日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!35号
支部活動報告 2008年度 北陸建築文化賞 受賞にあたって

受賞(作品) : 箔座ひかり藏
受賞者 : 水野一郎+金沢計画研究所


新旧のコラボレーション

文 : 水野 一郎
   (金沢工業大学環境・建築学部建築学科教授、株式会社金沢計画研究所顧問 )


図1 1階平面図


図2 中庭 立面断面図


図3 蔵の外壁に金箔を貼り、
  ひかり輝く中庭を創出



図4 2階縁側より蔵を見る


図5 蔵内部

新旧のコラボレーション
  「ひかり蔵」の設計に当って考えたことは、地域の伝統を大切にしながら私達の時代のデザインと共生させたいとの想いでした。それは、パリやロンドンでも、ドイツやイタリアの小さな村でも見られたことですが、昔からの伝統的な建築を保存しながら現代のデザインを付加することで新しい機能が入れ込まれ、2つの時代のコラボレーションが成立している事例に出会い、感心したからです。極端な事例ですが、皆さんよく御存知のルーブル美術館でのI.M.ペイのガラスのピラミッドやドイツ連邦議事堂でのノーマンフォスター設計のキューポラのような新しい付加によって古い建築がコンセプトから動線計画に至るまで生まれ変り、新たな活力に満ちていたからです。
  このようなコラボを目指して伝統的な建築を築いた先人の空間、形態、素材、ディテールに敬意を表しながら、新しい機能とデザインを入り込ませることを許していただくという対話を重ねるプロセスは楽しいものでした。

金箔を貼るのはこわい
  金沢は金箔製造では日本の98%をしめています。金箔の主な用途は仏壇、仏具、屏風、什器 であり、江戸までは社寺やインテリアなど建築分野にも使われ、最近は化粧品や飲料にも使われます。明治に入り建築の使用は減少し、さらに今は金箔仏壇が少なくなるなど大口の需要が縮小しています。
  15年程前よりそのような状況を受けて、金箔を建築の内外装に使えないものだろうかと考えるようになりました。しかし、私自身はもともと設計の中で金箔を使うことはセンスもおしゃれもない成金的な悪趣味だと捉えていた方なので、慎重にならざるを得ませんでした。
  海外へ出掛ける度に金箔使用の建築を探し歩きましたが、タイ、ミャンマー、中国華南、インドにも、トルコ、エジプトにも、パリ、ウィーン、ローマにも数多くの金箔シーンがありました。もちろん、金閣寺も中尊寺金色堂も拝観しましたし、ガウディーや、オットーワグナーなどの近代建築にも金箔がありました。その多くが美しく力感のある佇いを見せていたので、少しずつ金箔は使えるのではと思うようになりました。
  「箔座 ひかり藏」は箔使用製品の小売店舗でしたので「金箔を伝統的建築に付け加える」との想いが生まれてきました。また、建物は国指定の伝統的建造物群の1つでしたので、外観は復元ですが、内観は若干の変更が認められていました。あれこれエスキースしたのち、中庭の奥にあった漆喰の蔵を金箔蔵にすることにしました。
  外壁は設計図書に金箔貼りと記したのですが、下地処理、接着剤、金箔の種類等の仕様書は書けませんで、施主である箔屋さんに一任しました。インテリアは高山の左官作家狭土秀平さんの個人技にこれまた一任しました。金箔を建築に使う仕様書も技術案内も全く無かったからです。

金箔は上品で力強い
  金箔を貼り終えて最も感じたのは金箔壁の力強さであり、それは人を圧倒するような強さではなく、静かに佇みながら輝く上品な強さでした。特にこの蔵は狭く多少薄暗い中庭の樹木の奥にある関係でより静かに佇んでいます。その中庭に短い時間陽光がさしこみ、蔵の壁が光り輝く瞬間がありますが、その輝きが中庭の樹木を通して店に達し、さらに細いきむすこ格子をすり抜けて観光客がそぞろ歩く街路にまで届きます。
  このように今回は金箔をほとんどインテリアのような奥の空間に使いましたので、街並みには影響のない控え目の安全圏です。次回は街並みを担う外壁に金箔を使わなくてはと想うのですが、いやらしいとか悪趣味だとか街並み壊しだとかの印象を乗り越え、上品で力強く美しい金箔外観となるにはどうしたらよいかが宿題です。