日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!38号
支所だより 〜富山〜

重要文化財勝興寺「台所」上棟式

下田 結子
(富山大学芸術文化学部丸谷研究室)


図1 修復された素屋根


図2 解体調査の結果「瓦葺屋根」から「石置き屋根」の勾配(3寸5分)に戻された


図3 曳綱の儀


図4 槌打ちの儀


 高岡市伏木の国重要文化財勝興寺で現在、「平成の大修理」が行われている。平成23年11月8日には上棟式が行われ、一般にも披露された。
  勝興寺は約3万平方メートルの広大な境内を所有し、その中で本堂をはじめとした12棟の建造物が重要文化財に指定されている、富山県を代表する寺院建築である。平成10年度より約20カ年計画で保存修理が行われてきた。平成16年に本堂の修理が終わり、現在工事は第二期工事へと移り、本坊の大型7棟、小型4棟、合計11棟の建物の修理が進んでいる。

  上棟式の行われた台所は小書院と共に本坊で最後に建設された主要建物であり、全国で2番目に大きな本坊全体を覆う素屋根や修復途中の寺院を見ようと、上棟式には建築関係者や地域の方々、報道陣と多くの人々が集まった。素屋根とは修復中の建物を雨や風から守り足場や資材置き場となる作業場である。実際に、その中に入り、本坊全体を見回すことができたが、その姿は圧巻であった。
  メインとなる台所は解体、調査、を経て、すでに骨組みまで修復され、すのこ状の広大な屋根も再建されていた。隣の軸組があらわとなっている棟と比べれば、かなり完成に近づいているようであった。
  工事では1892(明治二十五)年に改修された三階建てから、建立された1863(文久三)年当時の二階建てに戻された。この工事では分解調査、傷みの激しい個所の修復だけでなく、耐震補強を強化することが大きな目標となっている。そのため、2010年春から耐震補強用の鉄骨を骨組みに組み込み、水平方向への揺れに対して補強している。建設当初に用いられた資材をなるべく活用し、技法を世襲しながら巨大地震に耐えうる耐震補強を行うことはかなり難しいことだが、これからの寺院建築修復において、耐震補強の強化は必須事項となるようだ。

  上棟式は高岡市長、棟梁などの工事関係者、こども大工などが参加し、工事の無事を祈願した。メインとなる工匠式は丈量(じょうりょう)の儀、曳綱(ひきづな)の儀、槌打ちの儀と順に行われていった。丈量の儀は建物建立の基となる博士杭を使い、方向、柱間、高さ等を計る儀式である。念には念を入れ、丁寧な仕事を行うことを誓いながら、参加者達は厳かに博士杭を手にしていた。
  曳綱(ひきづな)の儀は棟木を屋根に引き上げる儀式である。棟木に結ばれた紅白のロープを参加者、見学者共にしっかりと手に持ち、力と声を合わせて曳いていく。屋根に上がった振幣役が永く永く栄えるようにと「エーイエーイ。」と3回声を上げると、参加者全員が同じように大きく掛け声をあげながら、ロープを曳いた。会場全体が一体となった瞬間であった。槌打ちの儀とは、屋頂の棟木を所定の位置に収める儀式である。屋根に上がった工匠達は、振幣役の指揮に従いながら、三回棟打ちを行った。工匠達は建物が千年も万年も建ち栄えることを祈り、「千歳棟、万歳棟、永々棟」と声を上げながら大きく木槌を振り、棟木を納めた。

  参加者、見学者、多くの人々が工事の無事と成功を願う式となった。二期工事は本坊の大広間・式台など残りの棟について順次進めており、平成30年3月に完工予定だ。


参考:
中日新聞HP  www.chunichi.co.jp
勝興寺HP   www.shoukouji.jp