日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!40号

■北陸支部活動報告

2012年度北陸支部大会(長野) シンポジウムの報告



西村 督 (金沢工業大学)


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 2012年7月21日信州大学工学部において、日本建築学会北陸支部大会シンポジウムが開催された。本シンポジウムの主題は、「北陸・信越地方の自然災害とその備え」である。この8年間に2004年新潟県中越地震、2007年新潟県中越沖地震、2007年能登半島地震、2011年東北地方太平洋沖地震後に発生した地震により、北陸・信越地方では深甚な地震災害に見舞われた。北陸・信越地方は元来、降雪の多い地域であり、依然と積雪被害は生じている。また全国的な気候変動の影響で風水害も発生している。

 本シンポジウムでは北陸・信越地方での自然災害の様相、建築物の被害発生の科学的分析にとどまらず、今後新たに起こりうる災害とは、災害にどう備えるかを4名の講演者が報告し、参加者と防災対策を考えるための情報交換を行った。

 まず本シンポジウムの目的、続いて近年の北陸三県信越二県での自然災害を信州大学五十田博教授より説明がなされた(写真1)。

 次に地震動と被害に関して、新潟大学加藤大介教授より2004年新潟県中越地震、1995年兵庫県南部沖地震、2011年東北地方太平洋沖地震での被害程度がIS値−損傷割合、耐震性能残存率の関係から比較検討され報告された(写真2)。今後、長周期地震動が発生した場合、石油タンク内の液体のスロッシングによる浮屋根の破壊と火災、高層建築物の昇降機設備の破損と予期せぬ緊急避難行動、免震構造の被害も想定される。最後に本震前後の大きな余震、地震被害後の積雪による建物被害、中山間地の地盤災害を含めた複合災害に対する備えの必要性を説いた。

 風・竜巻による建物被害に関して、信州大学五十田博教授から2012年5月6日のつくば市で発生した竜巻による建物被害の特徴が報告された(写真3)。べた基礎と伴に建物が転倒した甚大な被害から小屋組の破壊、屋根ふき材や外壁材の飛散と一般的な被害の説明がなされた。この竜巻では飛来物が外装材を破壊した被害が非常に多い。その結果、開口部が破壊して建物内部に入った風の吹上により小屋組の破壊へ至ったと考えられる例も見られる。

 積雪による木造建物の被害に関しては、金沢工業大学西村督准教授より二次部材の破損、主架構の破壊、全体崩壊という被害パターンの説明がなされた(写真4)。また石川県下で倒壊した建物を例に構造解析を実施し、小屋組架構と桁架構との接合部破壊を機に全体が捩れる座屈が生じ、全体倒壊に至る可能性が指摘された。今後予想される被害として、わずかな積雪荷重分布の違いで類似架構の建物が全体崩壊する危険性がある。積雪による建物被害を防止する備えとして、既存建築物の倒壊防止補強法の確立と屋根雪下ろしの実働体制の整備が述べられた。

 自然災害に対する自治体の取り組みに関して、長野県建設部建築指導課の小林弘幸氏により報告された(写真5)。長野県での耐震化促進の施策、特別豪雪地帯での克雪住宅の設計における留意点の説明がなされた。

 以上の講演を終えた後、パネルディスカッション形式で、1)自然災害と建築物の属性との関係、2)ソフトとハード両面の「備え」の在り方、3)研究的な視点からの懸念事項など、防災対策・計画を具体化していく上で重要な議論が交わされた(写真6)。