日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!35号
支部活動報告 2008年度 北陸建築文化賞 受賞にあたって

受賞(作品) : 鯖江市中河小学校+鯖江市環境教育支援センター
受賞者 : 大野秀敏+吉田明弘/株式会社アプルデザインワークショップ
       藤田肇/藤田肇建築建設事務所



鯖江市中河小学校・鯖江市環境教育支援センター

文 : 吉田 明弘 (株式会社アプルデザインワークショップ)


図1 浅水側河岸からの遠景
(手前が環境教育支援センター、
勾配屋根が中河小学校)



図2 中河小学校ラーニングセンター
(図書コーナーよりパソコンコーナーを望む)



図3 高学年多目的スペース


図4 環境教育支援センター南面ファサード


図5 環境教育支援センター環境システム
説明図


鯖江市中河小学校校舎改築工事
◯ふるさとの川と緑を取り込む
鯖江市に建つ12クラスと複式学級1クラスをもつ小学校である。敷地西側を流れる浅水川は、澄んだ清流に魚が泳ぐ、まさに故郷の小川である。何とか川が身近に感じられる校舎にしたいと考えたが、敷地に立つと高い堤防の法面が邪魔をして川面を身近に感じることが全くできない状況であった。堤防のレベルがちょうど建物の中二階であることを発見した事から、児童がよく使う共用諸室(図書室、パソコンコーナー、段差を利用した劇場風空間)からなるラーニングセンターを同じレベルで連続させることで、上下階から半階上がり下りすれば到達でき、同時にふるさとの川の存在を意識できる場所とした。「シアター」は発表会や作品の展示、読書や友達との交流の場など様々な活動に利用され、とかく分断されがちな上下の階(上級生と下級生)を流動的に結びつけるコミュニケーションの場として機能させた。
堤防沿いの敷地をラーヒングセンターの外壁まで拡幅することで市民が自由に使える遊歩道「川端遊歩道」として地域に開放し、校舎内部の様子が伺える開口を設けた。学校を地域から隔離するのではなく、学校が地域に見守られるようにしたのである。
◯教室の構成
中高学年の教室は2学年分4教室を南面させて1クラスターにまとめ、4教室で1つの多目的スペースを共用している。最上階であることから、多目的スペースの天井を自由に高くとることができ、欄間窓から十分な採光と換気が得られる。低学年棟は、野球場の外野形状の影響から、教室は多目的スペースを囲むように配した。その結果南面しない教室も出来たが、低学年に相応しい親密な雰囲気となった。教室の窓にはライトシェルフを設け、障子風の拡散装置と併用することで、光環境の改善をめざした。
◯「雁木」と回遊性
グラウンド側の外部に「雁木」と呼んでいる2階レベルの外部通路を設けることで、冬季の雪囲いや避難動線とし、屋内通路と連結することで回遊性のある動線を確保している。
◯木を多用した学校
構造面では、平面形を蛇行させたラーニングセンターに大断面集成材による大スパンの勾配屋根を架け、周辺の里山と小川の織りなす風景に溶け込むようにした。地場産材が杉材であることから圧縮して強度を増した杉板をフローリングに活用した。壁パネルは杉練付けパネルを使用している。多目的スペースでは、北側ガラス面の光量を調節する木スクリーンがそのまま屋根構造形状に合わせて包み込むインテリアとした。入れ子状に存在する先生コーナー、クワイエットルームといった小スペースはヒューマンスケールな木箱として家具的にデザインした。

鯖江市環境教育支援センター
鯖江市は市民の環境に対する関心が高い地域でることから、環境NPOによる市民活動の拠点となり、地域の小学校や中学校の環境教育の場となる施設として中河小学校の敷地内に計画された。設計に際し、自然エネルギーの活用を第一の目標に置いた実験的な建築を目指した。
○ 換気
西側は遮るものが少なく川筋に沿って常時風が吹いているので、屋根に恒常風を受けるラッパ状の整流フィンを設け、そこを風が吹き抜けるときのベンチューリ効果で室内に空気流を起こす換気システムを採用している。
○ハイブリッド空調
通風と機械式空調を組み合わせたハイブリッド空調を採用した。また、ペリメーター部の負荷は、井戸水を利用した冷却用のラジエーターを南側窓部に設置した。
○光の制御
南側の窓にライトシェルフを設け、部屋の奥まで光を届け、室内の明るさの均整度をたかめた。また、ルーバーによる直射日光の遮断も行っている。