日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!41号

■いきいき街づくりシリーズ(石川)

金沢市中心市街地の商店街と回遊性へのしかけ

内田 奈芳美
(金沢工業大学環境・建築学部建築都市デザイン学科 講師)



写真1 商店街で聞き取り調査中


 各地方都市の中心市街地の商店街が抱える問題の裏にはそれぞれ多様な背景があります。金沢の中心市街地の場合は、城下町が魅力でありながらその残された“骨格”自体が問題の背景になっています。まず城跡という都市の中心、およびその周りに拡がる古くからの商店街と、近代になって建設されたインフラである駅との間が離れているという点が挙げられます。次に、藩政期以来の道路骨格が車による金沢の中心部への移動を困難にしています(私はその方が魅力的だと思いますが・・・)。その他にも、中心地からの大学の移転、駅前の大型店舗開発などが重なり、中心部の商店街は来訪者の減少に危機感を募らせています。

 金沢の中心市街地には「5タウンズ」と呼ばれる中心に位置する5つの商店街があり、地方都市の商店街のまちづくりモデルとしてもよく取り上げられています。去年から今年にかけて、金沢市からの依頼のもと、私の研究室ではその中の1つである竪町商店街の歩きやすさに関する調査を行いました。竪町商店街は、中小企業庁の「がんばる商店街77選」でも取り上げられるほど、先進的な試みを行ってきた商店街です。しかし、それでも前述したような背景の中で、歩行者数が減少しつつあります。そこで、商店街のみなさんと商店街の歩きやすさに関する会合をもつだけでなく、「実際どのように使われているのか」という質的な面を明らかにするために、歩行者パターン分析のための追跡調査と路上での聞き取り調査を研究室の学生と共に行いました。

 これらの調査の結果から以下のことが分かりました。追跡調査から、商店街を回遊せず目的となる商業拠点に直行する歩行者が一定量いることが分かりました。多くの歩行者は繁華街の入口から進入し、周辺の商業施設には一切立ち寄らず目的施設のみに向かいます。ただし、そのような歩行者の中でも長い距離を通って商店街の繁華街側の入り口とは反対側にあるアニメショップに一直線に向かう歩行者を一部確認しています。その一方、路上での聞き取り調査からは、車で来て1時間以上商店街に居る滞在時間の長い歩行者も多いことが分かりました。この2つの調査結果の矛盾は、歩行者が商店街を面として捉えて回遊するのではなく、商店街の中の特定の店舗に長く滞在していることが背景にあるのではないかと考えられます。冬の悪天候と車依存型の生活を背景として、北陸では中心市街地の回遊性がなかなか生まれにくいことがよく言われます。しかし、人数は多くありませんが金沢市のコミュニティバス(“ふらっとバス”)や路線バスを利用して繁華街を訪れ、回遊し、再びバス停に向かう歩行者も見られました。やはりこのような公共交通機関の導入により歩行を促し、回遊性を刺激する仕組みが重要なのです。

 個人的には自家用車をあまり利用しない生活を続けていることもあり、歩ける中心市街地になって欲しいという思いは強くあります。市民が研究員となってまちづくり政策を提言する組織である金沢市市民研究機構にディレクターとして関わった際には、商店街を研究テーマとして選び、「歩ける商店街」の提言を行いました。この研究におけるヒアリング調査により、中心市街地と開発が進む金沢駅前との間に顧客獲得の競争の激化と商店街における客層の変化が生じたことが分かりました。また、これはあまり予想していなかったのですが、市の中心部を囲む環状線の整備が完了したことによって、商店街への来街者が減ったことも分かりました。これは、中心部の迂回が容易になったことにより、中心部の商店街に立ち寄る機会が少なくなったことが原因だそうです。回遊性は小さなスケールだけでなく、多様なスケールの計画が影響してくるのです。すなわち、中心市街地を大きく捉えた都市計画という視点も必要ですし、もう少し小さなスケールとしては、地域の人しか知らない魅力を持つ回遊ルートも積極的に来街者に知らせていく必要もあります。回遊性のための試みは、天候や地形などの場所性との一体となって考え、歩く楽しさ、快適さを見せていくことが大切であり、こういった点についてさらにまちに出て仕掛けていきたいと考えています。