日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!43号

■北陸支部活動報告

2013年度北陸支部大会(石川)
報告:
学生による語り合いのシンポジオン


内田 奈芳美
(金沢工業大学環境・建築学部建築デザイン学科 講師)




写真1 発表風景


写真2 審査風景


 2013年度北陸支部大会概要 支部大会での学生との対話を促す目的もあって、「学生による語り合いのシンポジオン」と題してポスターコンクールが行われた。ポスターのテーマは、「30年後の北陸」、である。全部で26点のポスターが集まった。当日は審査委員が審査投票用紙(ポストイット)を持って記名方式で公開審査を行い、1〜3位と特別賞を決めた。

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受賞作品についてはこちらをご覧ください。

 1位(最優秀賞)になった作品はダントツの評価を得た信州大学の学生による、まちの隙間をうめるしつらえの提案である。そのセミパブリックなしつらえの中では、相互交流がおこなわれるとの提案である。30年後にはより人口が縮小し、空洞化していくなかで、いわゆるかっちりした建物ではない、こういった「しつらえ」がまちの隙間を埋めていくこともありえるだろう。ただ、敷地境界の問題や、誰が主体となってこういうしかけをおこなっていくのか、というと疑問だが、ともあれポスターとしてのプレゼンテーションがたいへんよかったので、たくさんの票をあつめた。

 2位(優秀賞)は、石川工専の学生のポスターである。これは町家や環境問題などの象徴的なことがらや要素をダイアグラム的にポスターに配置した、将来を暗示させるようなデザインのものである。彼らは実際会場にやってきて、ちゃんと自己PRをおこなったところもよかった。デザインも、わかりやすさが際立っていたと思う。好感度が高いポスターであった。

 3位(優秀賞)は、これも石川工専の学生によるものだが、原発が廃炉したあとをひとびとの目的地にしようとする案である。30年後の人々によびかけるようなメッセージが書かれていた。現代的な課題をもとに、自分なりの表現での解決法を模索した作品である。

 ともかく学生がたくさん応募してくれたのはすばらしかった。シンポジオンは今後も継続して行われるだろうけれども、気になったこともある。まず、ポスターを出したならば、こういった審査の場はなるべく見にきた方がいいだろうという点である。ふつうのコンペならそれはかなわないことでも、これは「対話」をある種目的にしているのであり、ポスターを出すことだけが目的ではないのである。対話の中で、新しい発見をしていく、そういったプロセスを体験することは非常に重要なのだ。それから、ポスターを作成する上で対象とする場所や空間についても気になった。とくに金沢を対象としたポスターは、扱う空間要素や場所がにかよっていたのである。もちろん、それに課題が集中しているから・・・ともいえるのかもしれないが、金沢のことをもちだせば、金沢という都市は重層性がその魅力のひとつなのである。生活者の目で、よりふかい部分の魅力や課題を見つける目をもってほしいと思ったのが正直な感想だ。最後に、これは当日も言ったのだが、「北陸」というものは当たり前だがひとつの呼び名でしかなく、それぞれの地域がもつ土壌はまったく違うものであり、例えば縮小する都市、という課題ひとつをとっても、その問題の濃淡はくっきりと分かれているということである。一般化できる都市課題はないはずであり、発想する出発点の時点でそれを意識して考えてほしいな、というのが審査をした立場としてのわたしの感想である。
 いろいろと申し上げたが、応募してくれた学生たちには感謝をもうしあげる。それぞれの個性があったし、今回も作品をつくるなかで培われたであろう、自分が考えるうえでの根っことなる部分はこれからも大切にしてほしい。