日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!35号
シリーズ「いきいき街づくり」(石川)

地域志向型のまちづくり支援の試み
(福井県福井市と池田町における事例)


内田 奈芳美
(金沢工業大学環境・建築学部建築系 建築都市デザイン学科 講師)


福井市東郷地区

  政府の縮小や要望の多様化などにより、本来行政が行うまちづくりの部分にも地域住民が主体的に関わってくる「新しい公共」分野が拡大している。また、その中の施策の一つとして、行政による住民への競争的まちづくり助成金の制度が増えている。これは大体において協働の条例とセットとなり、地域住民の主体的な関与を促すものとなっている。地方分権が進み、NPOなどの担い手が生まれてきたことを背景として、2000年以降特に増加している。

  全国の動き同様、北陸地方の自治体でもこのようなまちづくり支援の制度が増加している。特に福井市と池田町の試みは独自性があり、注目に値する。例えば福井市では、私が子どものころ住んでいた時は当然のものとして受け止めていたが、公民館を中心として自治会による地区活動がさかんに行われていた。当時はもちろん「まちづくり」という言葉はあまりなじみが無いものであったが、今日において公民館は地域のまちづくり拠点として役割を果たしているようである。地域に根付いたこの小学校区と公民館をセットとした近隣住区的システムと、まちづくり助成金が連動した制度が、「誇りと夢・わがまち創造事業」という名称で現在福井市にて行われている。この制度では一地区(小学校区)につき一組織がまちづくり提案を出し、審査を経て助成を受け、事業を行う。この助成を受ける組織は主に自治会をベースとして組織されるものが多いという、地域志向型の助成制度である。

  実はまちづくりの競争的助成については、自治会向けというのは日本ではそう多くない。大体がNPOなどのテーマ型、もしくはプロジェクト志向型の組織からの提案に対して助成を行うのが全国的な流れである。もっとも、東京圏では圧倒的にNPOの数も多く、受け手が数多く存在しているという背景がある。また、その一方でNPO向けの助成では実際のところ応募者の確保に苦労している例も存在する。そういった中で、住民主体のまちづくりプロジェクトを着実に行っていくという点で、福井市の例は実用的な試みである。本助成金を用いた地域づくりとして、例えば図の東郷地区の例など、地域の中心を流れる川を中心として、地元の古い民家などの地域資源を活かしたまちづくりが行われている。

  また、福井県今立郡池田町でも「池田町まちづくり自治制度」という面白い試みが行われており、これは「ふるさと納税制度」を用いた画期的な試みである。ふるさと納税制度でお金を納めた人の中から委員を選び、どの住民プロジェクトに資金を出すか決定するプロセスに関わってもらう。担当者の方に話を聞いたところ、やはり町を出る人が多い中で、池田町をよくするために選んで外から納税する人にとってはこのお金にはいったいどのように使われているのかという思いがあるはずであり、それに答えるための制度であるとのことであった。

  これらの制度は、「新しい公共」の担い手を育成するだけでなく、地域住民の創造性を促進するものである。北陸においては人口縮小による新たな都市のあり方が問われるが、創造的地域運営の嚆矢として、このような制度に着目したい。また、こういった事例は、外にいる出身者が果たして地域外から地域運営に関われるのか、という今後の都市縮小の時代における新しい問いを投げかけるものでもある。