日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!44号

■インタビューシリーズ(新潟

シティホールプラザ アオーレ長岡の建設と現状
 −長岡市中心市街地整備室総括副主幹 相田和規氏


レポーター:澤田雅浩
(長岡造形大学造形学部 准教授)



図1 アオーレ長岡の配置図
(長岡市中心市街地整備室提供)



写真1 アオーレ長岡で開催された
成人式の様子
(長岡市中心市街地整備室提供)



 今回は平成24年4月にオープンした新潟県長岡市の新しい市役所、「シティホールプラザ アオーレ長岡(設計:隈研吾)」について、建設までの経緯、現在の状況などを長岡市中心市街地整備室 相田和規氏にうかがった。

●市役所機能のまちなか回帰について

【Ah】長岡市は、昨年4月に「シティホールプラザ アオーレ長岡」の建設を長岡市中心市街地に行いましたが、その経緯について概略を教えて下さい。

【相田】長岡市では、中心市街地を取巻く都市の構造を抜本的に見直すため、平成15年5月に学識経験者をはじめ、地元商工会議所、有識者等の参画を得て「長岡市中心市街地構造改革会議」を立ち上げました。当時、国政では小泉政権下のもと、郵政の民営化をはじめとした「構造改革」といった言葉が非常に流行ったことを記憶しています。それぐらいの勢いを持って、中心市街地にテコ入れを図るといった、当時の市長の思いであったと記憶しています。その会議では、まちなかのまちづくりの基本理念として「長岡広域市民の『ハレ』の場となる新しい長岡の『顔』づくり」という基本的な理念が示されました。さらに、基本方針として、@市役所機能のまちなか回帰が先導する「まちなか型公共サービスの展開」Aまちなかを舞台とした「市民協働」の積極的な推進という考え方が示されました。郊外化の進展によって多極分散型となっていたまちの構造を、中心市街地へ都市機能を再集積させていこうという考え方を基本に、市内中心部で懸案となっていた長岡市厚生会館(昭和33年建設)の建て替え、平成16年に発生した新潟県中越地震の被災に伴う市役所の耐震性に関する課題、更には、既に取り組まれていた中心市街地から撤退した大規模商業施設(旧丸大デパート)の空き店舗での「ながおか市民センター」の展開なども後押しする形で、建設が始まりました。

●市民協働の展開

【Ah】まちなか型公共サービスの展開は市役所の中心市街地回帰によってある程度担保できますが、市民協働はどのような形で位置づけられたのでしょうか。

【相田】先の「ながおか市民センター」から長岡における市民協働の実践が始まったと思います。極力役所らしさを抑え、市民が育てていく施設をコンセプトに、自由で規制が少ない空間を提供するよう、当時は、市長から何度もその話を聞かされたことを覚えています。開設当初は、市役所の窓口サービス、ちびっこ広場や多様な市民活動の受け皿としてのフリースペースなどを確保しました。そこでは、多くの人が多様な活動を展開し、自然発生的に中・高生の自習スペースが形成されたり、ちびっこ広場で子育て中のお母さん方の大切な交流の拠点へと展開していきました。

●シティホールプラザ アオーレ長岡の誕生

【Ah】どのようなかたちでこの建物が建設されることになったのかを教えて下さい。

【相田】指名コンペによって選出された建築家の「隈研吾氏」によって、ナカドマ(屋根付き広場)を介してアリーナや市役所、議会などをシームレスに結びつける空間が提案されました。建設に際しては、地場産の杉の間伐材などを用い、また、ナカドマの舗装にも工夫がこらされています。結果として温かみがあり、にぎわいのある空間ができあがったと多方面から評価されています。完成は、当初平成24年1月ごろを予定していましたが、東日本大震災発生に伴う建築資材不足などもあり、平成24年4月にオープンすることになりました。延べ床面積は約3万5千平方メートル。半分以上は市民の交流スペースです。また、同時並行で長岡駅から直結するペデストリアンデッキも整備されたため、冬の降雪期でも濡れずにアクセスできる環境が整っています。先ほど、各種の空間がシームレスに連結されていると話しましたが、最大5千人が収容できるアリーナとナカドマもまたシームレスにつながります。これらを一体的に利用することで、巨大なイベント空間が生まれ、市民の方々が主体となったイベントが数多く実施されています。毎週のように、さまざまなイベントが開催され、それ以外にも多くの人がこの場所を使っています。

●建設後の利用状況

【Ah】かなりの方が利用されているということですが、具体的にはどの程度でしょうか。

【相田】建設直後ということで、とりあえず施設見学に来られている方もいるとは思いますが、平成24年度は、実に約152万人の方々が施設を訪れています。これは予想をはるかに超えたと思います。その状況は、平成25年度になっても変わらず、長岡市中心市街地構造改革会議で示された『ハレ』の場として機能しているだけでなく、身近な自分の居場所としても皆さんに親しまれている様子がうかがえます。

●おわりに

 アオーレ長岡が長岡市中心市街地でオープンしてから、1年半が経過した。オープン当初の賑わいが一段落した後も、人々があたらしくうまれたナカドマで思い思いに過ごしている様子が連日見られている。確かに長岡市のまちなかにはこのような「広場」空間はこれまで見当たらず、まちなかで過ごそうとする人は大型商業施設などに行くしかなかった。施設の特性上、その場合外部からは人の気配は感じられず、通りを歩く人が少なければ中心市街地は閑散とした雰囲気とならざるを得ない。現在はナカドマを中心として多くの人の気配がまちなかに生まれてきた。なんとなく楽しそうな雰囲気も醸成されてきた。その点で中心市街地の活性化に新たな可能性を示した事例であるともいえよう。ぜひ一度機会を見つけてこの空間を体験してほしい。