日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!41号

■インタビューシリーズ(長野)

「空き家」の未来をデザインする
 −株式会社MYROOM:倉石智典氏


レポーター:梅干野成央
(信州大学工学部建築学科 助教)



写真1 空き家仕入


写真2 空き家見学会風景@


写真3 空き家見学会風景A


写真4 リノベーション事例


 まちでは、たくさんの建物が空き家となり、遊休化している。こうした状況は、多くの地方都市にあてはまるだろう。長野県長野市、善光寺の門前では、近年、空き家の紹介やリノベーションが積極的に行われている。今回、この活動を牽引する株式会社MYROOM(http://myroom.naganoblog.jp/e576802.html)の倉石智典氏に取材を行った。


【Ah】まず、倉石さんのお仕事についてお教えください。

【倉石】人には、分かりやすく説明するために「不動産屋です。」と言っています。ただ、それだけではなくて、リノベーションに関する建築の仕事もやりますし、お店などをやりたい人には、開業までのコンサルタントも行います。あるいは、引っ越すにあたって、ご近所さんやまちのことを紹介したりもします。要するに、こっちに空き家があって、こっちに住みたい人がいる、という状況に対してのマッチングを仕事としている、ということになります。

【Ah】お仕事の過程はどのようなものでしょうか。

【倉石】まず、1件1件、空き家を訪ね、探すところから始めます。このうち、物件として商品化できるのは、10件に1、2件くらいの割合です。大家さんに会えれば良いのですが、登記されておらず所有者が分からないケースが多々あります。物件を商品化した後には、それをウェブサイトにのせて紹介したり、見学会を開いたりします。そうすると、興味を持った人がきてくれて、お店などをやりたい人であれば、開店までに必要なプランを一緒につくります。それを進められそうであれば、契約をして、リノベーションを行うというプロセスです。シェアオフィスやシェアハウスの場合には、引き渡し後の入居者管理であったり、建物の維持を行います。

【Ah】膨大な仕事量だと思うのですが。

【倉石】そうですね。そのため、エリアを限定して、このまちだけで仕事をしています。それでなんとかやれているというところですね。

【Ah】エリアが限定されていることで、リノベーション物件に住んだ人のコミュニティーが生まれてきているのではないかと感じています。こうしたコミュニティーは、まちの外からやってくる新たな住まい手にとって、とても心強い存在になるのではないかと思います。

【倉石】そうですね。そういう風になればいいな、というイメージをもっています。とはいえ、あまり大げさに「まちづくり」という風には構えていません。自然発生的に、思いが共通する人たちがつながればよいなあ、と思っています。

【Ah】これまでに手掛けた物件はどのくらいの数になりますか。

【倉石】5、60件ですね。ほとんどが善光寺の門前です。門前では、昔から商売が盛んでしたので、新しくお店などをやりたい人には職場兼住居ということでよいのですが、住居だけを探している人には使いづらさがあります。そのためにも、次のステップとして、門前の周りのまちについても、進めていく必要があると考えています。

【Ah】5、60件の物件の客層はどのようなものでしょうか。

【倉石】20、30代が多くて、半分は県外からの方になります。もともとは、住居を想定していたのですが、たまたま、門前で始めたということもあってか、始めた頃はお店などを多く手掛けました。去年から今年にかけては、住居が続いています。

【Ah】全国的に空き家の活用に関する機運が高まってきていますが、門前での活動は、行政のサポートが十分とはいえないなか、市民主導で展開している好例だと感じています。なぜ、このような活動に展開したか、思うことはありますか。

【倉石】不動産業者が全面的にサポートし、地域でイベント的に見学会を開いていることが影響しているのではないかと感じています。こうした事例は、全国的にも少ない気がしますね。

【Ah】現在、空き家の見学会はどのくらいの頻度で行っているのですか。

【倉石】毎月行っていて、2年以上続けていています。毎回、入れ替わり立ち替わり、20人くらいが集まりますので、参加者の合計はすごい人数になってきていると思います。この見学会は、「門前暮らしのすすめ」(http://monzen-nagano.net/)というプロジェクトのなかで進めています。見学会のなかでは、ナノグラフィカ(http://www.neonhall.com/nanographica/)の方や、西之門町の町内会の青年部の方が、住民の立場で説明してくださいます。2時間くらいかけて、じっくりとまちを歩きます。ご近所さんとすれ違うと挨拶をしたり、お店に並んでいる商品をみたりしますので、まちの雰囲気がよく伝わるのではないかと思います。

【Ah】空き家を探すことに始まり、その紹介やリノベーションに至るまで、まちの再生に向けた重要なモデルが構築されているように思います。

【倉石】おそらく、リノベーションというものが普及したきっかけは、アーティストやデザイナーのスタイルで、かっこいいというところが入り口かもしれませんが、少しずつ、古くてこぢんまりとしたまちに住むほうが暮らしやすい、という感覚が芽生え始めているように感じます。こうした背景もあって、まちが仕事になると思い始めている人が生まれてきているように感じます。昔は、地方に仕事がないという認識が主でしたが、最近は、まちのコミュニティーを題材として仕事を始めたひとが出てきていると思います。私もまちを相手に空き家を紹介したり、リノベーションしていますので、その一人だと考えています。

【Ah】まだまだ話は尽きませんが、今後もご活躍を注目していきたいと思います。本日は誠にありがとうございました。

(取材日:20012/11/26)