日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!36号
支所だより 〜石川〜

「土」に関わるが、泥舟にならないか?

浦 憲親
(金沢工業大学環境・建築学部建築系 教授)



写真1 原土の搬入時の状況


写真2 輪島産土を用いた土蔵補修用の
  日干しレンガ(萩野氏提供)


図1 原土別の粒度分布


図2 原土の含水率と積算値の関係


図3 圧縮応力−ひずみ曲線


0.土に関わること
  建築では、土に関わることになると空気・水・粒子までを含み複雑な挙動をする土質・基礎ですが、ここでは土壁用の原土を話題にしたいと思います。土壁は、拙速なことを評価する最近の風潮からは取り残され、見ることも少ない伝統工法になりつつあるようです。一方では、廃棄物処理などから資源循環材料として改めて見直されてもいるようで、土壁の街並みは環境改善、護美の出ない21世紀の建築材料の大きな転機になると考えています。
  以下は結果の一部ですが、2007年3月25日発生した能登半島地震で被害を受けた土蔵の部分補修に用いた輪島産土で作製の日干しレンガ(□70×150×210mm:2200cm3、密度:1.24g/cm3)についても述べています。

1.はじめに
 土壁は、土自体が地域を問わず入手できることから多くの建築物に利用されてきたが、最近では乾燥に時間を要するため敬遠されている。一方では、文化財の維持保守、町家の耐震補強などから実大供試体による力学的解析を試みているが、原土そのものを調べることは少ない。
  土壁用の原土は無限にあるが、実験は実際に使われ採取地の分かるものを調べている。しかし、土壁は地域性、左官職人の技術差もあり定量化は困難であるが、一定調合の下で原土の性質を評価することは、新たな工法・構法への発展と改善に繋がり、一つの指標になると考える。

2.原土の搬入時の状況(写真1)
 搬入時の地域産土は、いずれもこぶし大の固まり、木根などを含んでいる。京都産土は袋詰めで市販されているが、土の色は袋によって異なるように目標フロー値135±10を得るための単位水量もずれることがある。
  輪島産土は粘りがあり、赤みがかった茶色でしっとりしているが、高松産土は明るい茶色で、両者とも調合すると単位水量が多くなる。岡山産土はザラザラした感触を得る。豊田産土は黄色に近い茶色で微粒分も多いが、満遍なく分布していることを岡山産土と同様に粒度分布から示される。

3.原土別の粒度分布(図1〜図3、写真2)
 原土別の粒度分布は、京都および豊田産土の場合、粘土、シルト、細砂まで広範囲である。輪島および高松産土は中抜けで微粒子と細粒子に片寄るが、岡山産土は粒度分布がよい。
  原土について、ふるい分け試験の75μmでみると、積算値80%以上あると粘りがある。また、積算値50%の平均粒径を用いると、岡山産土は30μm以上で、使用するには粘りのある原土を混ぜると効果的であるが、他の地域産土は20μm以下であることから砂を加えることになる。
  参考までに、豊田産土を除く原土の含水率と積算値の関係を表すと2、10、20および75μmの時、相関係数r=0.7以上である。また、積算値と単位水量の関係は、砂/原土(S/C)比に関わらずr=0.7以上と高く、微粒分を多く含む原土ほど練混ぜ時に多量の水が必要なことを示している。
  圧縮強さは原土の場合、文献による荒壁0.3 N/mm2以上を満足する。一方、日干しレンガのひずみ曲線は、応力初期でようかん(□40×40×160mm:256cm3)と差はないが、ひずみ0.13程度で強制的に試験を終了した。その時の圧縮強さは2.0N/mm2前後で、ようかんの大略3.0倍を与える。

4.まとめ
 土壁用の原土は地域によって性質が異なるが、必要な品質条件は微粒子と細粒子の差が大きく、粒度分布の悪い平均粒径20μm以下の原土である。粒度分布が良い原土は粘り不足で、鏝離れがよく職人の技術差が現れない。また、土壁の修復として日干しレンガも一つの方法であるが研究は皆無で、それを用いた街並み造りと壁土自体を考える機会にしたい。

謝辞:試料提供者および修士・山本智大君に感謝の意を表します。また、平成21年度金沢工業大学工学設計V受講者にご協力を頂きました。
参考文献:JASS15,ほか。