日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!37号

シンポジウム「地域活動における近隣大学の役割―中越沖地震からの復興の中で―」報告

田口 太郎 
(新潟工科大学 工学部建築学科 准教授)


写真1 基調講演中の佐藤会長


写真2 ディスカッション風景1


写真3 ディスカッション風景2

  去る2010年7月17日,18日の両日に新潟工科大学を会場に日本建築学会北陸支部大会が開催された。本シンポジウムはその第一日目、オープニングの行事として執り行われた。奇しくも7月17日は、2007年7月16日に本学が立地する柏崎沖を震源として発生した中越大震災からちょうど3年と1日目にあたる。

 本シンポジウムのテーマは「地域活動における近隣大学の役割」と題した。近年、大学の役割は教育・研究に加え、社会貢献が強く言われるようになった。その社会貢献の中でも、地域に隣接する大学がどのような役割を地域に果たしうるのか、を議論しようというものである。シンポジウム会場となった大講義室は学生や本会会員で満席となり非常に熱気を帯びた会となった。

  シンポジウムではまず、来賓としてご参加頂いた佐藤滋本会会長により「市民事業と連携し支援する専門家、大学そして教育」と題した基調講演を頂いた。基調講演では、佐藤会長自身が関わるさまざまな都市計画事業への大学としての関わりを紹介頂きながら、地域の専門家や大学の役割、さらにはこうした社会貢献活動の教育的意味について論じて頂いた。

 つづくパネルディスカッションでは、中越沖地震から3年、ということもあり中越地震からの復興活動を進める地元商店街からえんま通り復興協議会会長中村康夫氏、復興を支援する地元専門家として新潟建築士会柏崎支部から木村永氏、地元自治体として柏崎市総合企画部まちづくり推進室本間良孝室長、さらに地域活動を積極的に進めている大学関係者として長岡技術科学大学機械系上村靖司准教授に登壇いただき、それぞれの立場から近隣大学の役割についてお話し頂いた。

 「地域」と言った際に、一番最初に浮かぶのが地域社会であり市民である。その市民代表である商店街からは中越沖地震からの復興プロセスの中で近隣大学である新潟工科大学や長岡造形大学の教員・学生による積極的な支援が、技術的側面のみならず元気づくりの点においても大いに頼もしく、勇気づけられるものであったとの報告があった。実際に、柏崎の商店街では復興イベントへの学生支援や復興計画策定に向けたワークショップでの専門家支援などさまざまな形での地域と近隣大学の協働があり、これがいわゆる「学術」的な面のみならず、元気づくりの上でも有効であった、ととらえられるだろう。一方で、地域の専門家としての新潟県建築士会柏崎支部からは同じように復興支援の現場での大学との連携によるデザインガイドラインに則したモデル設計などの事例をベースにお話しいただき、今まで小さな活動であった専門家と大学の連携がより具体的に動き出した成果としてのモデル設計の位置づけが報告された。さらに、これが建築士会の全国大会で表彰されるなど、全国的にも先進的な事例として位置づけられたことが示された。地元行政としての柏崎市からは、大学と市との提携があるなかでも、組織としての大学と地域との連携は未だ成熟しておらず、大学といえども個別研究室との個別事業における連携に留まっているとの課題提起もなされた。各地で大学と地域との提携が進む中、組織としての大学とどのような具体的取り組みが行われるかが、今後の課題であると言える。最後にご報告頂いた大学としての地域活動についてはその教育的意義について報告頂いた。上村先生のご活動はボランティアサークルの立ち上げから、学生による過疎集落への支援などであったが、集落への支援を通じて集落から喜びや感謝の声がある一方で、学生の社会教育としての意義も強く示された。

 以上のように、単純に“大学と地域との連携”といっても、その役割は学生ボランティアから大学教員による専門的支援にいたるまで多岐にわたり、それぞれ大きな意義があると言える。特筆すれば学生への教育効果は特に大きく、大学教育でカバーできない社会教育部分について特に意義があることが示された。一方で、各地で進む大学組織と地域の提携については具体的な活動イメージが描けていない現実があり、研究者個人個人が独立的に在籍し、組織としての活動が難しい大学の状況も垣間見られた。

 今回のシンポジウムは、成果や課題が実際に関わりのある方から生の声で語られたことは非常にリアリティに富んでおり、示唆的なシンポジウムとなった。