日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!41号

■講演会レポートシリーズ(富山)

防災と建築 −火災に強いまちづくり

秋月 有紀
(富山大学人間発達科学部人間環境システム学科 准教授)



写真1 会場の様子


写真2 田中先生ご講演風景


写真3 樋本先生ご講演風景


 平成26年北陸新幹線の開業により、首都圏との繋がりが今後ますます増えて北陸経済の発展が期待され、新幹線駅周辺を中心とした大規模な複合用途建築物の開発や、これまでに想像していなかった大量の人の流動が予想されている。北陸地方は全国的にみて出火件数の非常に少ない、火災に強いエリアであり、特に富山県は十数年にわたり出火率最下位を誇っているが、建築火災から人命や財産を守るための火災安全設計について、改めて見つめ直す時期に来ているといえるだろう。

 そこで2012年11月9日(金)15:30〜18:00、富山県民会館304特別会議室で、富山県建築住宅センターとの共催により講演会「防災と建築 火災に強いまちづくり」を開催した。講演者として建築防火研究を行っている田中哮義氏(京都大学名誉教授・立命館大学)と樋本圭佑氏(京都大学助教)を招き、火災安全設計の在り方と伝統的町並における市街地火災対策について話題提供を頂いた。

 「火災安全設計の在り方(田中氏)」では、建築基準法の性格や防火基準の制定過程および建築物の防火上備えておくべき要件について、過去の都市・建築火災事例を踏まえながら解説され、仕様書規定が多い建築基準法の防火規定が何を目的とした規定でどんな性能レベルを求めているのかについて分かりやすく講義して頂いた。また性能的火災安全設計の考え方について紹介され、これを有効に利用するためには、設計者側で火災のリスクに対する健全な判断力が必要であることを言及された。また火災安全のための制約をネガティブに考えるばかりでなく、より良い社会的資産を形成するという視点を持つべきであるとの提案をされた。

 「伝統的町並における市街地火災対策(樋本氏)」では、都市地震時の同時多発火災の延焼に関して、物理的基盤に立脚して樋本氏・田中氏が開発した市街地火災延焼モデルについて紹介された。この延焼モデルは、現代の都市における地震火災による焼損リスクとリスク低減対策の評価のためのより適切なツールとなっており、具体例として京都市東山区一帯の重要伝統的建造物群保存地区の地震時火災被害状況の予測シミュレーションを示された。また京都府与謝郡加悦町における防災計画の事例を通して、防火対策・戦略的消火方法の技術的検討の限界を示され、災害対策は高齢者対策などのまちづくりに根ざして始めて機能することを言及された。

 出席者は建築学会員・富山県庁・富山市役所・富山大学などの関係者計86名であり、活発な質疑応答が行われながら、成功裏に終了した。