日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!37号
支所だより 〜福井〜 テーマ:「水」

農山村地域 -「水源の里」- の未来を考える

藤原 英一
(株式会社サンワコン 地域計画部)


図1 観音寺集落の眺望景観


図2 間伐材ベンチの製作ワークショップ


図3 古民家見学ツアー


図4 馬借街道とせせらぎ


図5 砂防堰堤群(アカタン砂防)

 仕事柄,福井県内や滋賀県,京都市などにおいて都市計画や市街地開発事業に携わっていますが,ここ近年,滋賀県内の農山村地域において,まちづくりや地域づくりに関わる機会を頂いています。昨年度,栗東市では,市内から琵琶湖を眺望できる14戸の山あいの集落を活動拠点として,地元のまちづくりリーダーや任意のまちづくり団体などと連携して間伐材や古民家,水仙などの地域資源を活かした都市住民との交流事業を開催しました。長浜市余呉町においても,「田舎暮らしを楽しむ」をテーマとして都市住民と農山村地域の交流事業を企画・運営し,集落を歩き,地域の文化を体験し,地域の方々と会話をする機会を持たせて頂きました。

  人口減少や高齢化が著しい農山村地域と都市住民の交流は,地域の活力を育む貴重な機会となりますが,地元住民の地域に対する誇りと愛着,自分たちのできることから実践する主体的な意識,そして都市住民の積極的な関わりがないとなかなか実現できないものです。近年,全国各地の農山村地域において地域固有の資源を活かした積極的なまちづくり活動が見られるようになってきていますが,今後は都市住民の関わりが広く,そして持続的に行われるよう,全国レベルで都市地域と「水源の里」の交流を大きなムーブメントとして育てていくことが重要であり,そうした活動が農山村地域の豊かな暮らしに繋がっていくものと感じています。

  先日,大学の研究室のある集まりで,越前市の府中馬借街道を歩く機会を企画しました。別名,西街道と呼ばれる馬借街道は,北国街道の西側において比較的緩やかな山地を抜けて日本海に至りますが,特に,標高260mから日本海に向かう下り道は,大部分で道に並行して綺麗な水がやさしく流れており,心身ともにリラックスできる貴重な空間となっています。地元住民による草刈りをはじめとする維持管理や手作りの看板の設置など,「水源の里」の資源をしっかりと次代に繋いでいこうとする想いが随所に確認できる貴重な場所でもあります。私が暮らす南越前町宅良地区にも明治30年代に築かれた砂防堰堤群(アカタン砂防)があり,「田倉川と暮らしの会」という任意のまちづくり団体が環境づくりに取り組んでいます。こうした多くの活動が,いろいろなところで,様々な形でネットワークされ,「水源の里」を守り・育む大きな潮流となることを目指し,微力ではありますができるところから活動支援に携わっていきたいと考えています。

  量から質へ,物の充足から心の充足へと人々の価値観が変化し始めている今,私たちは,一人ひとりが暮らしの豊かさを考え直してみる時期に来ているのではないかと思います。豊かな自然環境をはじめ,地域に残る歴史・文化資産,住宅や生活文化など,様々な視点から自分が暮らす身近な地域を見つめ直し,地域への誇りと愛着を高め,多くの人と交流しながらその価値を共有していく。そうした取組が全国各地で活発になれば,おのずと豊かな暮らしが次代に繋がり,ゆっくりと「水源の里」が再生されていくのではないでしょうか。