日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!37号

建築学会大会2010 [北陸] 報告
メインテーマ:つなぐ−継承と創生−

建築と法曹界と市民をつなぐ
建築紛争フォーラム「戸建て住宅を巡る建築紛争」



北岡 正弘 (専門学校職藝学院)


写真1 主催者挨拶(小野徹郎運営委員長)


写真2 会場の様子1


写真3 会場の様子2


写真4 パネルディスカッション

 日本建築学会に司法支援建築会議が発足して10年目となります。社会環境や経済環境の変化に伴って建築関係紛争は、今後ますます増大することが予想されております。司法支援建築会議は日本建築学会が会長直属の会議体として設立するもので、建築関係訴訟に関して、学会が保持する厳正中立的な立場から裁判所に対する支援ならびに裁判所の協力のもとに裁判判例等の建築紛争情報の調査・分析を行いその成果の公表を通じて、学会会員への啓発と建築の学術・技術・芸術の進展に、さらに社会公共に寄与することを目的としています。

  設立以来、年に1〜2回のペースでフォーラムを開催してきました。昨年度から大会に合せて開催することにもなりました。「建築紛争フォーラム」を通じて、地方の司法支援会員はもとより一般市民に対しても建築紛争の実態とそれに対する建築界、法曹界の現状をお伝えし、建築訴訟の実態を理解していただく機会になることを目指しています。

  今回のテーマは「戸建て住宅を巡る建築紛争」でした。北陸地方は全国的にも有数の戸建て住宅が多い地域です。消費者運動の高まりを受け、地方でも住宅紛争は増加の傾向にあります。建築紛争は非常に複雑で多岐にわたりますが、今回は、特に地方の戸建て住宅紛争の特徴を分析し、建築や法律の専門家が、それぞれの立場から意見交換し、「施主と設計者(設計料を巡る紛争)、施工業者(瑕疵・追加変更工事等を巡る紛争)」を主題としました。

  以下のプログラムで開催されました。

1.開会挨拶: 小野徹郎 (日本建築学会司法支援建築会議運営委員長)
2.主旨説明: 柿崎正義
3.基調講演: 宮澤健二 (工学院大学教授)
     演題 「戸建て住宅建築紛争の特徴と未然防止」
4.主題解説
     ・住宅構造(能登沖地震の被害)‥‥後藤正美(金沢工業大学教授)
     ・基礎・地盤に関する建築紛争‥‥‥上田邦成(植田建築設計事務所)
     ・室内環境に関する建築紛争‥‥‥‥原 英高(建築科学研究所)
     ・契約に関する建築紛争‥‥‥‥‥‥島谷武志(島谷法律事務所)
5.パネルディスカッション
     コーディネーター:稲葉 實(三四五建築研究所)
    パネラー:上記講演者5名
6.まとめ:有馬 賢

  主旨説明、基調講演に引き続き、主題解説として豊富な事例報告がありました。また、パネルディスカッションでは会場の参加者も含め、活発な議論が展開されました。充実した内容のフォーラムとなり、参加された方々にとっては建築紛争を未然に防ぐ手だてを考える良い機会になったものと考えています。
  設計者・技術者にとっては紛争を防止するために、施主に対する説明責任を果たすことを通じて業務の透明性を高めると同時に、紛争事例に学ぶ必要があります。また不幸にして紛争当事者なった場合にも、円滑・迅速な解決のための必要な法的知識を備えておく必要があります。今回のフォーラムでは、予想を大きく上回る参加者数となりました。研究者だけでなく、一般市民や実務者の参加が多く、この問題への関心の高さを感じました。