今、福井県小浜市のまちづくりにおいて、話題になっている古い建築がある。明治から昭和にかけ、芝居小屋、多目的ホール、映画館などに利用されてきた旭座という芝居小屋である。芝居小屋は大正期の全盛時代に全国で少なくとも3千はあったとされているが、現在は30ほどしか残っていない。福井県内では、旭座が唯一残る芝居小屋としてその姿をとどめている。
旭座は昭和初期から戦後にかけて映画館、自動車修理工場、さらに酒造店の倉庫としてその用途が変化し、現在は祭りの稽古場としても使われている。
小浜市は古くから大陸との交易があり、日本海側屈指の要港として栄え、陸揚げされた大陸文化や各地の物産は「鯖街道」などを経て、近江、京都、奈良にもたらされた。このように港町として栄えた小浜は、多くの芸能娯楽文化を生み出した。
また、小浜市の西部には小浜西組重要伝統的建造物群保存地区があり、近世前期の街路の構成と近世末期の地割が残り、近世から近代に建てられた商家や茶屋、寺社など、商家町や茶屋町、寺町が併存する近世城下町の景観を今に伝えている。旭座はその小浜の文化を象徴し、現代に伝える貴重な遺構といえるのではないだろうか。
建物は木造平屋建て、一部2階建ての入母屋造り桟瓦葺きである。正面から見ると、鬼瓦、立浪型鳥衾、朝日の形をした懸魚、妻壁の木連格子が印象的である。奧の舞台部分は(現在舞台は取り払われている)和組みで、大きな梁を見ることができる。それに対し、客席部分は洋式トラス構造で、小組格子の天井で覆われている。また、建物内部の部材は、ほぞ穴、ボルト穴などが残されており、復元のよりどころとなっている。
数年前から小浜のまちづくりのシンボルとして注目されはじめ、最近では地域の有志により、旭座を広く知ってもらうようにとJAZZライブが開催され、心地よい音楽とともに、レトロな雰囲気に包まれた魅力的な空間がつくり出された。
今年前半には、検討会議の場が設けられ、中心市街地の再開発跡地に旭座を再生し、重伝建地区へのまちなか観光の拠点として、まち全体の賑わいをつくりだす「まちの駅」の整備について議論が交わされ、計画案がまとめられた。
適度なスケール感、レトロな雰囲気、木造の暖かい質感など、居心地のよい空間を演出できる建物として、今後の活用が期待されているところである。