日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!39号
支所だより 〜福井〜 テーマ:「エネルギーと環境」

化石エネルギー依存症
〜北陸におけるスマート暮らし


中野 民雄
(福井工業大学建築生活環境学科 講師)


図1 事業概要


図2 体制と役割


図3 実施内容とスケジュール

■化石エネルギー依存症

『今日を持ちまして、世界のエネルギーが無くなります。』
このような事件が発生したら、全世界はどうなるだろうか?そんな異常事態が起こるわけがない、と高をくくる方々も多いかもしれないが、これは遅かれ早かれ訪れる地球の未来図である。そして、世界は、化石エネルギー無しでは生きられない重度の「化石エネルギー依存症」という大病にかかっている事を、全人類がまず肝に銘ずる必要がある。

一方で、化石エネルギーが無くなっても太陽や風があるではないか、その為に自然エネルギーを活用する技術を開発しているのではないか、と言う方々も少なからずいるだろう。しかし、太陽光発電のパネルを製作するのに、風力発電の羽を製作するのに、どれだけの化石エネルギーを消費しているのか?そもそも、化石エネルギーが無くても作れるものなのか?すなわち、玉子が先か鶏が先かではないが、これらは全て化石エネルギーが存在している事が前提条件なのである。

では、化石エネルギーが無くなったら、人類はただ滅びるのを待つのみか?と問われれば、私はそうは思わない。産業革命以前の、化石エネルギーを使用することが無かった時代、人々は知恵をフル活用して生活してきた。人々はいつしか、豊かであることに慣れ、物がある事が当たり前になり、生活を考える事を忘れてしまったのである。私は、こんな時代だからこそ、生きる事、生活する事を、今一度考えてみるべきなのではないかと考えている。

■北陸におけるスマート暮らし(嶺南西部地域低炭素の街づくり推進事業)

「スマート」という言葉を、おそらく誰しも一度は耳にしたことがあるだろう。アメリカのオバマ大統領がグリーン・ニューディール政策を打ち出して早3年以上が経過し、ここ日本でもスマートシティやスマートハウスなど至る所でお目にかかれるようになった。

それでは、スマートの本質とは? わかりやすく解釈するならば、エコロジー(環境にやさしい)とエコノミー(財布にやさしい)の両立ではないかと、私自身は考える。節電方法や節電グッズが、巷を賑わしているが、無理・難題な行動や具体性が無い方法、そして自己犠牲を伴う方法など、エコと我慢を取り違えた方法が散見される。私は、真実のスマート暮らしとは、自然に出来るアプローチから産み出される一過性ではない持続可能な暮らしであるべき、と考えている。

このような背景から、本年度より2か年計画で、福井県環境政策課と高浜・おおい両町と共に連携・協力し、「スマート暮らし実証事業」を行っていく(図1〜3)。私は、ここ福井からスマート暮らしのあるべき姿を世間に発信していく事に、非常に重要な意義があると考えている。

北陸地方で日本海側の日照時間が少ない厳寒な気候条件、さらには省エネ住宅とかけ離れた伝統的民家が数多く存在する中で、質の高い住環境を考えるのは並大抵のことではない。そして、お金をかけて改修し、最先端の技術を導入することばかりが大事でもない。本当に大切な事は、その地域に見合った暮らしを考えて、今まで無駄にしてきた事を改善し、快適さは損なわずに経済性を増す暮らしを、その地域に生活する人々が自然に実践していく事に他ならないからである。


結びに、人間生活の3本柱の1つである住環境を変えるスマート暮らしは、スマートシティ、スマートジャパン、さらにはスマートワールドに繋がっていく重要なファクターでもある。スマート暮らしの実現によって、日本だけでなく全世界が幸せになる暮らしの実現を願いたいものである。