日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!38号

2011年度 日本建築学会北陸支部大会基調講演

「改修して住み続ける」

講師:川口 とし子(長岡造形大学教授)
日時:2011年7月9日(土)13:30〜15:00
場所:AOSSA(福井市)6階

報告:内村 雄二(福井工業大学)

図1 川口とし子氏講演会-紹介パンフ


写真1 開会:司会の五十嵐先生
(福井工業大学)



写真2 講演のワンシーン


図2 講演スライド「House in Nakaitabashi」の報告者拙クロッキー


 テレビの人気番組ビフォーアフターで「和とモダンの融合者<匠>」と称される川口氏の講演には、定員100人の会場に補助椅子を詰め込んだ状態で、約120名の学生を中心とした聴講者が集った。

 講演のプロローグは、自己紹介的に高円寺のChez moiやHouse in Kitasenjuなど川口氏の設計された4作品の紹介からスタートし、先ず演題「改修・・・」に入る前に建築家としての純然たる作風を印象付けられた。
 次に学会ということで、昨今ブームとなったリフォーム、リノベーションに関する客観的な実態・動向を、壁紙新聞(関係専門誌)や矢野経済研究所などのリポート・分析評価をもとに統計的データを交えブームの背景等を分かりやすく解説された。もっと快適に(設備が古い)を理由とする割合が42%であること、500万円以上の改修予算が全体の3割をしめること、60歳以上の高齢者層のニーズが高いこと、さらにリフォームの潜在的需要は65%以上にのぼることなど、我国も本格的なストック社会へシフトしている様子を明示した。また、中古住宅購入が新築住宅購入を上回ったという事実は、ことの主要因として明快に受け止められた。

 本題の改修事例については、川口氏の御出身地である新潟県三条市の「House in Kamiigusa(二世帯住宅へのリフォーム例)」、テレビ・ビフォーアフターで有名になった「House in Nakaitabashi(昭和の建売住宅11坪の敷地に9坪の家屋の改修例)」と「House in Kamakura(中古住宅を買った若夫婦世帯のリフォーム例)」、そして時間がせまった中アンコール的に新潟県三条市「鍛治町の家(大規模な伝統的民家をリノベーションしたデイサービス施設例)」の計4作品を、スライドと動画を用いながら熱のこもった口上で語っていただき、楽しくかつ興味深く拝聴することができた。また、「House in Kamiigusa」の竣工前の打合せ時に施主とお茶を飲んでいたとき、3.11の東日本大震災が起こったというエピソードもあった。

 近年、大学の模擬授業ということで高校生に建築系分野で講義することがあるが、そのとき生徒に何故この分野に興味があるのかと尋ねると、真っ先にビフォーアフターを見たからと答えるケースがある。それも女子校生が目立つ。生活者の目線から住み慣れた環境を持続的に守り、改善するという感覚があるのだろう。住み続けるために、先ず改修を考えてみるということは、既に生徒達の方が進んでいるのかもしれない。そういった意味で、川口氏はフロンティアに違いない。そして、そんなことを考えていると、ブルーノ・タウトのヴァイセンゼーの集合住宅が想起された。色彩の魔術師といわれたタウトとその作品は、ビフォーアフター・<匠>の元祖のように思えてならなくなった。古今東西の既視感を起動していただいた川口氏の講演に感謝したい。