日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!38号
支所だより 〜福井〜 テーマ:「震災復興」

東日本大震災で被災された人たちのためにできること

服部 常義
(福井県立武生工業高等学校 都市・建築科)


図1 メモリアルボード


図2 製作風景1


図3 製作風景2


図4 製作風景3

 今回の震災で、家を無くし避難所や仮設住宅で生活する人、また、身内を失い、移動を余儀なくされ、家族や友人と離ればなれになってしまった人が大勢いる。さらに、福島県では、原発の放射能の影響で、今まで通学していた高校に行けず、サテライト高校に通学せざるを得ない生徒が1800名余りいて、精神的にひどく痛手を受けているそうだ。

  そこで、必要となるのが衣・食・住の援助に加え、心のケアである。現在、本校の生徒たちは、家族や友を亡くした人や離ればなれになってしまった人たちの精神的な支援として、『メモリアルボード』(祈りの台)の製作に少しばかりお手伝いをさせてもらっている。主な作業はボードの加工・仕上であるが、そのボードの背面に差し込むアクリル板には大切な写真や絵などを入れることが出来、仮設住宅等で過ごされている方々にとって、このメモリアルボードは大切な「絆の証(あかし)」となるにちがいない。これは越前市で材木店を営む田中 保さんの「身近に出来ることから行動を起こそう」という姿勢から発案されたものである。このメモリアルボードは大きさが40cm程度で、材料には県産材の杉を使っている。「福井に健全な森をつくり直す委員会」・「自然と暮らし隊」が母体となり、「福井県木材協同組合連合会」がサポートをし、材料を支給してくれている。

  本校では、地域を支える「心ある技術者」を育成することを目指し、一つのものを作り上げる経験を通して「ものを大切にする心」を育て、誰かの役に立ち、感謝されるという経験を通して「豊かな人間性」を培うことを目標として教育活動を行っている。
  現在、建築クラブの生徒や3年生の課題研究(木工班)の生徒が製作に関わっているが、その生徒たちがいうには、製作しながら木の板と向き合っていると、木が持つ優しさや木目の美しさを実感でき、木の手触り感で心が癒されるという。また、このボードを手に取った人がどういう思いで使うのかを考えると、自然と気持ちが入るらしい。
  一方、教科書に沿って進む学校の通常の授業は、生徒たちの立場からすると現実味のない仮想の世界といえるかもしれない。特に、建築の内容は経験がないため、なおさらだろう。しかし、今回、製作しているものは、被災された方が実際に手にとって使用するものであり、現実とつながっているものであるため、生徒たちは製作する手応えを感じているようだ。
  今回のメモリアルボードの製作にたどり着くまでに、色々試案を重ね、直接出向いて被災にあった方から話を聞いている。「本当に必要なものなのか」を問い、また、相手の要望を聞いて案を練り直している。実際に使われるものだからこそ、必要となる大事な過程である。これは「建築」の分野でも同じことである。また、無償で配布するため、できるだけコストを抑えることが必要となる。そのため、送るための梱包作業で使う箱も全て生徒の手作りだ。ものづくりの一連の流れがここにあり、将来、ものづくりの技術者となった時に、今回の経験が必ず活きてくるに違いない。そういった意味においては、生徒たちは大変貴重な経験をさせてもらっている。

  被災地の要望で、各工業高校で協力して作ったボードは、数が揃い次第、まとめて被災地の高校生に届ける予定だ。それぞれのボードには「何かちょっとでもお役に立てれば……」と製作した生徒の想い(メッセージ)が直筆で添えられる。同じ年頃の被災者の辛い境遇に想いをはせたり、寄り添ってみたりすることで、豊かな人間性が培われるのではないだろうか。ものが溢れている現代において、ものづくりの原点に立ち返った取り組みといえよう。
  福井県木材協同組合連合会の有志の方で7月に岩手、宮城、福島の各県に50セット届けたが、予想を遙かに上回る5,000セット以上の製作依頼を受けた。敦賀工業高校の橋本和之先生が全国の高校に呼びかけたところ、その主旨に賛同して協力してくれる高校がたくさん出てきた。千葉、長野、大分、石川、埼玉、新潟各県の工業高校、また、地元大学からも協力の申し出があり、その輪は確実に広がっている。
  奇しくも2011年(平成23年)は国際森林年。世界中の森を未来に残すために意識を高めてもらう年。そういう節目の年に、木から更なる恩恵を受け、安らぎを分けてもらうのも何だか因縁めいたものを感じる。木に感謝をしながら、心を込めて製作にあたりたい。