日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!37号

建築学会大会2010 [北陸] 報告
メインテーマ:つなぐ−継承と創生−

トークラリー:夢をつなぐ
「建築、夢と愛とロマン」



永野 紳一郎 (金沢工業大学環境・建築学部建築系教授)

 
写真1 芦原太郎先生講演


写真2 工藤和美先生講演


写真2 若山滋先生講演

2010年度のトークラリーは、「建築、夢と愛とロマン」をテーマとして、芦原太郎先生(芦原太郎設計事務所代表、日本建築家協会会長)、工藤和美先生(シーラカンスK&H代表)、若山滋先生(中京大学客員教授)の3名の建築家に、建築作品を語る上で欠かせない、建築についての夢と希望を語っていただいた。少し気恥ずかしいような標題テーマではありますが、富樫豊先生(富山建築・デザイン専門学校)の強い導きと大会事業部委員会内での「ロマン・浪漫」についての論議を経て、建築を目指そうとする学生に建築家がストレートに語っていただけるキーワードとして、採用した背景があります。できれば幼少より建築とどのように向き合ってきたかを、少しでも垣間見える語りをしていただければ、学生も、我々も建築家の作品を理解する手助けになるだろう、そのような期待を込めました。さらに少し格調高い?個別テーマをお願いし、どのように料理していただけるかを楽しみに待つことにしました。

  トップの芦原先生は、「芸術と建築」の題目で、幼少に過ごした住宅、小学校時代のヘルメットを被り故芦原義信先生(お父上)と現場の見回り、東京芸大生時代などの大変貴重で興味深い写真を紹介されました。住宅の設計においては「一本の線が家族をつくる」という自負が必要であることを強調されました。地中海の「建築家なしの建築」に感銘を受けて、半年間を過ごされたことを語っていただきました。また、今もなお新しい環境に対して自分が何に反応しているのかを楽しむ気持ちで建築を設計している話されたことが印象的でした。

  工藤先生は、「美学と建築」の題目で、生まれてから今までで23回の引っ越しをしてきたことが、その土地、町、建築に対して敏感になっていくきっかけになったというエピソードを語られました。住宅は1ケタの人の集まり、テーブルを囲むという感覚であり、それに対して40,50,100の「人の集まり方」に関心があり、建築作品の写真を示しながら話されました。「境界」は分離かつなぐかのどちらなのか、人と人をつなぐ機会として捕えることを考えてきたことや、自身の大学時代の通学路で目にした美しい田圃の穂積など、日常の中での美しい光景に眼をつけることができるかどうか、そのような感性が必要なことを強調された。学校作品では「きれいは元気」であり、きれいな絵があればこころは変わるので絵を掲げるようにしているという信条があるとも。また、苦手なことにチャレンジするということで、苦手だった水泳が得意になった経験があり、建築もそのような面があるので、チャレンジしてくださいとエールを送っていただいた。

  若山先生は、「文学と建築」の題目で文学作品、源氏物語と漱石作品を中心にこれまでの研究の一端を紹介された。また、ご自身の母方の親戚に、書家の篠田桃紅氏いらっしゃることを紹介された。 建築の意味を解くためにアンケート調査、科学的なことをやってみたが、解き明かすのが難しいと考えるに至り、文学の面から建築を解き明かす研究に着手し、これまで27年間やってきたことを話された。「源氏物語」を建築的に読み解いていくと、外から室内に向かって池、前栽、庇、蔀戸、すだれ、几帳などを乗り越えてゆく描写があり、これらは柔らかなへだて、「多重のへだて」であることを紹介された。さらに、漱石作品の中から、草枕、三四郎を取り上げて、建築との関わりを話された。いずれも多彩な建築家の個性を垣間見ることができたトークラリーでした。