日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!41号

■建築の現場シリーズ(福井)

企業の方と語る会

五十嵐 啓
(福井工業大学工学部建築生活環境学科 准教授)



写真1 企業の方と語る会 


 若者が、勤め始めた会社をすぐ辞めてしまう傾向を称して「七五三退社」と言うそうです。大学生に限っては、3年以内の離職率が28.8%で、建設業だけにしぼってみても27.6%とほぼ同じ(2009年度 厚生労働省資料)です。私の身近なところでも、昨年は2名の学生が就職後1年足らずで辞めてしまいました。仕事の内容が考えていたものと違っていた、仕事で失敗をし、いたたまれずに辞めた等の理由であったと聞いていますが、1年近くにわたった就職活動の末にやっと働き始めた途端の離職は、学生にとってはもちろんのこと、採用した企業にも大きな影響があるはずです。

 近年は、就職支援を中心とした大学でのキャリア教育が本格化してきています。福井工業大学でも入学後すぐキャリアガイダンスや自己発見レポート作成の課題があり、2年次にはより具体的な業界研究に発展し、いよいよの3年次には、毎月1〜3回開催されるキャリア教育ガイダンスで、個々の企業研究やエントリーシートの書き方、面接対策などについて細かな指導が行われています。

 建築関係の仕事は多岐にわたりますが、ゼネコンや設計事務所ばかりが雑誌や記事で取り上げられるため、机上の情報だけでは学生がその他の仕事を実感として理解できないもの致し方ありません。本学の建築学科では、今年度初めての試みとして、卒業生や産学連携などでお世話になっている企業の方を頼り、3年生を対象に「企業の方と語る会」(写真1)を10月と11月の2回にわたって開催しました。毎回、建築関連の様々な分野の企業の方5〜7人を本学にお招きし、10人前後の学生グループに仕事のやりがいや辛さなどについて語っていただき、学生からの真剣な(時には失礼な)質問にもお答えいただきました。

 工務店の跡継ぎの方が多く、比較的年代の近い方々からの話であったこともプラスであったと思います。団塊の世代が本格的にリタイヤし始め、世代交代がいよいよ始まりつつある時代に、次世代を担っていく人材育成の必要性を強く感じていらっしゃるようでした。設計事務所の所長からも同じようなお話を聞く機会が増えてきました。

 終了後、学生にレポートを提出させましたが、大半が有意義な時間だったとの内容で、時間が40分では短すぎるとの意見も散見されました。

 講師の方には、全くのボランティアとしてすべて持ち出しで来ていただいています。将来の建築業界に進む学生のためなら・・との思いに今回は甘えさせていただきました。学生と語る会の後、昼食をとりながらの教員との懇談でも学生を送り出す側としての大学への要望などもお聞きすることができました。ご協力いただいた企業の方とは、その後も学生の作品発表時にコメンテーターとして大学においでいただくなど、交流が続いています。産学連携研究等の堅い話以外にも、学生を中心にした企業と大学との連携は、様々な可能性を秘めていると感じています。