日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!42号

建築文化週間2012 開催報告 〜福井支所〜

第2回越前・若狭の建築文化探訪



市川 秀和
(福井工業大学建築生活環境学科 教授)




写真1 見学会に集まる参加者


写真2 数寄屋の建築について語る吉江勝郎氏


写真3 茶亭「松堂庵」の全景


写真4 茶亭「松堂庵」の内部


 福井支所の「越前・若狭の建築文化探訪」は、地元の建築文化の再発見と情報発信を目的として昨年度より始まったばかりの例年企画である。昨年度の第1回「勝山の民家見学と講演会」(2011.11.13.)では、新たに国重文指定となった「旧木下家住宅」の見学会と、「蘇った古民家・小原古民家修復活動」と題した吉田純一氏(福井工業大学教授)の講演会を開催し、大盛況であった。これに続く今年度の第2回では、11月25日に鯖江市西山公園を会場として「嚮陽庭園・茶亭「松堂庵」見学会」を実施した。

 鯖江市西山公園は、春のツツジと秋の紅葉で満たされる市民の憩いの場であるとともに、「日本の歴史公園百選」の一つとしても知られる。そもそも西山公園は、当地における幕末の老中で7代鯖江藩主・間部詮勝が、領民のために造成した遊興地「嚮陽渓」に始まることから、現在当公園内には日本式庭園の「嚮陽庭園」がある。この庭園内に福井工業大学・吉江勝郎氏の設計による茶亭「松堂庵」が完成したことから、今回の企画が実現した。なお茶亭名の松堂とは、間部詮勝の号に由来する。

 見学会当日は、終日天候に恵まれ、晩秋のさわやかな日和のなかで、多くの市民の方々が庭園内を散策されるとともに、茶亭「松堂庵」での午後1時と3時の見学会には、100名を超える人々で大いに賑わった。設計者の吉江勝郎氏は、この茶亭の雰囲気なり佇まいを創作するに当たり、嚮陽庭園の落ち着いた風景にすっぽりと溶け込むように、「庭屋一如」の数寄屋の意匠心でもって取り組んだことを熱く語った。また伝統木造建築の中でも数寄屋の空間は、総合的な芸道としての茶事を介した人間と建築が深く繋がる究極の場を現象させるのであり、そのためにも柱・梁・壁・床・窓・床など素材と造作にきめ細かい表現のあり方を追求していると話す吉江氏に、立礼席での参加者は聞き入り、さらに多くの質問が交わされて、とても充実した貴重な見学会であった。