日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!38号
インタビューシリーズ〜富山〜

植物資源を不燃化して木造文化を復活する
−アサノ不燃木材

レポーター:丸谷芳正
(富山大学芸術文化学部教授)



図1 アサノ不燃木材理念


 2000年6月施行の改正建築基準法で、防火性能などが一定の基準を満たせば、木材でも「不燃」として使用を認める「性能規定」が導入され、大臣認定を取得する動きが広がった。そのような状況下で2001年11月に「株式会社アサノ不燃木材」は日本で初めて木材による不燃材料の認定を取得している。北陸支部広報部会では防災の観点と木造建築文化の継承という観点から福井県の坂井市にある株式会社アサノ不燃木材本社にて代表取締役である浅野成昭氏に取材を行った。

【Ah】日本国内では不燃木材への認識がまだまだ弱いと思われるが、浅野さんが不燃木材に着目した動機を聞かせてください。

【浅野】長年水環境関連ボランティア活動と建築設計に携わりながらどうして建築基準法第1条がありながら火災で毎日多くの人が亡くなり又財産が守れないのか、また有限な化石資源や鉱物資源で高度成長してきた社会に大きな変革が必要でないのか、無限な植物資源が使えないのか、その中で木材資源の活用を考えました。いままで木材は燃える前提で使い、燃えて当たり前ですが、木材をいかに建築に使わせるかを考えた場合に、その燃える点に着目しました。木材を鉄の様に燃やさず炭化させられないか、鉄は炭化しませんが熱に弱い。そこで建築基準法の第2条9項に不燃材料という規定があり、コンクリート、鉄など施行令で細かく規定されているが、現実には第1条の人の生命や財産を守ることができていない。木造建築では世界的に実績と文化のある日本の建築基準法って何なのだろうという疑問をもった。
  一方、山に目を向けてみると、40年も経った木が全く利用されていない。一本の大根と値段が一緒というおかしな状況だ。先日の台風による和歌山県などの水害では80歳90歳の方が今までこの様なことはなかったと言っていた。広葉樹が多かった森は針葉樹の人工林に変り、手入れが行き届かなくなっている。自然林は自然が調整しているが人が植えた人口林は人が管理しないから今回の災害は起きた、人災ですね。スギは谷間に植えるもので根が浅く横に伸びていく又、人口林は谷から尾根に向かって搬出しやすい様に植えているが間伐など手入れしないから下草などがなく土に直接雨水がしみて、急峻な日本の山では山崩れが起きやすくなります。昔は、春切った木は自然に帰し、秋に切った木は製品として使った。山との付き合いは非常に親密だった。ところが高度成長と共に自然との付き合いが薄くなってきた。山をきれいにしなかったら水もきれいにならない。
  27歳の頃から設計業の傍ら山をきれいにするにはどうすればよいか考えつづけてきた。建築基準法では火災から生命を守るために木は使えないということになっていたが、鉄では守れるのか?鉄は燃えないけれど9.11では守れなかった。木材は鉄より強いとも言える。引っ張り強度は鉄の4.5倍、圧縮強度はコンクリートの9倍あるのだから使わない手はない。それでは、木材を鉄・コンクリートに匹敵する性能(耐火)にするにはどうしたらよいか。一方では山の問題がある。村おこしや地域の活性化の問題もある。またCO2などの自然環境問題など、建築設計に携わるものとしてできる事と、建築基準法の問題と建築物の木造化(昨年度公共建築物の木造化が法律化された)のこの問題をさっと合わせたら結果が「不燃木材」だった。木材が燃えずに炭化し、煙やガスを抑え、カビが生えにくく、虫が食いにくくと、考えたら「不燃木材」にたどり着いた。

 「不燃木材の防火性が不足」(2011.6.29)。朝日新聞がトップで報道した。建築関係者にとっては記憶に新しい事件だ。大臣認定を受けた複数の製品が基準を満たしていなかったことがわかった。認定をとった約30社のうち約20社は実際には生産等していないため主な10社が抜き打ち検査を受け、何と10社のうち9社が不合格という結果になった。性能確認試験では8社の製品が基準となる総発熱量の5倍を超え、10倍を超える製品もあったという。1社は総発熱量をクリアしたが認定取得時の仕様と異なり、基準に達した会社はアサノ不燃木材だけだった。さらに恐ろしいことに、不適合品と同じ認定番号の不燃木材を使用している施設として羽田空港の「江戸小路」やスカイツリーなどの公共施設の名が連なる。これでは世界で初めて出来た新しい材料、不燃木材の存亡に係り消費者の信頼に大きな影響がでます。
  不燃材料の認定をとるには初期火災に相当する750度で総発熱量が8メガジュール以下にあることが基準で、不燃で20分、準不燃で10分、難燃で5分、10cm角の木材の上から750度の熱を放射しても燃焼しないことと、有害ガスが発生しないことが条件となる。またマウス実験も行われ、行動停止時間が6.8分以下であれば不合格という試験である。

【Ah】不燃木材はホウ酸系やリン酸系の薬剤を木材に染み込ませ乾燥させた建築材料ということだが、何故このような認定と違う製品が出回るような事件がおきたのか?

【浅野】大臣認定をとった後は、業者まかせで国がチェックできていないことが主な原因だ。国交省の抜き打ち検査は厳しいものだったが、本当には新しい不燃木材のことがわかっていない。抜き打ち検査では材の木口部分と真中部分だけをサンプル採取し不燃性能確認試験をした。実際の認定時の試験は小さな試験体ですが市販商品は大きさが違いかつ不燃化できない節など均一に含浸出来かが特に問題です。10cm角の木材に注入する薬剤を、弊社は実際の製品と同じ採算ラインの240キロ(立米当)で認定をとったが、弊社より多い400キロ近く入れて認可をとる業者もいる。こんなに不燃薬剤を含浸してはとても採算が合わない。また、木材小口から多く含浸する為2M以上の3〜4Mの材料は均一に含浸できない。抜き打ちで不合格になったものは不燃薬剤の固形分が認定商品の半分以下で120〜130キロ止まりだったため、大きな性能不足になった。つまり、現実の製品と試験が乖離しているということだ。認定時の10センチ角なら薬剤量が入る。長い材料でも認定条件と同じ不燃薬剤固形分が入れれば問題がないが、長い材料に含浸させるには不燃液濃度が問題になり高濃度の不燃液と含浸技術がないと困難だと思う。また、不燃性能維持不燃液固形分は約240キロ/M3ぐらいが最低量でそれ以上の含浸量では不燃材としての単価が上がり採算があわない。しかし240キロ/M3以下の約半分の固形分で認定を受けている企業があるので弊社で公的燃焼実験機により確認したが、不燃性能は確認できなかった。この件ではどうして国が認定したのかが疑問です。間違いなら社会問題になる可能性に不安を感じています。

【Ah】そのような不燃木材という名の不合格木材が取り消されずに流通しているというのは恐ろしいことですね。

【浅野】これは社会問題に発展している厚生省のB型肝炎や姉歯問題と同じ様な状況になると懸念しています。火災にならなければわからない。国の認定方法も問題ですが、製造販売企業側も購入側も燃えなければ判らないなど、国の認定があればよいという無責任な姿勢が問題です。

【Ah】多額の開発費の多くは浅野さんの不燃木材にかける情熱に賛同した方々から預かったとお聞きしましたが、今取り組んでいることでお話できることがありましたら、お聞かせください。

【浅野】世界中、法律を遵守しても毎日火災で多くの人命や財産が守れず無くなっています。その原因は主に煙や有害ガスによるもので火災は内部から起きます。現在の規制は他からの火災、また火災になっても防火区画で抑え消防が来て対応していますが、それを火災にならない様、まず、火元から延焼しないようにする。例えばつまり建物等にワクチンをすることが建築基準法第1条にも合致させる事になり、また公共建築に地産地消の木材を使うことにも合致させる、地域でとれる小径の間伐材も全部使えるように考えたのが中高層用2時間耐火構造材です。現在は燃えしろ設計が主ですが火事は防げません。耐力だけ守っても人の財産と命は守れないのです。そこで間伐材などの材料を活かす単板積層材のLVLを不燃化することとしました。ところが接着層があり中々入っていかないため、非常に苦労しました。しかし結果は、ISO基準燃焼実験による2時間耐火構造認定条件をクリアしました。煙、有害ガスが出ない、燃焼せず炭化するだけ、これで多くの人の命が助かります。正式な大臣認定はこれからですが見通しは立っています。新しい木材と産業の誕生です。これは木造建築材の革命だと思っています。又この技術は木材を始め植物資源や石油由来資源(断熱材等)の多くの素材を不燃化出来ます。このようにヒューマンエラーや機械の故障が生じても安全、安心な空間確保と新しい産業による地域活性化の目標実現に多くの共感者の賛同頂き感謝いたし頑張っています。

【Ah】まだまだ話は尽きませんが、我々建築学会としてもアサノ不燃木材の今後の活躍を注目していきたいと思います。本日は誠にありがとうございました。

(図1:アサノ不燃木材理念)

(取材日:20011/9/20)