日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!39号
支所だより 〜富山〜 テーマ:「エネルギーと環境」

産業と雇用と木質バイオマス

竹平 政男
(有限会社シモタニ 代表取締役)


図1 シモタニのストーブ・オルコット


図2 オーストリアの農家による
チップ製造



図3 宿泊したホテルのチップボイラー

私は、木質ペレットストーブを開発・製造する有限会社シモタニ(岐阜県下呂市)と、地域に自然エネルギーを普及させるための平和エネルギー株式会社(富山県高岡市)を経営している。下呂市はシモタニの先代・下谷社長の故郷であり、高岡市は私自身の故郷である。

木質ペレットを含む木質バイオマス燃料はカーボンニュートラルな環境にやさしいエネルギー資源であり、また森林の整備にも結び付くため、今回のテーマである「環境とエネルギー」にぴったりである。しかし、ここでは敢えて産業と雇用という視点から木質バイオマスの世界を紹介したい。

昭和時代であれば、製造業から産業と雇用へのアプローチは、農村部に大きな工場を建設し、地域の人達に働く場を提供し、働く方も多少不本意な仕事であったとしても歯を食いしばって頑張っていれば毎月給料が貰える、といった図式だったと思う。しかし、残念ながら今のご時世、それは時代遅れと言わざるを得ない。多くの工場が閉鎖してきたし、働く方もただ頑張っているだけでは評価されない。

会社やそこで働く個人は、自らの持ち味を存分に発揮したモノづくりをしなければ生き残れないし、実際に皆そうやって頑張っているはずである。しかし、それだけで地域の産業や雇用は保たれるものであろうか。世の中はそんなにモノづくりを必要としているであろうか。私の答えはNOである。世の中に既にモノは溢れているし、消費者の価値観は多様化している。

話しは変わるが、聞いたところによると日本はGDPの5%に相当する23兆円の化石燃料を毎年海外から買っているそうである。これは由々しき問題ではないだろうか。仕事が減っているのに支出が続けば生活は成り立たない。そこで、山の木をエネルギー源にすれば、海外への支出が減らせるし、林業など地域に雇用が生まれるし、ストーブやボイラーといった新たな産業も生まれるし、言うこと無しではないか、という発想に私は行き着いた。

そのような思いで今までもストーブ開発を行ってきたが、今年の2月から3月に掛けて木質バイオマス先進地のオーストリアに視察に行ってきた。農村部に行くと、農家が副業で薪やチップを製造していた。つまり、エネルギー事業を行っていた。シュタイヤマルク州森林協会の資料によると、人口1万人の村において、化石燃料を暖房源とした場合には9名の雇用が生まれるのに対し、木質バイオマスを暖房源とした場合には135名の雇用が生まれるとのことであった。木を伐る人、運ぶ人、燃料に加工する人、ボイラーをメンテナンスする人、などなどである。

もうひとつ印象的だったことは、とある地域に行くとA社の木質バイオマスボイラーがそこら中にあり、次に別の地域に行くと別のB社のボイラーがそこら中にあるということだった。恐らく、ボイラーメーカーがメンテナンスも含めた地域密着のビジネスを展開しているからと推測している。確かに、木質バイオマスボイラーの技術自体、日本に比べると30年進んでいるということではあるが、オーストリアの中でそれ程画期的に差別化できるものには思えない。そうであるとすれば、地域密着でビジネスをして行くことが差別化要因となるのであろう。今後、日本のストーブ・ボイラーメーカーの進む道として大いに勉強になった。