日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!39号
学生シリーズ(長野)

自然エネルギーによる地域活性化
〜持続可能な暮らしを目指して〜


山田 和輝
(信州大学大学院総合工学系科山岳地域環境科学専攻 高木研究室)


図1 自然エネルギー信州ネット


図2 鬼無里村


図3 林業


図4 薪ストーブ

2011年7月、長野県において、市民、NPO、地域企業、大学、行政機関が力と知恵を出し合い、自然エネルギーを普及するために自然エネルギー信州ネットという組織を創設しました。 この組織は、エネルギーを消費する市民を主役と位置づけ、市民が持続可能な暮らしや、未来の長野県について考え、住みたい未来を民主的に作っていくための組織です。

2012年4月現在、このネットワークは全県規模に達し、欧州や全国各地で成果を上げている様々な自然エネルギーによる地域活性化事業を研究し、さらにそれを長野県で普及していくため、いくつかのプロジェクトを計画し、さらに法律の規制見直し提言等を、県を通じ国に行っています。
 
自然エネルギーによる地域活性化の事例として、長野県鬼無里村の活動を紹介致します。

鬼無里村は長野県北東部の山間にある、典型的な過疎の村です。村人の多くは高齢者で年金暮らしです。村の農林業だけで生活するには難しく、若者は仕事を求めて都会へ流出していきます。林業従事者も後継者が減少し、森そのものが弱っています。 そのような村の現状を変えるために、村人たちが力を出し合い、若者の雇用を生むプロジェクトをスタートさせました。

この村は冬場とても寒く、家庭でストーブを使うために大量の灯油を消費しています、そこで薪ストーブを普及し、林業の需要を作る試みを行ったのです。
 
プロジェクトの費用は、村人の灯油代をそのまま当てがいます。これにより暖かさは変わらず、若者の雇用を生み、過疎化にブレーキをかけ、林業従事者の増加で森の保全にも一定の効果が期待できるようになりました。

また灯油からバイオマスエネルギーに切り替えたことで二酸化炭素の排出も削減できるのです。
 
プロジェクトの規模はとても小さいですが、村の人々は自然エネルギーによる持続可能な暮らしを示しており、これからの取り組みが多いに期待されています。

このプロジェクトの中心を担っているのは、60歳をだいぶ前に超えた方々なのです。私は若者の一人として、このような取り組みを多いに学び、より良い持続可能な社会を実現するために貢献したいと思わずにはいられませんでした。
 
またプロジェクトのリーダーさんはこのようなお話をしてくれました。「当初、ないものねだりの日々で、全部他人のせいに、環境のせい、社会のせいにして半ば諦めていました。しかし、ネットワークに参加し、色々な人に出会い、学び、試行錯誤をしているうちに、あるもので、できることをやって行こうという考えに変わりました。そこから初めてスタートできたように思います。まだまだヨチヨチ歩きのプロジェクトですが、この事例が困っている地域の役に立てれば幸いです。」
 
素晴らしい仕組みや技術は、直接困っている人に手を差し伸べることはできません、それをするのは人だと思います。信州ネットの仕組みと自然エネルギーや省エネルギーの技術などが人に支えられ機能すれば、持続可能な暮らしを実現できるかもしれません。