日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!38号
学生シリーズ(福井) テーマ:「東日本大震災」

東日本大震災を契機に思うこと

吉村 朋矩
(福井工業大学大学院 博士後期課程1年)


図1 バイコロジー都市の先駆アムステルダム(その1)


図2 バイコロジー都市の先駆アムステルダム(その2)


図3 富山市のレンタル自転車アヴィレとLRT


図4 未来型自転車輸送

 2011年3月11日、未曾有な大地震およびそれに伴う巨大津波が東北地方から関東地方にかけて襲った。東日本大震災である。この影響で死者・行方不明者を合わせ、約2万人もの人的被害が生じ、その9割以上が津波による水死であると報告されている。ニューヨークタイムズが震災直後に報道したように、震災前後での地形を比較すると福島・宮城・岩手を中心とする地形が変貌してしまった。私は驚きをかくせない。津波により家族・友人・恋人など多くの大切な人を一瞬としてなくしてしまった方々が多いということと地形をも一瞬として変えてしまったからだ。私の友人も被害を受け、今、未来へ向け懸命に生きようとしている一人だ。現在、東北地方の復興計画も少しずつではあるが、一歩一歩前進している。

  私の専門は交通計画であり、特に歩行者・自転車交通に着目し研究を進めている。また東北地方の復興計画において『再生可能なエネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上』を挙げていることから、私は近年、環境負荷が低く、近距離の移動が便利であり、健康増進にもつながる自転車を活用した環境にやさしいまちづくりである「バイコロジー都市」を提案したい。バイコロジーとは、バイク(自転車)とエコロジー(生態学)との合成語で、自転車を活用することや自転車にとって安全かつ快適に走行できる環境づくりを進めることで、自然豊かな社会をつくろうというものである。ヨーロッパの都市であるオランダのアムステルダムでは、自転車の走行空間がしっかりと整備され(図1,2参照)、自転車が都市計画の中に組み込まれている。東北地方においてもこの震災をきっかけに自転車が都市交通の主役となり地球環境にやさしい低炭素都市へとチェンジしていってもらいたい。日本・世界における環境先進都市を東北地方が担っていき、観光資源の一つとしても自転車を活用していってもらいたいと思う。

  自転車は誰でもが気軽に乗れて環境にやさしい乗り物ではあるが、走る凶器にもなってしまう可能性もある。平成10年から平成20年の10年間で自転車が関連する事故が他の事故に比べ増加している。特に自転車同士の事故や自転車と歩行者との事故が急増している。世代別では中学生・高校生の事故が多い。過去の事例では、無灯火のまま自転車で通行していた女子高校生が歩行者と追突事故を起こし死亡させた。これによって被害者へ5000万円の支払いを命じる地方判決が出た。今回は自転車側が加害者になったケースではあるが、被害者になる可能性もある。だからこそ自転車の危険性というものを、しっかりと家族や友人などと一緒にみんなが真剣に考えてもらいたい。行政や学校などの教育機関では、道路交通法が平成20年6月に改正されたことから交通ルール・マナーを徹底して教育しないといけないとともに自転車保険に入るよう促す必要がある。まちにおいて自転車の走行空間が歩行者にとっても自転車利用者にとっても安全で快適に整備され、個人の交通ルールの認識や自転車行動が向上すれば、間違いなく自転車は未来の乗り物になるだろう。もちろん自転車だけでは移動が不便な部分があるので、LRTや電気バスといった環境にやさしい近未来都市交通システムを確立(図3,4参照)し、グローバルな視点にたって私たちも未来へ向かって一歩一歩踏み出していきたい。