家と周辺の環境


図2 再生された古民家の内部


図3 再生前の古民家


図4 ボランティアによる古民家の再生


図5 古民家を拠点とする自然活動 田植え

子どもたちのための古民家再生委員会会長の佐藤茂です。私は長岡市で豆腐 店を営んでいます。この度は栄えある北陸建築文化賞を授与頂き誠にありがと うございます。私達の活動は、朽ち果てる寸前であった1軒の古民家をボラン ティアの力で葺き替え、再生を行い、子どもたちの拠点としたものです。ここ では6年間にわたって行ってきた活動の内容を紹介することで、授与の内容を お示ししたいと思います。
  私たちの活動は2003年に遡ります。この時、私たちは今にも朽ち果てそうな 1軒の茅葺民家と出会いました。この民家と周辺の自然環境を見たとき、「まさ にふるさとのイメージだ」と思いました。今、失われそうなこの環境を保全し、 青少年がこの自然の中で様々な体験をすることを通して、豊かな人間性が培わ れるのではないかと思いました。そのような考えではじめたのがこの委員会で す。つまり活動は古民家の復原と子どもたちと自然環境の交流、という趣旨で す。敷地は新潟県刈羽郡刈羽村の飛び地となる油田地区。活動の場所は2本の 谷筋と正面に広がる田圃、背後の小高い丘陵地です。即ち、民家を拠点として 周囲の里山環境そのものがその範囲となるのです。
  私達の活動では、第1に茅の葺替えを行う茅の調達から始めました。一般か ら募ったボランティアの方々延べ数百人がこの作業に携わりました。秋の間に 刈り取った茅は来春のため敷地前にまとめて積み上げ、冬を越えました。冬期 間は雨漏りを防ぐため古民家の屋根はシートで養生をし、春になり古い葺材を 剥ぐ作業を行いました。2004 年の春から本格的な茅葺替え作業の開始です。人 力により材料を建物まで運び込み、茅葺で中心となって作業を行って頂いたの は作業前まで残っていた昭和40(1965)年代最後の茅葺き替えを行った職人の 方々でした。小屋組でも一部の腐朽材はボランティアの大工職にお願いして交 換をしていただきました。このようにして活動を行うことの出来る拠点の民家 が完成しました。
  さて、活動の足場ができたので、2004 年以来、子どもたちのための活動を開 始しました。民家前の休耕田では稲作を復活させました。田植えでは最初は、 遠巻きに見ていた子どもたちも次第に打ち解け、泥にまみれて作業を始めまし た。6月、草むしり。9 月に行ったボランティア総出の稲刈りでは、運搬、ハザ ギ掛けまで周辺環境を生かした一連の作業は人力を中心に実施し、収穫物を通 して里山における循環を実体験するとともに、里山景観の形成も試みました。
  2005 年からは、朝日酒造こしじ水と緑の会などからの助成も受け、これまで にご紹介した活動に加え周辺環境を更に生かした活動に取り組んでいます。そ の1つが、ホタルの住む環境づくりです。水路の柵を設け、田圃の中には木道 を敷設しました。それらの環境整備の成果を受け、6月末にはホタルの鑑賞会 も実施しました。加えて、古民家周辺地域における動物・植物の分布生息調査 も実施しました。調査対象は、
  @体験学習において利用できる可能性があるいきもの
  A観察対象として興味を引くようないきもの
としました。季節を分けて実施することにより、個体及び個体数などの変遷を 比較し、当該地における棲息実体を把握しました。鳥類をみると古民家の周囲 には少なくとも45 種類の野鳥を見ることができました。
  そしてこれらの調査を受け、民家を活用する活動の体験プログラム充実を図 ることが可能となりました。その一つが野鳥や動・植物の観察です。これは民 家の修復により、子どもたちを中心とする宿泊体験が可能となり、早朝におけ る周辺地域における野鳥や昆虫の観察もできるようになりました。観察会では 先ず講師の先生から周辺地域の説明、いきものについての解説を頂き、隣接す る草むらや、裏山において活動を行うことで子どもどうし、周辺環境で遊ぶ姿 が見るようにもなり、時間の余裕から会話も弾んで生きた交流が出来ました。 また、家族揃って巣箱の作成も行いました。この巣箱を周囲の里山に掛けると ともに鳥たちの餌となる食物の栽培も実施しました。なお、宿泊体験ではカマ ドを使った夕食づくりや様々な体験実習、裸の付き合いも可能となり、深く自 然と人とのふれ合いを行うことが出来るようになりました。なお、古民家では パレスチナとイスラエルからの留学生の交流会も行いました。併せて、周辺の 森、林の下草刈り等を実施し、いきものの観察道として裏山遊歩道を整備しま した。
  今後は地元である刈羽村及び油田集落との密接な連携協力をとりながら継続 的な会運営等に当たることが課題と言えます。なお、この民家は中越沖地震で 被災しましたが再びボランティアを中心とする活動で活用が可能となっていま す。
  付言すると、この建物は新潟県フィルムミッションにも選出されており、あ る日 映画や テレビで お目にかかる機会があるかもしれません。
  最後になりますがこのような報告の場を与えて頂きありがとうございました。 皆さんも是非一度、油田の地に足を踏み入れ、環境の中に溶け込み、里山と民 家が一体となった「子どもたちの古民家」を堪能ください。