日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!36号
学生シリーズ(長野)

八潮らしさとはなにか?

田中 邦幸
(信州大学大学院 工学系研究科 社会開発工学専攻1年 坂牛研究室)


図1 打ち合わせ


図2 敷地調査


図3 住宅モデルの提案


図4 施主との打ち合わせ


図5 発表

 昨年に引き続き、信州大学坂牛研究室は、埼玉県八潮市の『八潮街並みづくり100年運動』に参加しました。このプロジェクトは5大学共同で、東北工業大学、茨城大学、信州大学、日本工業大学、神奈川大学が参加しています。八潮市は、つくばエクスプレスの開通に伴い、開発が進んでいます。しかし、東京への通勤・通学が便利になったことで、マンションが多く建ち、どこの駅前とも同じような開発になろうとしています。そこで、市は八潮らしい街並みとは何かを考える運動をし、市民の方に八潮に愛着を持って頂こうとしています。
  まず、昨年は、八潮市を知ることを重点におき、市内を自転車で駆け巡り、五感を総動員して、「八潮らしさ」とは何かを調査しました。そこから得られた八潮らしさを引き出すような、街づくりに寄った提案を行いました。そして、今年は【家づくりから街づくりを考える】をテーマに活動を行いました。活動としては二つあり、具体的な敷地を決め、八潮らしさを持つ住宅を設計提案する『住宅モデル』と、八潮市の市民の方に模擬的な施主になっていただき、住宅を設計する『家づくりスクール』があります。

  住宅モデルの活動では、八潮市以外の地方からの視点で八潮らしさを浮かび上がらせようとしています。信州大学は、工場誘致によってできた、大きな区画に密集した小さな住宅群に注目しました。その周辺の街区は、道路が格子状に走り、住宅と工場が混在しています。提案では、この住宅群の特徴である、密度による関係性をどのように活かすかを考えて行きました。中央に通る道に対しては、軒をそろえることで、住宅の裏には、庭をつくることで、そして、ある住宅を見た時に隣の住宅の側面がみえることで、関係性を保てると考えました。
  家づくりスクールでは、市民の住まい方から、八潮らしさを引き出そうとするものです。八潮市に、実際に住まれているかたには、八潮らしさが無意識に入り込んでいるはずです。その無意識の八潮らしさを顕在化することができれば、新たな八潮らしさとしても提案できると考えています。例えば、コンパクトに住まうという要望には、八潮の比較的大きな敷地割りの中で、庭を大きく使おうという意識が見て取れます。また、実際に施主の方から、要望を聞き、提案を繰り返して行くことはいい経験になりました。そして、この活動で、市民の方に家づくりから街づくりを考えて頂く、一つのきっかけになればと考えています。

  地域らしさを浮かび上がらせるには、様々なアプローチがあります。違う地域のひとが調査し、提案する方法、そこに住む人たちが考え、行動する方法。どちらも有効な方法ですが、ある一つの視点でしか地域を見れない可能性があります。『八潮街並みづくり100年運動』では、多数の他地域の視点と、市民の視点が混ざりあうことで、八潮らしさという地域性を取りこぼしなく、浮かび上がらせようと考えています。現在の街づくりは、一方的な視点ではなくこのような多視点からして行くべきではないでしょうか。