日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!39号 松田 昌洋 (信州大学工学部建築学科 助教) |
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地球環境やエネルギーの問題には様々な要因が関係しており、いわゆる特効薬のようなものはないが、建築の分野、特に建材という観点からすると木材は地球に優しい材料である。木材を生産する過程におけるエネルギー消費量や二酸化炭素放出量は、鋼材などの建築材料と比較して非常に少ない。また、木は二酸化炭素を自らの中に取り込んで炭素を固定するため、建築の中に木材を使用することにより、森林の立木以外にもその貯留先が得られることになる。さらには、木を山に植え、ある程度成長したところで伐採し、木材として使用した後、再び山に木を植える、といった循環サイクルが50年単位で成り立つ持続可能な自然材料である点も見逃せない。
それでは、山から木を伐り出して積極的に使えばいいということになるが、それがなかなか難しいのが現状である。例えば、森林の整備は必ずしも十分に行われているとは言いがたい。間伐が行われない、または間伐を行っても山に間伐材が放置されたままになっているなど、木材の育成の場となる山の環境が良くないところもある。林業の生産体制や経済性の問題など山側からすると木材を生産しにくい要因もあるが、一方で材料を使用する建築関係者もあまり木造建築に目を向けてこなかったという状況がある。そのため、建築の中で木材を利用する際の考え方や仕組み、技術といったものが失われてきた、あるいは発達しにくくなっていた。つまり、木材の特色である持続可能な循環サイクルが壊れてしまっていたのである。 ただ、こういった状況の中にあっても木造建築の開発や研究は徐々に進められ、現在では耐震性能や防火性能といった技術の向上によって、住宅や低層の建物はもちろん、4、5階建てのいわゆる高層木造建築も可能となっている。また、木の感触や特性は成長過程にある子ども達にとって好ましい環境を作り上げることから、近年は学校建築に木を使用する事例が増えている。これは、日本の木の文化を未来につなげる意味でも大切なことである。 個人的には様々な建築が木造で建てられることは喜ばしい状況であると思うが、もちろん適材適所という言葉があるように、すべてを何が何でも木造建築とするわけにもいかない。ただ、これまでのように鉄やコンクリートといった材料ありきで建築を考えるのではなく、木材も同じ選択肢の一つとして扱うことが大事なことであり、これが木を中心とした循環サイクルを構築する上で建築関係者が踏み出す第一歩である。そして、これからも木造建築に対する理解を深め、積極的に木を使う方法や技術を研究していくことが建物の環境、街や地域の環境、山の環境、そして地球の環境を向上させていく上で必要なことだと考えている。 |