日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!37号

建築学会大会2010 [北陸] 報告
メインテーマ:つなぐ−継承と創生−

伝統をつなぐ:夜なべ談義  「点・てん」



加藤 則子 (造形作家)


写真1 夜なべ談義風景1


写真2 夜なべ談義風景2


写真3 夜なべ談義風景3

 建築学会全国大会の最終日、富山県高岡市「吉久(よしひさ)」という古い町並みの、サマノコと呼ばれる格子の間から暖かい灯が漏れるその古い古い町屋に、ぎゅうぎゅうとたくさんの人が集った。残暑も猛暑の夜、ビールで喉を潤しお隣のカフェからのケータリングの夕食を味わいながら「まちづくり夜なべ談義」がワイワイと開催された。

  吉久は江戸時代から続く加賀藩の御蔵町として栄えていて、千本格子の町屋が今も軒を連ねているところ。新築住宅もあり、町屋を改修したカフェや工房もあり。会場の町屋は江戸時代に建てられたもので、この夜なべ談義のコーディネーターである丸谷芳正さん(富山大学)が今後自宅と工房に改修されるとのこと。現在建築家の奥さまとご夫婦で計画を練っておられる。江戸時代の架構はとても美しく調べるほどに慎重になるそう。私としては改修された姿を早く観たくて楽しみにしているけれど、まだ改修の手を着けておられない空間、江戸明治大正昭和のニホイのするなかでの談義も現実味たっぷりで良いものだった。参加者も、見学しながら自分ならこう改修したいとか、ここはどう解決するのだろうなどと、きっと想像や妄想を楽しまれたのでは!?

  談義は、まちづくりのいろんな面での経験者達が体験されたことをリレートークで細やかに熱く報告された。まずは県東部の滑川市の酒屋改修に取り組まれた例。廃業された酒蔵とお屋敷を改修し町のお祭りにも場を提供されている。その影響を受けて近隣の古い町屋も改修されはじめているとのこと。次は金沢の町屋と能登の漁村と輪島市の例。金沢では町屋の改修を手がけたり相談に乗ったりする法人や建築家や工務店がある。能登の漁村ではサーファーが波の魅力をツイッターやブログで紹介し他県からの若者が増えてきたとのこと。漁村とは違う意味での新しい魅力が掘り起こされつつある。能登沖地震で被災した輪島の塗師蔵を救おうと立ち上がった建築家と左官職人たちの技術と知恵、困難から生まれたアイディアによって新しい蔵も生まれている。日干しレンガを作って壁の内部に積みそれを意匠として見せているのが新鮮でおしゃれだった。

  参加者からは、今はこの地を離れているけどいつも気にしているという若い建築家や、住み続ける住人は町への切実な想いと資金面についてや感想を正直に熱く語られたり、行政マンからもその場ですぐ住人の疑問に応えたりして双方のやりとりがある談義になった。予定時間をかなり越えてもまだ話し足りないしまだまだ聞きたい感でいっぱい、この丸谷家の改修の方針や計画ももっと聞きたかったけど、次回(?)のお楽しみに。丸谷先生のお人柄と幅広い人脈で、和気藹々と率直に話し合えた充実した時間だった。

  観光客ねらいのまちづくりイベントは疲れるし続かない。みんなでがんばろうスタイルってどうなんだろう?ひとりひとりの当たり前の「日常」として、まずはひとりひとりが「楽しみたい」という、小さくてもきらりと輝く「点」のほうに魅力を感じる。手入れの行き届いた住まいと庭先だったり、小さなお店やカフェ、ギャラリーやアトリエだったり。どのまちにもそこにしかない場があって、魅力的な「点・てん」があって。それがいつの日かつながって「まちづくり」になる、というふうな。そういえば今回富山での大会記念講演は、映画「剣岳 点の記」の監督木村大作氏の講演から始まった。剣岳にある「点」もすばらしい魅力的な点!点と点でつながった暑い熱い夜となった。